終2章「進み続けろ」

 パコイサス国内に入った一同。

 まず始めに感じたのは、パコイサスと言う国の異常さ。

 国民の全てが前から後ろから、上から左右から。その全てがベル達に向けられていた。

 瞬き一つせず、動く事も無くただ見ているだけ。


 いや、違う。

 よく見ると小刻みに震えている。

 口元も微かに動いている。


「なんだ?」


 ベルは不用意に一体のアンドロイドに近づく。

 手が届く距離にまで近づいた時、急に全てのアンドロイドが動き始める。


「あぶねえ!」


 ゼノがとっさにアンドロイドとベル間に割って入る。

 アンドロイドは吹き飛び、数体のアンドロイドを巻き込みながら倒れ込む。

 そのまま起き上がろうとはしていない。


「おはようございます!」


 一斉にアンドロイド達が喋り出す。

 おはようございます、おはようございます、おはようございます……。

 永遠に挨拶を繰り返す。


「なんだよこれ……」

「耳が痛いっ!」


 アンドロイドであるベルとイデアルには多少うるさいと感じる程度だったが、人間であるゼノとリリーには超音波の様に耳障りで、頭痛がする程の音だと感じている。


「そうか……ゼノだったのか」


 爆音が流れる中一人の男が現れる。

 同時にアンドロイド達の挨拶も鳴りやむ。

 ゼノは男の顔を見て、思わず涙が零れる。


「ネシア……」


 ゼノとネシア。実に約十年ぶりの再会となった。


---


「さあここだ」


 ネシアに案内されパコイサスの城の中に入る。

 「君たちの求める答えは此処にある」そう言ったまま、ベル達を連れてきた場所はノースクの王座の間と全く同じ構造の部屋だった。


「ネイガス……」


 改めて見るネイガスはやはりガンデスと瓜二つだった。

 ポツリと呟くベルの言葉に反応したゼノとリリー。

 イデアルも面識があった為頷く。

 ネイガスは魂が抜けたかのようにじっとして動かない。


「もしかしたら!」


 イデアルはネイガスに近づき右腕を確認する。


「やっぱりそうだ、S-2012こっちが本物のガンデスだ!」

「何!?」

「どういう事!?」


 リリーとベルも信じられず、自分の目で確認しようとネイガス近づく。


「なあ……ネシア、今までこんな所で何してたんだよ」

「ゼノ……僕は……」

「今まで俺がどれだけ心配したのかわかってんのか!」


 ネシアに詰め寄るゼノ。

 ベル達は慌てて引きはがす。


「おい、気持ちは分かるけど落ち着けよ!」


 必死に宥めるが止まらない。

 そんなゼノを哀れみか、不憫に思ったのか、ネシアから発せられた言葉に思わず動きが固まる。


「ゼノ……僕は、アンドロイドだ」

「は?」

「正しくは僕はネシアの情報を入れたアンドロイドだ」


 何を言っている?と言葉の意味がわからない。

 きっと生きていると信じてここまでやってきたのが無意味と知る。


「本人はどうした?」


 ベルが聞くが、ゼノには聞かなくても答えは分かっている。

 あの時の状況からネシアが助かる手だてが無かったのだ。


「もういい、ベル」


 ゼノはベルを引き止め、ネシアの目的を問う。


「はい、貴方達はこの世界が無限ループしていると気づいている筈です。そして生前のネシアは僕に一つの命令をしました」

「それって、この無限ループから抜け出す事か?」


 鋭いイデアルにネシアも「そうです」と答える。


「何故そんな事を?」

「そうだ、ネシアは何故?」


 ゼノとリリーは納得が出来ない。

 そもそもネシアは何時無限ループしている事を知ったのか。

 知っていながら、何故アルビオンが管理しているアンドロイドを利用したのか。

 聞きたいことは山ほどあったが、ネシアはその質問達を無視してさらに奥へと案内を始める。

 どうやらそれしかプログラムされていないらしい。一方的に喋るだけで、一見会話が成り立っている様に見えて成り立っていない。


「とにかくついていくしかないだろ」


 そう言ってベルはネシアについていく。

 他の者、特にゼノはもやもやする気持ちを抑えながらもネシアについていく。


---


 玉座の間から一つ奥に部屋があった。

 部屋の内装は、物々しい角ばった箱の様な物ばかりで、一つ一つに何処かを映している。

 ネシアはそれをモニターだと言う、映像を映し出す箱モニター、それが無数に存在していた。


「ここ! ノースクじゃないか!」


 イデアルが叫ぶ。


「こっちはアーファルス! エデンも!」


 それだけでは無い。

 ベル達が住むアジトも映し出されている。


「全部映ってる……」

「これで全部見てたって事か」


 リリーとイデアルはモニターに夢中だ。


「こんな部屋があったなんて……まさかあの時も?」

「はい、そうです」


 ベルやイデアルが来たときには気づかなかった。

 あの時に既に、いやもっと前にはもうネシアは死んでアンドロイドと入れ替わっていたのだろう。


「それで、俺達をこんな所に呼んだ理由はなんだ?」


 ゼノが本題に入ろうとする。

 それによりモニターに夢中だった者もネシアの方に注目する。


「先程も言いましたが僕はネシアによって作られ、この無限ループを終わらせる為に存在しています。ですが、それを邪魔しようとする者がいます」

「もしかしてガンデスか?」

「はい、そうです」


 皆が予想し、その度に否定した事。

 ガンデスは敵では無いと信じていたが、そもそもそのガンデスが偽者だった。


「彼はアンドロイドではありません」

「何!?」

「じゃあ人間なの!?」


 ゼノとリリーの目が輝く。

 人間のガンデスが生きている。例えそれが敵だとしても。


「そして人間でもありません」


 ゼノとリリーの目が曇る。


「じゃあ何者だ?」

「それは……」


 続きを喋ろうとするネシアを遮り、大きな音が響く。

 パコイサスを破壊して回っている音が響く。

 金属がぶつかり合う金切り音が響く。


「なんだ!?」

「とうとうばれてしまった様です、予想ではもう少し後だったんですが……」

「ガンデスか!」


 ここでベル達を襲ってくる相手はガンデスしかいない。

 皆が一斉に戦闘態勢に入る。


「やるしかないのか」

「お留守番でもしとくか?」


 イデアルがゼノに投げかける。


「はっ冗談! もう覚悟は出来てる」


 皆が外に出る。

 ガンデスと対峙する為に。

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