終3章「対峙せよ」
「おいおい、なんだあれ。随分とパワーアップしているな」
「前に会った時もパワーアップしてたんだけどな」
ベルとイデアルは、ただでさえ前回で変わり果てていた姿を見て驚いていたが、今回の姿は最早人間と呼べるものでは無かった。
ここに来るまでの全てを飲み込んで来たのだろう。
至る所に瓦礫や鉄、更にはアンドロイド達までもが飲み込まれている。
巨大な物体には手足や顔は無く、寸胴で巨大な蛇やミミズの様に地面を這う様に動いている。
ゆうに民家の大きさを越えるそれが動いた後はその形に沿って地面がへこんでいる、巨大な物体は地面すら飲み込んでいる。
「ははははあああ」
顔、だろうか。突然巨大な物体から顔が現れる。
「はっ随分とイケメンになったんじゃねえか?」
「こんな時に馬鹿言ってないで! どうするのよあれ……」
「ガンデスの見た目よりはマシだ」
剣を構えるベルとゼノ。
リリーとイデアルも戸惑いながらも戦闘準備をする。
「ははははははは!」
ガンデスは笑いながらリリー目掛け突っ込んでくる。
見た目の割に早い動きだが、避けられない速さではない。
各々が左右にかわす。
続けてガンデスがリリーの方向へ身体を寄せる。
「あくまでリリー狙いかよ!」
ゼノはガンデスに向け剣を振るう。
しかし、剣はガンデスを切り裂く事はなく、寧ろガンデスに飲み込まれてしまった。
「ゼノ!」
ベルがゼノを後ろに引っ張る。
間一髪ゼノは飲み込まれてる事なく助かる。
「ありがとう、しかしなんなんだこいつは」
立ち上がるのと同時に距離を取る。
「時間を稼いで下さい!」
遅れて出てきたネシアが叫ぶ。
「あれは液体金属です! 今周りのアンドロイド達から熱波を放ちます。彼から離れて下さい!」
ネシアの合図でパコイサスにいる全アンドロイド達が一斉に口を開け、声を出す。
「「「こーんーにーちーはー」」」
思わず耳を塞ぎたくなる程の不協和音と同時に、かなりの熱を感じる。
人間であるリリーとゼノの皮膚が一部一瞬のうちに焼け焦げ、アンドロイドであるベルとイデアルの身体も溶け始める。
「こっちです! 早く!」
ネシアは急いで事前に用意していた防空壕の中にベル達を匿う。
「原始的ですが、これで外の様子が見えます」
ネシアが指先した先には何重にも貼られた透明な板があり、そこから外のガンデスの様子が見える。
対熱用に用意された板を何重に張り巡らせいても、溶け始めベル達にまで熱が伝わっていた。
「あっつ……」
「一瞬でここまで」
ゼノとリリーは自身の腕を見る。
焼け焦げた部分からは焦げ臭い匂いがする。
「大丈夫か?」
「ええ」
「そっちこそ」
二人を心配するベルの右腕も一部が溶けていた。
「おい皆! 見てみろ!」
イデアルが腕の事など気にせず、ガンデスの様子を伝える。
あれ程巨大だったものは熱に溶けベル達と変わらない、本来のアンドロイド程度の大きさにまで戻っていた。
「液体金属、その名の通り液体の性質を持っているなら、蒸発させるのが一番早いです」
外に出たネシアが言う。
外はまだ熱波により、尋常じゃない暑さをしていた。
「ガンデスどころか全部溶かしてるじゃねえか」
ゼノが言う通り液体金属は勿論、熱波を出していたアンドロイドや民家までも溶かしていた。
外に出た瞬間、暑さがベル達を押そう。
相当な熱を出していたことが容易に想像できる。
「皆さん、先ほどの続きを……」
ネシアがガンデスが機能停止しているのを確認した後語り始める。
この無限ループは確かにアルビオンが引き起こしたものではあるが、途中からそれを管理し始めたのは自分だと言う。
「じゃあお前は敵なのか!」
剣を取り出すイデアル。
「やめろ!」
イデアルとネシアの間に割って入るゼノ。
リリーもゼノの傍に立つ。
「ごめんなさい、私もゼノの方に味方するわ」
「リリー、ありがとう」
「そうか……」
「容赦しないぞ、二人共」
ネシアに向けていた剣をゼノの方に向け直すイデアル。
ベルはただそうかとしか言えない。
「待ってください、私は貴方達が争うのを望んでいません。争うのは私の話を聞いてからにしてください」
そう言ってネシアが止め、再び無数のモニターがある部屋へと案内する。
---
ネシアが皆を案内し、この世界が何故無限ループし始めたのかを語り始める。
「そもそもの目的は貴方達とは変わりません」
「どういう事だ?」
「私もアルビオンを破壊したいと考えているという事です」
ネシアの語る目的とはアンドロイドの解放だった。
現在この世界で活動しているアンドロイドはイデアルやネシア等の一部を除いてアルビオンによって制御されている。
ネシアはアンドロイドにも生き物としての権利があると考えている。しかし、アルビオンはその権利すらアンドロイドに与えていないのだ。
「理由は分かったが、なぜ俺達に協力する?」
ゼノが問いかける。
「それは貴方達が『異端者』と呼ばれているからです」
「異端者……まあ普通ではないがな」
本人たちもいつから異端者と呼ばれ始めたのかわからない、オメガを表す名称。
ネシアはそれを切っ掛けにベル達オメガに目を付けていた。
「この者達ならアンドロイドを解放してくれるかもしれない、真の自由を手に入れられるかもしれない」いつしかそう考えていた。
「そもそも何故この世界の魔法が五種類だけだと言われているのかわかりますか?」
ネシアの問題に答えられる者はいない。
「それは火、水、風、雷そして光。これらの全てが『科学』で利用できるからです」
科学と言う聞きなれない単語が出る。
口々に科学という単語に難色を示す。
「いや、俺は見た事がある」
「俺もだ」
イデアルとゼノが口を挟む。
イデアルはノースクで資料を読み漁っていた時に、ゼノはオーと出会った辺りで科学に関する資料を読んでいた。
「確か今から二千年前に科学者っていう人間が来てからその科学ってのが流行り出したって書いてあったな」
ゼノが読んだ資料の事を思い出す。
「はい、その通りです。その時からこの世界に科学が生まれ、大きく成長しました。私たちアンドロイドもそもそも科学の技術力の賜物なのですよ?」
衝撃の事実に皆面喰っており言葉が出ない。
特にリリーの顔色が優れない。
「大丈夫か?」
「ええ……」
思わずベルが声を掛けるも、「続きを」といってネシアの話を聞こうとしている。
誰が見ても明らかに無理をしていると見て取れる。
「そうですか、では続きを……私が特に目を付けていたのがあなた二人です」
ネシアはゼノとリリーを指差す。
「俺達を?」
「何故……」
戸惑う二人。
「始めは一番期待していませんでした」
そう言うネシアはこの世界の裏側の出来事を語り始める。
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