第21話 雷鉱石

 冬場になり、空気は乾燥しつつある。

 かなり冷え込んでいて、服装も冬服に変わっている。

 寒いのは嫌いじゃない。何となく幻想的な気がして、心が洗われる気がするからだ。 

 さて、フレアの研究を保留にしているが、次にする研究は決まっている。

 電気だ。

 火の次に電気を選んだのは理由がある。

 魔法の属性的に火水風土雷闇聖などがあるが、土水は現象ではなく物質だし、闇聖はよくわからない。

 残りは火風雷で、火に魔力が反応したことを見ると現象に対して、反応すると考えていいと思う。

 風は大気と変わりはしないし、そこら中に吹いているし、すでに魔力が触れていることもある。

 一応、土や水にも魔力を与えたけど変化がなかった。

 そして残りは雷しかない、というわけだ。

 さてここで疑問が浮かぶと思う。

 火打石で生まれる火花の正式名称は、火花放電である。

 つまり火花は電気であり、火属性ではなく、厳密には雷属性であるということ。

 だが実際、火花に魔力を与えると青い焔が生まれる。


 ここで僕は暫定的に、一つの答えに行きついた。

 僕が考える科学や物理法則やらなんやら、それはこの世界では共通ではないか、あるいは魔力はその法則に当てはまらないかのどちらかであるということ。

 魔力という概念が、火花放電を『火属性である』と判断しているということ。

 地球の科学知識では無茶な理論だが、この世界は異世界であり、ここは地球ではない。

 今までも何度も考えていたけれど、常識や当たり前に捕われすぎると答えを見失う。

 そもそも魔力自体、何なのかよくわからないし。

 とにかく火花放電は、僕の考えている分類上では火属性に当たる、というわけ。

 まあ、燃焼も雷もプラズマだから、広義的には分類は同じだけど。

 そしてもしかしたら明確な電流が生じないといけないのではないかという考えに至ったのだ。

 ひょっとして火以外には反応しないのではないかという不安はある。

 それでは僕が望む魔法とは違ってしまうので、そんな結末は訪れないで欲しいものだけど。

 とにかく、まだ実験段階だ。

 ということで、僕は電流に魔力を与える実験を開始することにした。

 問題はこの時代、電気がない。

 当然だけど。


 ということで僕が一から作るしかないわけだ。

 個人が手軽に作れる電気となれば、やはり静電気になるだろう。

 金属やガラスの棒を毛織物や絹織物、羊毛などで摩擦して帯電させることはできる。

 しかし、手に入りやすい鉄は導体なので、絶縁体が必要になる。

 すぐ浮かぶのはゴム。そんなものはない。

 あれ、ガラスって絶縁体だっけ。電気を通しにくい物だっけか。

 そもそも、棒を擦って帯電させて、一気に放電させたところで、火花が散るくらいの電荷が移動するだろうか。

 ネオン管でもあればいいけどないし、というかそこまで来たら、普通に電気があるだろう。

 平賀源内よろしく、エレキテルを造るということならばライデン管が必要になる。

 そもそもこの世界のガラスが、僕の知っているガラスと同じなのか、それ以外の物質も同じ性質なのか、調べないとわからない。

 デンキナマズやデンキウナギのような生物がいれば、簡単ではあるんだけどな。

 全部試すという選択肢もあるけれど、それにはかなりお金がかかりそうだ。

 オーダーメイドのガラスや金属の加工は手数料が凄まじくかかるらしい。

 七歳の子供がねだるには、かなり高級だし、父さん達に申し訳がたたない。

 できるだけお金がかからず、電気を発生する装置なりなんなりがあればいいけど。

 摩擦発電機なりを作った方が確実ではあるんだけど、合成繊維も合成樹脂もないから、視認できるほどの静電気を発生させるには一苦労する。

 昔の人って静電気に悩ませられることはあまりなかったって聞くしなぁ。 

 さてどうするか。

 すぐに壁にぶち当たるな、僕は。

 とりあえず、父さんに聞いてみよう。

 僕は部屋から出て居間へ向かった。

 今日、父さんは休日らしく、家でくつろいでいた。


「どうしたんだ、シオン。今日は魔法の研究はいいのか?」

「うん。ちょっと行き詰ってて。それで父さんに聞きたいんだけど。

 電気を発生する生物とか道具とかないかな?」

 父さんは顎を指でいじりながら言った。

「電気、とはなんだ?」


 それはそうか。

 電気なんて言葉自体ないもんね。


「えーと、雷みたいな現象のこと」

「雷を発生させる生物や道具はないな……雷そのものではいけないのか?」

「放出した魔力を接触させたいから。雷だと不規則だし、何より危険だからね。

 避雷針でも立てて、待ってても、いつ来るかわからないし」

「よくわからんがわかった。しかし電気か……。

 雷ほどではないが、似たような現象を見たことがある、と聞いたような」


 静電気の類だろうか?

 視認できるのならば、それなりの電力が発生しているということ。

 どんな方法で発生させているのか。

 でも現象って言ったから、自然現象っぽいな。


「グラストがそんなようなことを言っていた気がする。

 よし。まだ朝だし、今日はイストリアに行くか」

「うん、行きたい!」


 今日、母さんは出かけている。

 どこに行っているのかは知らないけど。

 姉さんは剣術の鍛錬をしたいので残ると言った。

 あの日から、ずっと剣術の稽古をしている気がする。

 僕も魔法の研究をしているけど、大して身体に負担はかからない。 

 けれど剣術の稽古はかなり疲労する。

 それを長い間しているというのはどうだろうか。

 気がかりだし、時折、休むように、父さんと母さんは言っているみたい。

 僕は、少しだけ険悪になって以来、剣術に関して話すことはできなくなっていた。

 普段は別に変っていない。普通に話す。

 でも剣術に関して、僕が話すと、姉さんは明らかに嫌がっていたからだ。

 僕もそんな姉さんを見たくなかったので、自然と剣術に関して話すことはあまりなくなっていた。

 多分、姉さんは自分を追いつめているんじゃないだろう。

 今のところ大きな問題はないため、様子を見守ることにしている。

 ということで、僕と父さんは男同士で街へ繰り出すことにした。

 準備をして、外に出ると、父さんは馬を用意しているようだった。


「あれ? 今日は馬車じゃないの?」

「ああ。今日は買い出しの予定はないからな。

 馬だけで移動した方が早い。馬車の半分の時間で到着するぞ」


 それはそうか。

 でも馬に乗るのは初めてだ。

 ちょっと怖いかも。


「ほら、乗りなさい」


 父さんが僕の身体を抱き上げて、馬の上に乗せてくれた。

 思ったより硬い。

 これ、かなりお尻が痛いのでは。

 父さんは僕の後ろに乗ると、手綱を引いて、馬を歩かせた。


「け、結構揺れるんだね」

「慣れない内は、お尻が痛くなるな。少しの辛抱だ。我慢しなさい」


 この世界の人達の少しは、一時間以上。

 時間の感覚がおかしい。

 多分、地球のように娯楽が溢れていたりしないからだろう。

 じゃあ、数分はどんな風に言うのか?

 今すぐ、だ。


「それ、走るぞ! 掴まれ」


 僕は蔵にある突起物を掴みながら姿勢を低くした。

 速い。

 速すぎる。

 馬ってこんなに早いのか。

 走っていると言うより、地面を滑っているような。

 人が走る時とは全然違う。

 でも、やっぱり振動が伝わってきて、臀部が痛い。

 最初はまだよかった。

 数分、十数分が経過すると、ヒリヒリし始める。

 次第に骨まで痛みが伝わり、僕は腰を僅かに上げようとした。


「姿勢を低くしていなさい」


 父さんに言われては何も言えない。

 揺れが激しいので、無理に姿勢を高くすると落下してしまう。

 それはわかるし、父さんは僕の身体を抱きしめながら、馬を走らせている。

 つまり速度的にはそれほど出ていないのだろう。

 それでも速いし、お尻が痛い。

 これ、全力で走らせたらどうなるんだろう。

 僕のお尻は破裂するんじゃないだろうか。

 なんとか我慢して一時間程度。

 イストリアに到着した頃には、僕のお尻は感覚が麻痺していたし、疲労困憊だった。

 馬車で移動した方がよかったのではないかと思ったほどだ。


「僕、馬嫌い……」

「何を言ってる。馬に乗れないと大人になった時、困るぞ。

 ずっと私が馬に乗せてやるわけにもいかん」


 想像してみた。

 大人の男が、父親の操る馬に二人乗りしている姿を。

 なんか、嫌だった。

 乗馬の練習は必要なようだ。

 まだ、背が足りないから、今の僕には必要ないと思うけど。

 とにかくイストリアには着いたのだ。

 文句もこれくらいにしよう。

 父さんがわざわざ連れてきてくれたのに、愚痴を言うのは憚られる。

 ということで、僕達はグラストさん店へ向かった。


   ●○●○


 父さんと共にグラストさんの店に行くと、中へ入る。


「いら……おう、なんだガウェインか。今日は二人だけか?」

「ああ、少し聞きたいことがあってな。今、いいか?」


 グラストさんは嘆息しながら両手を広げた。


「忙しく見えるか? 暇すぎて、店じまいしようかと思ってたくらいだ」


 まだ昼前なのに判断が早いんじゃないだろうかと思ったけど、どうやらただの冗談のようだった。


「で、なんだよ」

「以前、雷のような現象が起こる鉱物があった、という話をしていたな? 覚えてるか?」

「ああ、雷鉱石(らいこうせき)のことか。覚えてるぜ。それがどうしたんだ?」

「実は、少し興味があってな。その雷鉱石とやらを手に入れられないかと思っているんだが」


 あれ? そんな話までいってたっけ?

 僕はそういう生物か道具みたいなものはあるのか、と話しただけだ。

 でも父さんは手に入れる気、満々って感じだった。

 先回りされてしまった。

 あんまりお金を払ってもらうのは気が引けるんだけど。

 そんな僕の思いを知らずに、父さんはさっさと話を進めていく。


「雷鉱石をか? そりゃ難しいな」

「希少なのか?」

「いや、結構見かけるぜ。鉱山にもあるし、採掘も許可を貰えば問題ねぇ。

 けどよ、採掘は不可能だ。運搬できねぇからな。

 雷鉱石ってのは常に雷を放っててな、触れねぇのよ。だからそのまま置いてあるって感じだ。

 邪魔だし危険だけど、移動もさせられねぇから、放置してるんだと。

 発見当時は観光に遣ったりしようとした動きもあったけどよ、危険だし、ずっとピカピカしてるだけだからな、すぐに廃れたとか」


 父さんは僕に視線を送った。 

 状況を聞いて、どうするか尋ねている感じだ。

 グラストさんの話を聞く限りでは、放電現象がある鉱石のようだ。

 さすが異世界って感じ。

 でも放電が激しくて触れないし、近づけないし、利用方法もないから放置している、と。

 僕としては雷鉱石自体を調べたいわけじゃなく、魔力を与えてどんな反応をするかみたいだけなんだけどな。

 どうしようかな。

 アイデアはあるんだけど、なんかまずい気もするなぁ。

 だって雷鉱石って、要は発電機の役割を担っているわけだし。

 こんな便利なものが地球にあったら、いろんな方面でブレイクスルーしそうだ。

 この時代、電気は発見されていないし、活用するって考えも技術もないだろう。

 それにただ雷鉱石を運搬するだけだ。

 せいぜい、見世物にするだけか、灯りに使う程度だろうと思う。

 問題はないかな。多分だけど。

 とりあえずあるかどうかはわからないけど、聞いてみるかな。


「グラストさん。白い粘着質な樹液を出す木ってありますか?

 独特のにおいがすると思うんですが」

「……いや、しらねぇな。植物学者だったら知ってるかもしれねぇけど」


 ゴムの木はないのかな。それともまだ見つけられてないのか。

 異世界だし、地球と同じものがあるとは限らない。

 とりあえずゴムは保留か。


「じゃあ、マイカ、いや雲母(うんも)かな、っていう鉱物ってあります?

 ちょっと特殊な鉱物で、いくつもの層になっていて、薄く剥がれるような鉱物なんですが。

 結晶みたいな感じだったりするはずです。やや透明、かな?」


 正確には白雲母。絶縁性のある鉱物で、現代でも広く使われている。

 この文明で作れるものと言ったら、後はガラスくらいか。

 最悪、絹織物を重ねて強引に運ぶとかするしかないかも。

 どれくらいの電力なのかわからないから、危険だけど。


「マイカ? いや……名前は知らねぇな。でも、同じような特徴の鉱物はあるぜ。

 まったく使えないってんで、利用されてねぇけど。ペラ鉱石だろ?

 待ってな。昔、採った奴があったはずだ」


 グラストさんは店の奥に行くと、すぐに戻ってきた。

 手には何かの鉱物を持っている。

 白と黄色が混じったような見た目だった。

 昔図鑑とかで見ただけだから、あんまり自信はないけど、多分、白雲母で間違いない。


「これか? 形は面白いし、綺麗な見た目だから、とっておいたんだ。

 まあ、珍しいもんじゃないし、観賞用だな」

「見せてもらえますか?」

「ああ、構わねぇよ」


 僕はグラストさんからマイカ、白雲母を受け取ると、よくよく観察した。

 見れば見るほど似ている。この鉱物が僕の知っている好物なのかはわからないけど。

 でも、生活用品に使われている素材は、基本的に地球と同じような名称だ。

 麻とか綿とか鉄とか銅とか。

 だったら特徴が同じものは、同一のものの可能性も高い。

 それでも雷鉱石のような特殊なものもあるので、注意が必要だ。

 問題は、マイカをどのように加工するか。

 手作業でできるマイカの加工は剥がしか集成。

 というかそれしか知らない。

 マイカは薄く剥がすことができ、それを重ねて張り合わせることで、一枚のシートにする。

 それを絶縁体とした活用する方法が昔、使われていたと思う。

 そしてマイカを砕き、紙すきの要領で一枚のシートにする、という方法が一般的になっている。

 ただ張り合わせるよりは、紙すきで完全に一枚にした方が強度も張力も跳ね上がる。

 つまり壊れにくくなるし、ある程度の変形も可能、というわけ。

 そも、張り合わせるものがあるのかもわからないしなぁ。  

 でもなぁ、そもそもマイカって砕いて紙すきするだけで、加工できるんだろうか。

 原料が他に必要だったりしないかな。

 それに紙すきに必要な道具が必要になる。

 じゃあ、スノコがいるのか?

 それに大量のマイカを砕いて、水に入れて、掬いながらの作業になる。

 もっとマイカが必要だ。

 というか砕いたマイカって浮くのか?

 鉱物なのに。鉱物だから重いっていうのは先入観か。

 でもこの世界で、僕の知識が通用するかどうかも分からないのか。

 そもそもだ、僕の知識が正しいのかも半信半疑なんだよなぁ。

 学生時代の知識なんて、社会人になると忘れるし、こんな知識必要ないしなぁ。

 というかこれマイカなのか。

 ああ、だめだ。なんか堂々巡りになっている気がする。

 僕がうんうん、唸っているとグラストさんが父さんに言った。


「で? 何しようとしてんだ?」

「さあな。息子の考えはよくわからん」

「シオンの考えか? 子供のやることってのはよくわからねぇな」

「……それはどうかな。シオンが、その子供の考えをしているとは限らんぞ」

「それはどういうことだよ?」

「見ていればわかる。多分な」


 僕が思考を巡らせている間も、父さんとグラストさんは待ってくれていた。


「うん、無理して造る必要はないかな。僕の目的は別のところだし。

 よし! ねぇ、グラストさん。この鉱石、もっと大きいのはないかな?」

「あるぜ。大体、こんくらいのが」


 手を広げて大きさを教えてくれた。

 大体、六十、七十センチくらいかな。

 大きいな。そんなマイカなんてあるのだろうか。

 異世界にだけ存在する物なのかも。

 しかしそれだけのサイズがあれば、問題ないか。


「じゃあ、それが欲しいんだけど」

「あー、まあ、なくはないんだけどよ、結構高いぜ? 役にも立たない、ただの観賞用だし」


 高いのか。

 うーん、僕はお小遣いをもらってないし、何かを買う時は、父さんに頼むしかない。

 でも六歳の子供がねだる値段じゃないかも。

 どうしよう。


「どれくらいだ?」

「4000リルムだな」


 50リルムでじゃがいも一個、という言葉がある。 

 じゃがいもは不作の時でも収穫できることが多く、値段は据え置きになりやすい。

 そのため値段の基準にされることが多いようだ。

 つまりじゃがいも八十個分の値段。

 まあまあ高い、のかな。


「わかった。どこで売っている?」


 僕が何か言う前に、父さんはグラストさんに平然と聞いた。


「交易所だな。ずっと置いてあるから、値段は変わってねぇと思うぞ。

 誰も買わねぇし、観賞用としても人気もあんまねぇみたいだな」


 僕は慌てて、父さんの服を引っ張る。


「と、父さん、まさか買ってくれるの?」

「うん? 当然だろう。必要なのだろう?」

「そ、それはそうだけど。でも高いし」

「子供が値段を気にするな。それに、シオンは今まで物をねだったことは一度もないだろう。

 マリーにはそれなりに買い与えてきたし、問題ない。

 いいか、シオン。もう少し、父さんにわがままを言っていいんだ。

 ダメなら、ダメと言うし、いいなら、いいと言う。何も伝えず、我慢する必要はないんだよ」


 父さんは僕の肩に手を置いて、優しい笑顔を浮かべる。

 本当、この人が父さんでよかったと思った。

 僕が父親になった時、こんな風にできるとは思えない。


「…………子煩悩な父親だな」

「うるさいぞ、グラスト。私は父親なんだ。子煩悩でない方がおかしい。

 ではシオン。交易所に向かうか」

「あ、その前に、試したいんだ」

「試す? そういえば、この鉱石を何に使うか聞いてなかったな」


 まったく用途も聞かずに買い与えるなんて。

 僕は苦笑しながら、答える。


「この鉱石は絶縁体、えーと、電気を、じゃなくて……雷みたいなものを通さない、可能性があるんだ。

 だからこれを使って、雷鉱石を運べたらなって思って」


 雷鉱石が採掘場にあるとして、そこで魔力を与えて、研究をすることはできる。

 でもそれでは人目に付くし、父さんとの約束を破ることになる。

 魔法の研究は隠れて行うようにしなければならない。

 僕も、別に魔法をひけらかしたりするつもりはないので、異論はない。

 ただ、魔法が使いたいだけだしね。

 僕の答えを聞くと、父さんとグラストさんは顔を見合わせる。


「それは本当かシオン」

「わかんない。だから試したいんだ」

「なぜそれを知ってると聞いても、意味はないんだな?」

「………………うん」


 僕は七歳の子供。

 人が知らない知識を持っていれば、怪訝に思って当然だ。

 子供はおかしなことを言うものだとしても、それは常識の範疇のこと。

 僕が話している内容は明らかに異常で、普通ではない。

 それを今まで父さんが受け入れてくれていたのは、父さんが寛大だったというだけ。

 普通の人は、僕のことを気味悪がるだろう。

 もっと追究する方が当たり前だし、魔法の研究を止めさせるべき、と考えるだろう。

 でも父さんは、ただ何かを考えて、


「そうか、まあいいだろう。では、採掘場で試してみるか。近いんだろう?」


 と簡単に言ったのだ。

 何となく想像はついていたけど、僕は感謝を禁じ得ない。

 こんなにいい父さんの子供に転生できてよかったと心の底から思った。

 グラストさんは後頭部を掻いて、何やら思案顔だったけど、僕に質問することはなかった。


「ああ、徒歩でもすぐに行ける距離だ。んじゃ、行くかね」


 グラストさんは僕の頭をぽんぽんと叩き、外に出ると、店の扉に鍵を閉めて、閉店のプレートを扉に下げた。

 いいのかなと思ったけど、グラストさんは何も言わなかった。

 だから僕も何も言わなかった。

 ただなんとなく、引っかかる。

 あまりにとんとん拍子に進んでいるから、少し不安なのかも。

 まあ、気にする必要はないかな。

 そう思い、僕は父さん達の後を追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る