episode 2 - 4 of 6

「見たぞ! 見たぞ!」

大きな声を上げながら、友人が教室に入って来た。


「何だよ急に、いったい何を見たんだ?」

友人は彼の隣の席に横向きに座ると、続けた。

「しらばっくれやがって! お前だけはずっと仲間だと思っていたのに、このやろう!」

「だからいったい何のことだよ?」

「土曜日の11時頃、お前どこにいた?」

「土曜日か…駅前通りにいたかな?」

「いたかなじゃねぇよ。俺は見たんだよ、バスの中から。お前と髪の長い女の子が、腕なんか組んで歩いているじゃねぇか」

「あ… 見られたか」

彼はそう言うとにやっと笑った。

「にやけてるんじゃねぇよ。いったいあれは誰だよ?」

「バスから見えたんじゃないのか?」

「いや、髪の毛に隠れて顔がよく見えなかったんだ。でもあまり見たことがある気がしない」


斜め前の席の彼女と話していた女の子が、途中で話に加わって来た。

「なになに、浮いた話?」

「おう、こいつに彼女ができたみたいなんだよ。土曜日にデートしてるのを目撃した」

「ふーん、おめでとう。で、相手は誰なの?」

「まだ教えない」

「何だよもったいぶりやがって」

友人がそう言ったとき、始業のチャイムが鳴った。


「あーぁ、いいなぁ。今度その彼女を紹介してくれよな。ついでに彼氏募集中の彼女の友だちも」

そう言いながら自分の席に戻る友人を笑顔で送ると、彼は目線を前に戻した。


英語の教師が教室に入って来たのを目で追うクラスメート達の中、斜め前の席から彼の方を振り向いていた彼女がにっこり微笑むのを、彼だけが見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る