第三部 過去編

真6章「リリーの記憶」

「リリー」


 誰かが私を呼ぶ。

 声の方を向くとガンデスが帰って来ていた。

 私はガンデスへと駆け出す。


「ガンデス、おかえりなさい」

「他の奴らは?」


 ガンデスは両手にたくさんの荷物を抱えている。

 その中の一つを受け取りながらアジトの方へ向かう。


「パコイサスの様子はどうだったの?」

「ああ、相変わらず賑やかだったよ、街中も城の中も」

「そう、よかった」


 ガンデスは久しぶりに故郷のパコイサスへと里帰りしていた。


「おねいちゃん!おじさん!お帰りなさい!」

「ナーファ、いい子にしていたか?」


 8歳になる少女ナーファは戦争で両親を亡くしている孤児であり、このアジトはそんな孤児を保護する為に建てられた養護施設の様な物だ。

 ここには後もう一人、ナーファと同じ8歳のゼノという少年がいる。


 彼も戦争で両親を亡くしここに拾われたのだ、しかし、両親の死というショックからかあまり喋らない。

 ガンデスは今は時間が必要なタイミングだからもう少し様子を見ようと言っていたが、本当にそうだろうか……。


 私自身も、戦争ではないが、母が事故で行方不明になっているので少しは気持ちがわかるのだが、少なくとも時間が解決してくれることは無かった所か増々やるせない気持ちになっていた……だからこそ私はゼノに積極的にいかなければならないと思っている。


「積極的にといってもなあ……具体的にどうする?」


 ……それを一緒に考えて欲しいのだけど。

 ガンデスは余り協力的では無いわね。


「あ、そうだ」


 都合が悪くなったのかガンデスが別の話題を出す、いつもこうだ全く話が先に進まない、結局ガンデスのペースになってしまう。

 うんざりしながらもガンデスの話の続きを聞く。


「たまたまエデン管理局の人に会ってこの施設の事を話したんだが、大いに感動してくれてな、ぜひその活動に協力させてくれと申し出があったんだ!」

「本当に!?」

「ああ、早速翌日にこっちに来てもらえる事になっているんだ」


 よかった、エデン管理局といえばこの世界の平和を第一に活動し、戦争撲滅を掲げている組織の第一人者じゃない!これで今の現状も少しはいい方向に変わるかもしれない。


(こうしちゃいられないわ、色々話す事を考えておかないと……)


 リリーはガンデスに準備してくると言い部屋へと向かう。

 その様子を後ろから満足げに眺めるガンデス、これまで余り協力的にできなかった自分が初めて力になれた気がした。


「俺も色々準備しなきゃな!」


 ガンデスもリリーにならい部屋へと向かおうとしたが、ナーファとゼノに止められる。


「おじさん、お腹減った・・・」


 思わず笑みがこぼれる。


「もうそんな時間か・・・そうだなご飯にしようか!」


 この子たちの為にも出来る限りの事はしようと改めて決意を固めるガンデス。

 明日、この状況を大きく変える、いい方向に、戦争の無い世界に、

 それぞれの決意を胸に時間は明日へと進む……。


---


「おはよう、リリー」


 翌日、先に目を覚ましていたのはガンデスだった。


「おはよう、ところでエデンの人は何時に?」

「もう少しで来るはずだが……」


 ガンデスが言うと同時にドアをノックする音が聞こえる。


「来たようだ」


 ガンデスがドアを開け扉の前の人物と軽く挨拶を交わす。

 親しげに話す様子からお目当てのエデン管理局の人物がやってきたのだろう。


「リリー、紹介しよう、エデン管理局の総務部のブリッツさんだ」


 ガンデスに紹介されたブリッツと名乗る男が「どうも」と頭を下げる。

 こちらも「どうも」と一言、第一印象はごく普通、悪く言えば平凡な顔つきといった印象だった。

 失礼だが、エデン管理局なんて大きな組織に所属しているとは思えないが・・・見た目だけで判断するのはよくない、とにかく話を聞こう。

 何か突出している才能があるからこそエデン管理局に入る事が出来たのだろうから。


「実は私あるプロジェクトの提案をしているんです……」


 ガンデスに案内され、テーブルに腰を落ち着ける。

 一息ついた後、開口一番にブリッツは話し出す。


「というと?」


 ガンデスは興味津々といった様子でブリッツの提案というものを待っている。


「ええ、貴方方も今の現状は知っているでしょう? 意味の無い戦争、特にアーファルスとノースクの戦争が激しいです。貴方方もそんな戦争で生まれた孤児を引き取っている聞いています……そこで私が考案するプロジェクトというのがこちらです」


 そう言うとブリッツは一つの分厚い資料を取り出しテーブルの上に置く。

 テーブルの上に置かれた資料には「業務用アンドロイド導入・運用計画」と書かれていた。


「アンドロイド……ですか?」


 アンドロイドという聞きなれない単語に、いまいちピンとこないガンデスにブリッツはさらに続ける。


「年々人の数は減っていき、さらには農作物といった食糧。つまりは人間が生きるためのものが足りなくなっているのはご存知でしょう? そこで私はこのアンドロイドを人手の足りない場所に送り、人間の代わりに働いてもらおうと考えているんです」

「そんな事が可能なのですか?」


 リリーは到底信じられない物事を聞いて思わず口を挟む。

 言葉には出さなかったが、ガンデスも同じく信じられない様で口を紡いでいる様だった。

 その姿を見てブリッツは満足げに答える。

 こちらが予想通りのリアクションを取ったのか、よほどこのプロジェクトに自信があるのか、とにかくブリッツは自信たっぷりといった様子で答える。


「もちろん可能です、といってもどうやら信じられない様子ですねぇ・・・」


 こちらの様子に一つの提案をする。


「であれば実際に見てもらいましょう!」


 そう言ってブリッツは立ち上がり、二人にナーファとゼノも含めたエデン管理局への招待見学を申し出た。


 ガンデスは「そこまでしていただくわけには」とブリッツの申し出を断ろうとしていたが、話を密かに聞いていたナーファとゼノは大喜びで二人に駆け寄る。

 リリーとガンデスは困惑しつつも、子供たちにせがまれてはしかたいとブリッツの提案を了承するのであった。


 ブリッツはその様子を見ながら、邪悪な笑みを浮かべていた……。


---


 後日、再びやってきたブリッツ。

 傍にはエデンの職員であろう人物が数人笑顔で挨拶をしてくる。

 その姿からブリッツだけでなく、職員それぞれがこのアンドロイド導入プロジェクトに自信を持っているのがよくわかる。


 リリーとガンデスはその姿をみて少し安心する。

 ブリッツの独りよがりのプロジェクトでは無く、周りの職員達も自身を持って進めているプロジェクトならばある程度は安心できる。


 しかし、完全に信用したわけで無い。

 ブリッツもその事には気づいているだろうがリリー達になっとくさせるだけのものを見せられると確信している様子だった。


---


 ブリッツの案内でエデン管理局に着いたリリー達は、さらに職員の案内で個室に案内される。

 「ここでお待ちくださいと」ブリッツに案内されたが、向こうにも何か準備があるのだろう。

 特に気にせず待つことにする。


「何があるんだろうね!」


 無邪気にはしゃぐナーファをガンデスが宥める、心なしかゼノも落ち着きが無い様だ。

 リリー自身も慣れない土地で少し不安だった。


(アンドロイド・・・本当に信じていいのだろうか?)


 ブリッツとのやりとりを思い出し、彼が言っていた事がもし本当なら、確かに現状の労働力といった問題が解決するのは間違いないが……どうにも裏がありそうで素直に納得できない。


 ――戦争の道具になるのではないか?


 ブリッツ自身も言っていたアーファルスとノースクの戦争はもう何年も前から起こっている、それに決着を付ける為にどちらかにアンドロイドを導入する為に動いているのではないだろうか、という最悪の展開も頭をよぎってしまう。


(いまならまだ遅くない、ガンデスに話してみよう)


 そう決意し、リリーが立ち上がると同時にドアをノックする音が聞こえる。

 リリーは間の悪さを感じながら立ったついでにドアを開ける。

 そこにはエデン職員と一緒に得意げな顔をしたブリッツがいた。


「おまたせしました、ご案内します」


 待ってましたと言わんばかりにナーファが駆け出す、それを止めようとガンデスもナーファの後を追いかける。

 ブリッツはにこやかに「どうぞ」と言ってリリーに退出を促す。

 不安そうにゼノが見つめる。

 リリーも自身の考えが間違いであることを願いながら部屋を出てブリッツの後をついていく。


---


 先に出ていたナーファもガンデスに捕まりリリー達の元へともどってきた。


「こちらです」


 ブリッツの案内で長い通路に出る。

 両側は透明なガラスが貼られており、下の様子を伺える。


(地下もあるんだ・・・)


 何気なくリリーが地下の様子を見る。

 地下ではブリッツが言っていたアンドロイドが次々開発されており、本格的にアンドロイドの世界進出を目論んでいる事がわかる。


 予想以上の規模の大きさに、リリーはどうしても疑念を晴らさずにおけなく遂に口に出してしまう。


「ブリッツさん!

単刀直入に言います、貴方はこのアンドロイド達を軍事利用しようとしているんじゃないですか?」

「お、おいリリー……」


 ガンデスが止めようとするもリリーは止まらない。


「貴方は戦争で家族を失った人の為に動いていると言った……でも私にはそれが信用できない! 貴方が今作っているものがその戦争を肥大化させてしまう事になるんじゃないですか!?」

「リリー! もうやめろ……」


 ガンデスの制止でようやく止まるリリーにブリッツは変わらない笑顔でリリーの意見を否定する。

 「確かにその通りですね」と前置きを言いながら、その様な意見が出るのは当然だ、それを踏まえて貴方達の信用を得るものをお見せしましょうと誇らしげに言いながら、ブリッツが次の場所へとリリー達を案内する。


 肩透かしを食らった様で脱力するリリーを、励ます様にガンデスが肩に手を置く。


「行こう」


 その一言がリリーの不安や焦りを全て見透かしてる様に聞こえる。


 ――大丈夫だから。


 と、それほどリリーはガンデスを信頼していた。

 ガンデスにそう言われている様でリリーも言い返せなくなり、黙ってガンデスに着いて行く。


---


「さあ、着きました!これがアルビオンです!」


 ブリッツが自信満々に『アルビオン』と呼称した巨大な機械はリリー達を圧倒し、それを目にしたリリー達は言葉が出ない。

 ナーファも口をあんぐりと開けており、ゼノも少し怯えている様だった。

 ガンデスは「凄い」と一言呟いたまま黙ってしまっている。

 リリーも圧倒されてしまっている。


 一つの巨大な機械アルビオンには多くの職員であろう人間が様々な作業をして一つの巨大な機械を操作している様だった。

 今までに見たことが無い光景にどの様に表現したらいいのかわからず言葉に詰まるリリー、その様子に満足したようにブリッツが続ける。


「先ほど量産していたアンドロイドがいるでしょう?

貴方達はそれらをどう管理しコントロールするのかという部分が引っかかっているかと思います。」


 ブリッツが見透かしたかのように言う。


「その答えがこれです!このアルビオンこそが大量のアンドロイドを管理できるものになります!」


 両手を大きく広げながら高らかに言うブリッツの姿に、周りの職員達もくすくすと笑い声を上げている。

 「き、君たち!?何故笑う!」と顔を赤くしながら職員達の方に詰め寄る。

 よほど仲がいいのか、この場所には笑顔が絶え無い様だ。


「ちょっと待ってくれ!このアルビオンという巨大な物はなんなんだ!」


 ガンデスの言葉に水を差されたブリッツは少し苛立ちを露わにしながら、『アルビオン』という機械の説明を忘れていたことを詫び、再び自慢げに語りだした。


「このアルビオンという機械は先ほども申し上げた通りあくまでアンドロイドを管理する為のものです。

何時どの場所にどの数アンドロイドがいるのか、又どの様な事をしているのかをアルビオンで把握する事ができます。

さらにはこのアルビオンを使えば好きなタイミングでアンドロイド達に個別に命令できるのです、人間の代わりに力仕事をさせるもよし、人間が入れないような危険地帯に向かわせるもよし、今は人間が働かずに代わりアンドロイドが働く時代なのです!」


 ブリッツは満足し、話し終えると改めて二人のリアクションを見る。

 リリーとガンデスは話のスケールの大きさに我々二人がこのプロジェクトに協力できることなんてあるのかと考える。

 考えた結果当然手伝える事など無いと言う結論になる。


「それは本当に可能なのか・・・?」


 最終確認としてもう一度ガンデスが尋ねる。


「ええ、勿論!

……もっともここの管理局長には余りよく思われてませんがね・・・」


 途端に暗い顔になるブリッツ。

 どうやら管理局長とはうまくやっていけていないらしい。

 このプロジェクトにも協力的ではないのだろう。

 リリーはようやく今日ここに呼ばれた意味がわかった。


 要は署名活動と一緒だ、内部の者からよく思われていない以上、今以上の協力を得る事はできない。

 そこで外部の者を見学と称し、アルビオンやアンドロイドの素晴らしさを説明する。

 そうやって外部の者の署名を集め、直談判か何かをし、内部の協力を得ようと言った算段なのだろう。


(なかなか考えているのね、てっきり考えなしに行動してるのかとも思ったけど……)


 リリーが関心していた頃、ブリッツに職員の一人が耳打ちしに来る。

 何を耳打ちされたのか、途端に血相を変えてアルビオンの方へ走り出すブリッツ。

 「そんな筈はない」と叫びながら職員を跳ね除けアルビオンに繋がれている機械を操作する。


 その様子にリリー達も何かトラブルがあったのだと悟る。

 やがて他の職員に退出を促され、何が何だかわからないままリリー達は部屋から出て、再びガラス張りの長い通路へと出る。


 「此方です」と職員に案内された先は来た道とは違う道だった。

 何かあったのかと問いただしても職員は大丈夫ですからとだけ言いリリー達を早く外に連れ出そうとしている様だ。

 明らかに何かあったに違いないと感じながらもリリーは指示に従う、来た道とは違う扉へと案内され先に進もうとした矢先、リリー達の後ろ側から、


 ――ガシャンっ


 と大きな音が鳴り、上からガラスの破片が落ちてくる。

 ガラスが割れた音だと理解するが、同時に先程地下に居たアンドロイドが飛び出してきていた。


「え、どういう事……?」


 リリーが戸惑っている数秒の間にアンドロイドが距離を詰め、リリーの目の前までやって来たアンドロイドはリリー目掛けて拳を振り降ろす。

 間一髪ガンデスが身を挺してリリーを助けるが、アンドロイドの拳はガンデスの左足へと振り下ろされていた。


「うわあああああああ」


 左足が潰された痛みと驚きでガンデスが悲鳴をあげる。


「ガンデス!ガンデス‼︎」


 必死にガンデスに呼びかけるリリー、恐怖で体が震えているナーファ、ゼノも戦争での出来事を思い出しガタガタと震えている。


 そんな事は御構い無しにアンドロイドは再びリリーに狙いを定め拳を振り下ろそうとしていた。

 リリーはそれに気づかずにガンデスに声をかけ続ける。

 そして再びアンドロイドの腕が振り下ろされようとしたとき、今度はリリー達を逃がそうとしていた職員がアンドロイド目掛けタックルをしていた。


「その人と子供たちを連れて逃げて下さい!」


 必死にアンドロイドにしがみつく職員がリリー目掛けて言う、リリーも戸惑いながらも扉へと向かうが、職員は簡単に壁に跳ね除けられ衝撃で即死していた。


 三度リリーの前に立ちふさがるアンドロイドは今度こそ仕留めまいと拳を振り上げる前にリリーを捕まえようとその手を伸ばすが、重傷を負っているガンデスが最後の力を振り絞りアンドロイドの腕を掴む。


「リリー!早く逃げろ!」

「でも貴方が!」

「いいから!早く!」


 ガンデスの決死の覚悟を見たリリーは涙ながらもナーファとゼノを抱えてエデン管理局の外へ脱出する為、扉へと走り出す。


 その様子を見届けたガンデスはアンドロイドに向き合う、人間と一緒の形をしていながら決して人間ではないその物体を前に呪文のように呟く。


「俺は無敵だ、俺は無敵だ……」


 アンドロイドは標的を変え、瀕死のガンデスに向かって襲い掛かる。


「俺は無敵だあああああああ!」


 ガンデスは自分に言い聞かせるようにそう叫びながらアンドロイドへと立ち向かう。


---


 気づけば辺りから幾つもの悲鳴が聞こえる。

 暴走したアンドロイドを止めようと職員たちが体を、命を張っている。

 リリーはそんな光景から逃げるようにナーファとゼノを連れてエデンの外へと足を進める。


(あと少し……あと少しで出口だ。)


 そう考えながら足を進めると、すこし開けた場所に出る。

 扉がいくつかあるが、来たときとは違う場所なのでどれに進めばわからない。


「何処に進めばいいの……」


 リリーは力なくその場にへたり込む。

 その様子を隣で見ていたナーファとゼノが言う。


「こっちに行こう!」

「いや、こっちだ!」


 この状況で言い争いを始める程の元気を持っている事に驚く。

 だが、彼らは足を止める事無く先に進もうとしている。

 そんな彼らを見てリリーはこんな調子じゃダメだと気を引き締める。


「ナーファ、ゼノ!こっちから来たんだからあの扉に行きましょう!」


 リリーは二人をこちらに誘導する、その瞬間上から2体のアンドロイドが降ってくる。

 そのアンドロイド達にナーファとゼノは捕まってしまう。


「ナーファ!ゼノ!」


 一瞬の出来事に反応が遅れる。

 このままでは二人が連れ去られてしまうと感じたリリーはとっさにアンドロイド達に向かうが、容赦なく殴られ壁に激突する。

 そしてさらに3体目のアンドロイドが上から降ってき、リリーを捕える。

 リリーは必死に抵抗するがリリーの力では何の意味もなく3人は連れ去られてしまう。


---


 連れ去られる過程でリリーはある巨大なモニターを見る。

 そこにはこの世界の人間の情報が載っているのだろう、リリーとの距離では詳しく文字を読み取る事は出来なかったが、中でも一番大きく表示されているものだけはその距離でも読み取ることが出来た。


 そこには残りの人間の生存人数が記載されており、その数は50、40、30とどんどん数を減らしている。

 リリーはエデンで残りの人間を監視していたり管理していた事を知ったと同時に、もうほとんど人間が生き残っていないと理解する。

 そのあまりに大きな事実にショックを受け、リリーはとうとう気を失ってしまう。

 アンドロイド達はその様子に気づいても構わず進み続けていた……。


---


 次にリリーが目を覚ました場所は見知らぬ部屋のベットの上だった。


「ここは……」


 リリーの目の前に男が一人。リリーが目覚めた事に気づいたのかこちらに近づいてくる。

 リリーは警戒するも思うように体が動かない、ふと体に違和感を感じる。


 ――右腕の感覚が無い。


 違和感に気づいたリリーは自身の右腕の方を見る。


「あ、ああ……ああああああっ!」


 リリーの右腕は右肩から下が無くなっていた。

 思わず発狂するリリー、現実を受け入れられない様だった。

 そのリリーの様子に気づき、男は駆け足でやってくる。


「リリー! リリー大丈夫だ、リリー! くそっ精神安定剤を早く!」


 周りにいたアンドロイドは男の命令で精神安定剤をリリーに点滴を打つ。

 点滴のおかげか少しは落ちついたリリーは男の方へと向き直る、男はその様子を確認するとゆっくりと告げる。


「おはよう、リリー」


 目の前の見知らぬ男が自分の名前を知っている事や、アンドロイドを操っている事からエデンでの出来事の犯人だと考え飛びかかろうとするが、身体に力が入らず、逆に男に助けられる事になってしまう。

 憎き相手に助けられたことに怒りをむき出しに男を睨むとある事に気づく、どこか見覚えがあるような……。


「リリー、わかるか? 俺だよゼノだよ……」


 涙ながらに自分をゼノだと言う男を見て、彼が成長したとしたらこんな男になるだろうなと思えるぐらいにその男はゼノの面影を持っていた。

 しかし、ゼノはまだ子供、幾ら似ていると言っても明らかに別人だとリリーは男の手を跳ね除ける。

 その衝撃でベットから落ちてしまうリリーは回りに10体以上のアンドロイドがいる事に気づく。


(やはりこいつがエデンでの出来事を起こしたのか)


 そう思うと怒りが抑えられないリリーはゼノと名乗る男に叫ぶ。


「お前がやったんだろう!全部お前がっ!」


 必死に叫ぶがやがて声を出すのもつらくなりその場にうずくまってしまう。

 そんなリリーを男はベットへ戻そうと抱き上げる。


「さわ……るな」


 力なくつぶやくリリーを横目に布団を掛ける男は語り出す。


「リリー、よく聞いてくれあの時からもう十年も経っているんだ、俺はもう18才になるんだよ」


 こいつは何を言っている?目の前の男は先ほどからリリーには理解しがたい事ばかり言い放つ。

 リリーの怒りは収まらないが、彼女には男を睨みつけることしかできない。


「信じられないのはよくわかるよ、俺もこんな事現実に起きてほしくなかった」


 悲しげに語る男はこの十年間で何があったのかをリリーに一つ一つ説明していく。


「まずはエデンでリリーが気を失ってからの事を話そうか」


 そう言うと男はゆっくりとしかしはっきりとした口調で語り出していくのだった。

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