第99話 国家ステータス
逃げるように医療局から離れた俺は、その足で開発局へと向かった。
開発された銃を直接確認するためだ。
開発局はアーガイルの店と隣家をそのまま改装した形だ。
職人通りの開発局に到着すると、俺は中に入る。
店内は商品をそのままにしているが、人影はなかった。
家の奥からカチャカチャと何かの物音が聞こえる。
暗がりの中、店の奥へと向かった。
奥に進み、裏庭に出る。
的のようなものが地面に刺さっていた。
銃の実験のために立てたのだろう。
そこに【開発局本部】という看板があったので案内通りに隣家へ入った。
中に入ると開発局の連中が黙々と作業している様子が見えた。
思った以上に現代的で、細かい部品を組み合わせているようだ。
ちなみに作業員は全員が人間だ。
亜人の中でイヌット族は器用なため担当させたいという考えもあったのだが。
現状では難しいと俺が判断した。
アーガイルは気にしないと言ってくれたんだけどな……今の人間と亜人の関係性では精密さが要求される業務を共同で行うのは困難を極めると俺が判断したわけだ。
アーガイルが俺の姿に気づくと、布マスクを外しながら近づいてくる。
「お、お久しぶり……です。王様」
「ああ。おつかれさん、銃が出来たって聞いたんだけど」
「はい、こっちに……」
アーガイルに連れられ、本部奥の扉に入ると、小さな倉庫に出た。
そこにはガラクタらしきものが多く散見したが、その中に銃も混じっていた。
彼にとったら、どれも同じような価値なのだろうか。
「これ……です」
差し出された物は思ったよりも銃寄りの形状をしていた。
火縄銃的な長物なのかと思っていたが、短銃に近い。
ゴテゴテしており、少し重量があるが、大人の男ならば片手で扱えなくもない程度だ。
リボルバーのような形ではなく、上部から弾を込めるような構造のようだ。
「装弾数は……三発です。
着火は部分的……に技巧道具を使い……摩擦でできるようになっておりまして。
火砲と同じ要領で……火薬を発火させて……弾を飛ばすような形です」
「誰でも使えるんだな?」
「はい……魔力がある人でも、使えますし……ない人も使えます……子供でも……。
外で試してみましょう……」
アーガイルと共に、俺は外に出る。
的に向かって試しに撃ってみる。
思ったよりも大きな発砲音と共に、的に穴が開いた。
硝煙が鼻孔をくすぐる。
貫通力もそれなりにあるらしい。
実際に銃を撃ったことはないが、これはかなりの品質なのではないだろうか。
「これはすごいな」
ほんの僅かだけアーガイルの口角が上がった気がした。
「ありがとうございます……ただ、弾の大量生産が難しくて、ですね……。
それに、同時進行で……通貨の作成もしなくてはならないので……。
開発は少人数でいいのですが……大量に生産するとなると……」
「……人手が足りない、か」
「はい……ただ、誰でもいいというわけでもないので……無闇に増やすよりは今の方が……いいかと」
この世界の通貨は円貨が主だ。
生産は手作業の上、独自性は薄く、形状だけの差異しかない。
つまり偽造が簡単だということだ。
銅、銀、金などの含有率を変えて、実際の価値以上の値段で通貨として使用するという単純な方法でさえまかり通ってしまう。
エシュト硬貨の中にも当然偽金は混じっている。
そんな方法が見過ごされれば通貨の価値が破綻してしまう。
現代の紙幣までは望まないが、できるだけ模倣が難しいようにしないといけない。
最初が肝心だ。ここで妥協すれば、悪意ある人間が得をする社会になってしまう。
秩序を築くには基礎が重要だ。
ここで手を抜く選択肢はない。
だが兵器開発も重要だ。
自国の兵力はこの世界で最弱だ。
人口も少なく、民兵ばかり。
それに加えて一人あたりの戦力も他国に劣っているため、武器の強化しか望みはない。
俺一人でできることも限界がある。
防壁の建造、補強や武力強化、そして兵の鍛練も重要になっていくだろう。
一応、警備局ではディッツが警備局員達を鍛えてくれてはいるが、人数が少ないため、警備業務の方に手を割くことになっている。
なので鍛練をする時間が取れていない。
人数に比べ、都市面積が広いため、哨戒や防壁上の見張りなどで手一杯なのだ。
「しばらくはこのままが妥当、か。
苦労をかけるけど、今の体制で引き続き頼む」
「わかりました……」
アーガイルは気にした風もなく、機械的に頷いた。
目の下にクマがあるが寝ていないのだろうか。
しかし目は爛々と輝いているようだった。
もしかして、楽しんでいる、のか?
そういえば。
この銃のアナライズならできるんじゃないだろうか。
そう思い、俺は久しぶりに武器を分析してみた。
…………む、出ないな。
技巧武器や現地人のステータスは出るのに、一般的な武器は分析できないということか。
剣とか通常の武器のアナライズもできなかったしな。
ん? あれ、なんだこれ。
『アナライズをした後、視界の端にタブのような台形のマークが見えた』。
ステータスは出ていない。
なんだこれ?
こんなの初めて見たぞ?
「あの、王様……作業に戻っても?」
「え? ああ、ごめん、戻ってくれていいよ」
俺は銃をアーガイルに渡した。
「はい、それでは……」
アーガイルはそそくさと本部に戻って行った。
心なしかスキップしている。
……褒められたのが嬉しかったのだろうか。
一人残された後、再びアナライズ後の視界を確認する。
台形のマークを注視すると、突然、文字列が並んだ。
「これは……国家ステータスって書かれているな」
俺は驚きながらも情報を読み取った。
●国家ステータス
国名 :ハイアス和国
統治者 :クサカベ トラジ
国家LV :-61
士気LV :13
総防衛力 :-49
総兵力 :-50
総労働力 :-75
総調達力 :-90
総生産力 :-92
総領地数 :1
総人口 :330
●技術
開発技術 :66
医療技術 :52
渉外技術 :-77
建築技術 :21
狩猟採集技術 :12
船舶技術【漁技術】 :61
農耕技術 :18
畜産技術 :38
その他技術 :0
●都市別情報
首都ハイアス
◆都市LV :57
◆安全LV :-69
◆快適LV :-23
◆人口数 :330
●総資産
所持食料【表示数は100単位…単数=1人数1日分】
◆水【地下水込み】 :880
◆肉類【海産物以外】 :251
◆植物類 :433
◆海産物 :690
所持資源【表示数は100単位】
◆木製素材 :120
◆石製素材 :221
◆総合金属 :21
◆魔物素材 :115
◆特殊素材 :13
所持通貨 :エシュト硬貨のため使用不可【総数不明】
所持物件 :922【-200】
所持特殊利権 :技巧武器、テレホスフィア、漁舟、銃
●状態
人間と亜人との軋轢が頻繁に生まれている
→全ステータスが大幅に下降、更に人間、亜人の共同業務、技術に関しての効率が大幅に低下、国民に不安が伝播
娯楽がないためストレスが溜まりつつある
→士気、労働力、生産力が低下
新たな国家への希望を持っている国民が多い
→士気が上昇
王への親近感を持っている国民が多い
→士気、労働力が僅かに上昇
一部で狂信的な宗教が横行している
→士気、労働力が大幅に上昇、暴動危険度が僅かに上昇
「建国したことで、新たなステータスが解放された、のか?」
なんかマイナスだらけだけど……。
本当、毎度マイナスからだな、俺は。
しかし比較材料がない。
他国はどれほどのステータスなのだろうか。
見ると視界の端に『他国情報の開示』という項目があった。
注視すると、別の頁が開く。
●国家ステータス
国名 :エシュト皇国
統治者 :リーンベル・サラディーン・エシュト
国家LV :67
士気LV :90
総防衛力 :66
総兵力 :57
総労働力 :60
総調達力 :33
総生産力 :45
総領地数 :101
総人口 :6.198.845
●技術
不明
●都市別情報
不明
●総資産
不明
●状態
不明
部分的に比較すると、やはり自国はかなりの弱小国らしいな。
エシュト皇国だけは見られるようだ。
これは俺がエシュト皇国以外に行ったことがないからなのだろうか。
俺自身がもっと詳しく他国を知れば、ステータスも詳細になる、とか?
しかし、まさか国家のステータスまで見られるようになるとは。
なんだろう。
この妙な高揚感は。
これはもしかすると、征服感なのだろうか。
それとも最底辺からのし上がる展望に心を躍らせているのだろうか。
RTS(リアルタイムストラテジー)に近い感覚を覚える。
そういうゲームあったな、なんて楽観的な考えを浮かべた。
しかし相変わらず便利な能力だ。
正確な情報を何の労力を払わずに得られるというのはそれだけで助かる。
状態を考慮して、今後の指針に活動を追加していこう。
しばらく数値や詳細に目を通していると、思ったより時間が経過していた。
日が暮れかけていることに気づいてしまう。
ああ、帰りたくない。
執務室に戻ると、またハミルが愚痴愚痴と言うに決まっている。
彼の立場を考えればむしろ正しいんだが。
でもさ、やっぱり息抜きが必要だと思うんだ。
ステータスの状態部分にも、国民達のストレスが溜まっていると書いてある。
娯楽、か。
何か考えた方がいいのだろうか。
そう思案しながら、俺は重い身体を動かし、執務室へと戻って行った。
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