リニューアル③

ある日の街頭スカウト。


カナデと一緒になった。


スカウトのチームはいつも新人だけで固まらないように組まれていた。


新人だけが動いて、なにかあったら困る。


そしてなるべく同じ人間ばかりで固定にならないようにメンバーを替える。


もちろん何回かやってると、同じ人と組むこともある。


それ以外は店長がランダムで決めていた。


カナデとは比較的、同じチームになることが多かった。


二人きりにはならなかった。


カナデがどう思っているかはわからない。


しかし、俺はカナデと二人きりは気まずかった。


「気まずい」というよりはカナデは俺の嫉妬の対象だった。


カナデとすんなり話す気になれなかった。


俺と同じ年数しか生きてないのに、ホストとしての差が埋まらないのはなぜか。


客は俺じゃなくカナデを指名するのはなぜか。


カナデさんが他のホストからも支持されるのはなぜか。


そんな答えのないことを考えては、悩んでいた。


そんな思考でいる時点で勝てない。


その時はまだ気づかなかった。


わからなかった。


わかりたくなかった。


「自分が負けている」という事実を受け入れてたくなかった。


そんなことは誰も言ってくれない。


言ってくれる人間がいたとしても、そんなこと言われてすんなり受け入れる余裕はない。


自分で理解し、自分で受け入れるしかない。


この時の俺はまだ年齢的にも精神的にも若い。


目の前の売上のことしか頭にない。


自分を客観的に見ることなど出来ない。


自分を客観的にみる、このことはホストにおいて非常に大切だった。


商品を売るのに

その商品のことを知らなければいけない。


当然といえば当然のことだった。


営業の仕事で商品についての知識は、どんな営業マンに聞いても知っているだろう。


だがホストに商品、つまり自分のことをいかに知っているか、と聞いても知らない奴は多い。


自分のことを知ろうともしない奴も多い。


カナデと大阪府のだいぶ南の方へスカウトに行くことになった。


あまり行ったことがない地域だった。


飲み屋がチラホラある程度の地域。


田舎とは言えないが、ミナミほど都会でもない。


店は地元民で賑わっている。


もう一人新人と3人だったが、新人は学生だったため途中で抜けた。


新人が居なくなった夕方、カナデと二人きりになった。


俺がカナデのことをムカついていたことに、カナデは気づいていた。


俺は女よりよっぽど感情を読むのは簡単だと思う。


すぐ態度に出る。


「ゲンキ、スカウト終わったら居酒屋にでもいこ。」


それに気づいてるのか、俺を誘ってくれた。





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