ミユ⑦
シャンパンコールとシャンパンタワーの音楽は違う。
シャンパンコール自体は15種類くらいあり、音楽は全て違う。
その時、やる人によって違う。
シャンパンコールが何件か続いたりしたら、音楽が被らないように変えたりする。
ただ、シャンパンタワーの音楽は1種類のみだ。
元の音楽がなんていう曲名かは知らないが、聞くとテンションが上がる。
シャンパンタワーの音楽が流れた。
内勤がすぐにシャンパンタワーの準備を終わらせた。
シャンパンタワーを載せた台が隅に置いてるので、それを中心に運ぶ。
シャンパンコールは通常6人程でやるが、シャンパンタワーはホスト全員でやる。
自分の客じゃなくても、タワーをしたトクちゃんのニコイチなので、一緒にステージに上がる。
シャンパンタワーをしてくれた客と指名してるホスト。
それをステージの中心に呼び、それ以外のホストはシャンパンタワーを中心に円を囲む。
いつもはガヤとして参加してるだけだが、こっち側に立っている。
自分の客がおろしたシャンパンタワーではないが。
ステージからは全部の席を見渡せる。
暗くはなっているが、客の表情まで見れる。
全ホストの顔も見れる。
皆こっちを向いている。
シャンパンタワーはこんなに気持ちいいのか。
スターにでもなったような気分になれる。
承認欲求という言葉があるが、まさにこの時はそれが満たされる。
「ホストで売れるとホスト自身がホストにハマる」と、カナデから聞いたことがある。
こういうことか。
これがあるから辞められないんだろう。
「なーんとなんと、なーんとなんと、素敵なお姫様からシャンパンタワー頂きました!」
「オーーーーー!」
周りの従業員も盛り上がる。
当然だ、皆トクちゃんがシャンパンですらおろせると思ってない。
店長の顔を見たら、狙い通りとも思えるような笑みをこぼしていた。
どんな観察眼してるんだこの人は。
すごい。
「お姫のシャンパン開栓までー3.2.1…ポンッ!」
「シャンパン注いで注いでいくぞー!」
シャンパンをタワーの一番頂点のグラスから注いでいく。
シャンパンが上から下に流れていき、光が当てられ輝いて見える。
すべてのシャンパンを注ぎ終わったあと、皆で乾杯をする。
「せーの、カンパーイ!!!」
決まりがあるわけではないが、シャンパンタワーに注いだシャンパンは全て飲むことはあまりない。
「ゲンキーのめーーー!」
カナデが俺に気を遣って言ってくれた。
人生で初めてこんなにシャンパンを飲んだ。
悔しかった。
俺がシャンパンおろしたことを覚えてる人はいるだろうか。
前座のような気がしてたまらなかった。
シャンパンタワーは一瞬で終わった。
4人で席に戻る。
戻ってすぐにミユに謝られた。
「ゲンキ君ごめん。」
謝られると改めて悔しさが増してきた。
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