実録!脳内ピンク公開中!!

樹 風珠

第1話 ことの始まり

「あんた、本当に彼氏欲しいの?」

親友などと簡単に表現したくはないが、なにかとくされ縁が続いている友人がいる。そいつと久しぶりに飲みに繰り出した時だった。

 ちなみに。そいつはとうの昔に結婚しやがり、子供はまだいないが、旦那と犬と仲良く暮らしている。


 先にことわっておくが、私から話題を振ったり絡み酒をしたわけではない。

 そいつから「華やかな近況報告はないのか?」と聞かれたから、「ないなぁ〜」と正直に答えたまでの話だ。

 別に欲しくないとは微塵も思っていないが、「今すぐ欲しい!なんとしても結婚したい!!」というガッツさももはやない。

 それを答えたら、毒舌家の友人がいともバッサリと努力が足りないという。

 軽〜くカツンときた私。すぐに反論に出る。

「つったって。私だっていろいろやってきたんだよ!『引き寄せの法則』とか聞いて具体的にイメージするのが大事っていうから必死に考えて、イメージして、書き出したりしてさ。それだけじゃなく、出会うためにいろいろしてきたんだよ。結婚紹介所にいったり、お見合いパーティーに出たり、友達に紹介してもらったり、SNSを利用したり、名高い縁結びの神社にお参りにいったり、そりゃぁもうありとあらゆる手段やツールを利用して。がしかし。結果得た答えは、何をしたってどうがんばったって、良縁に恵まれなかったってことよ。縁結びの神様は私のことなんてどうでもいいのよ。きっとゴミのようにしか思ってないんだわ!いや違う。その神様の力なんてたかだかその程度だってことね」

「ずいぶんと……神様ディスるのね」

「当然じゃない。私がどれだけ縁結びの神様に貢いだと思ってんの」

 勢いのままぐいっと酒をあおる。


「いろいろやったから私わかったの。普通の形で出会わないと上手くいかないって」

「どゆこと?」

「お見合いとか、婚活パーティとかSNSとかの出会いって共通の友人がいないでしょ。ダメになったらあっという間にダメになるの。これまでまったく違う生き方をしてきたんだから価値観が違って当然だと思うの。だから意見が食い違って当然だと思うのよね。でも何か意見がぶつかってもそれを乗り越えようとしない。ただ面倒になってすぐに逃げる。一切の連絡がつかなくなるの。共通の友人もいないから相手に拒否をされたら意見の違いを乗り越えることもできない。それでよく『結婚したい』とか言えるもんだって思うよ。だから決めたの。そういうバッタもんは利用しないって。職場とか趣味の世界とか、お互い共通の世界がある中で、自然に私という人間を普通にわかってくれて受け入れてもらえないと恋愛はしないって」

「うん、それで?」

「それで、出会わなければ仕方ないって。縁がなければそれでいい!一生一人で生きていこうって」

「そういったって人生のパートナーが欲しいっていうのは諦めていないんでしょ?」

「……まあね」

「イメージが足りなかったんじゃない?」

「そんなことはないよ!現実味を帯びて想像することは得意だもん。仕事とか住まいとか、こと恋愛以外のことは大抵イメージしたとおりに願いがかなってきたし。でも、こと恋愛だけはダメなんだよなー」

「そもそも。どんなイメージだったの?」

「え〜。私より背が高くて、私より頭がよくて、私より年上で、人としての器が大きくて、優しい声をしてて、思わず前世からの運命を感じるような出会い方の人・・・」


 友人が即座に、私のおでこにチョップする。

「あんた、バカなの?それじゃぁ〜出会わないわけだわ。頼まれた神様もとんだ迷惑ってもんよ」

 チョップされたおでこをさすりさすり、口をとがらせる。

「っつったって。どんなに理想を描いたって、結局は私とあわなければうまくいかないんだもん。想像のしようがないんだよな〜……」

「はぁ?なに言ってんの!そこをより具体的に思い描くってものじゃないの??つまるところさー、イメージ力なんだよ!イメージ力!あんた。得意でしょ?」


 くされ縁が続く友人は、私が趣味で小説を書き、それを密かにWEBサイトに投稿していることを知っている。

「なぜそこで、得意の妄想力を発揮できないの?」

 友人が呆れた声を出す。


「まずはさぁ。出会いを諦めるまえに、もう一回それを本気でやってみたら?具体的に想像すること、それを書くこと、そして人に話すこと。確かそれが原則じゃなかったっけ?もう一度、本気で恋愛を妄想したら??」

 

 なぜだろう。

 そのとおりだな〜っと不思議と納得してしまう。実に単純だ……自分。

 言われてみてはたと気づいたが、そういえば昔(小学生から中学生あたりまで)は、当たり前のように脳内恋愛をしていた。妄想というより子供ながらの空想の恋愛だ。

 異性との最高の接触はチュー程度のものだったもんな〜。

 考えてみれば、あん時が一番ピュアだった。

 気づけばずいぶんと擦り切れた大人になってしまったもんだ。


「やってみるか。妄想恋愛……名付けて、『脳内ピンク公開プロジェクト!!』」


 拳を握った私の隣で、友人がくいっと酒を飲みながら一言。

「あんたって昔から何かとプロジェクト名をつけたがるよね〜」

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