新人王が終わり

休みの日にカナデに呼ばれた。


「ゲンキお疲れ様。飯でもいこ。」


カナデは俺をしゃぶしゃぶに連れてってくれた。


しゃぶしゃぶなんて食べるのは久しぶりだった。


しゃぶしゃぶどころが、ちゃんとした飯を食べるのが久しぶりだった。


黄金のだし汁に赤い牛肉くぐらせ、白くなるかならないかの所で牛肉をポン酢につける。


うまかった。


「ゲンキ、新人王取れなかったけど動きとか、全体的には良かったよ。」


カナデは俺のことをほめてくれた。


新人王の時の俺をほめてくれた。


「ありがとうございます…」


俺はまだ腑に落ちてなかった。


カナデはよく「No.1じゃなかったら意味がない」と言っていた。


従業員にも客にもよく言っていた。


なのに、なんで新人王とれなかった俺をほめるんだ。


3位の俺に。


俺のその思いが態度に出ていた。


売れっ子ホストのカナデには、当たり前のように見透かされていた。


「ゲンキがあんま納得してないのもわかるよ。新人王とれなかったし。ただ新人王とるために頑張ってたゲンキはすごくよかった。」


カナデはポン酢に飽きたのか、ごまだれで肉を食べていた。


そして牛肉と野菜を二人前ずつ追加した。


「ゲンキのこと止めた時さ、すごく悩んだんよね。止めるのが正解なのか、売掛させてまで新人王狙わせるのが正解なのか。」


「だからシャンパンコール中、複雑な顔してたんですね。」


俺は妙に納得した。


「カナデさんだったらどうしてました?俺と同じ状況だったとしたら。」


「まあ多分いくやろな。ゲンキと同じくガンガン攻めてたと思うよ。」


ホストという仕事は特殊だ。


自分の給料を減らして、売上を上げる。


普通の会社員にはあり得ない状況がまかり通る。


ただ、No.1や新人王になるだけでメリットもある。


No.1というだけでさらに客が増えたりする。


そのため、給料を捨てて№1になることを、先行投資と割りきるホストも多い。


「確かに、結果として新人王とれなかったし、給料がマイナスになった。でもな、そういう経験して売れていくし皆。俺は良かったと思うよ。ゲンキなんかこれからだし。これから色んな経験していく上で良い土台にはなったと思う。」


しゃぶしゃぶも食べ終わり店を出た。


「カナデさんご馳走さまです!」


「買い物いこ。ゲンキ頑張ったしなんか買ってあげる。」


俺は考えたが欲しいものが特になかった。


服はいくらでも欲しかったが、もう夜中だ。


「んー特に…あ、延長コード欲しいっすね。」


「延長コードって、ふふ、ゲンキらしいな。」


笑いながら近くのディスカウントストアに連れてってくれた。


カナデはそこで3000円の延長コードを買ってくれた。


「また明日からも頑張ろう。」


そういってカナデはタクシーに乗って帰っていった。

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