通学路

 慣れ親しんだ道の筈だったのに、今となっては郷愁に浸る事もできない。あの頃は毎日泣いて歩いた。あの頃は楽しく歩いた。全て過去だというのに、この間は泣いて歩いた。全て過去。現在。

 既視感と焦燥、虚しさ。置いていかれたのは多分現在であり、置いていかれたのは、多分私だけ。逃げだそうとした。逃げたいというのに、既に痛くなった足だから、緩やかに歩いた。

 ゴミ置き場には青いネットがあって、きっと黒いあの鳥達は明日も餌を探す。色は私の視界を埋めつくしているけれど、脳は新しくなってしまった標識の事を考えていた。何もかも変われば懐かしいとは感じない。面影があると思い出したくもない事まで思い出す。

 毎年、変わりながらも同じように咲くあの木は、ソメイヨシノというらしい。だから、変わりながら生きてみようと思った。

 桜が散るまでは、此処を歩いて帰ろうか。

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