転生村人Aによるダンジョン案内業務
陸昼すず
第1話:転生村人Aの仕事
ここは始まりの村、リマジハ村
王都から西に馬車を走らせて1週間程かかる、農業と狩りで生活を営むどこにでもあるような村の1つ
少しだけここが他の村と違うのは、近くに小さなダンジョンがあり、そこのボスを倒すと手に入る品が、とてつもなく珍しく高価で貴重な物であるという事ぐらい
名前は
死んだ人間に10分以内に振りかければ、無傷の状態で生き返るという幻の薬
そうは言っても馬鹿みたいに何度も手に入る訳ではない
このダンジョンのボスを初めて倒した最大6人までのパーティーで1つだけ入手することが出来る品物
だからこその、始まりの村
そして始まりのダンジョンとして数知れぬ者達が挑み、ここで勝てるようになってから初めて一人前と認められる風潮がある
何でそんなに詳しいのかって?
だって実はオレは転生者と呼ばれる生前の行いを記憶したまま生まれ変わった人間なのだ
生まれ変わる前にこの場所の存在を良く知っていたから、どんな所で、どんな魔物が出て、ボスだってよーく知っているんだよ
あぁ、ほら今日も
不安に震える身体を正し、目を期待に輝かせた挑戦者達が訪れる
「お待ち下さい! ここから先の洞窟は危険なダンジョン!! 失礼ですが身分の確認出来る物をお願いします」
我ながら緊張感を滲ませる素晴らしい掛け声が出来たと思う
オレの声を聞いて立ち止まったのはまだ若い少年少女の4人パーティーで、先頭を進んでいた少年が反応する
「俺達はルワオ王国に所属する勇者! 今日はこの始まりのダンジョンに挑戦しに来た!!」
「なんと!? 勇者様一行でしたか!! これは失礼しました、ルワオ王国から連絡は頂いております」
「いや、こちらこそ急に来て申し訳なかった。もしや貴方は噂の案内人の人ですか?」
「どのような噂かは存じませんが、ここのダンジョンの案内と警護を任されているのは確かです」
「おぉ! とても優秀な案内人がいると話に聞いていたので、出会えて大変嬉しいです」
「勇者様一行から誉めていただけるとは、身に余る光栄でございます。こちらがこのダンジョン内の地図と詳細になります。罠の位置と魔物の徘徊するルートは毎日変わるので、勇者様達もお気をつけてください」
ダンジョン内の大まかな地図と、設置してある罠や出てくるボスを含めた魔物の詳細が書き込まれた羊皮紙を渡して、洞窟に向かう彼らを敬礼で送り出す
もう何度も繰り返してきた作業だ
彼らの背中が見えなくなった辺りで、見張り小屋兼オレの家へと戻る
地下10階層になるこのダンジョンは、初心者パーティーだとボスを倒すまでに5日から6日程かかるのが平均だ
果たして彼ら勇者様一行はどれくらいで戻って来るのだろう
もちろん場合によっては2度と戻ってこないパーティーもいるが、とても稀である
「あぁ、案内人さん。地図ありがとうございました、とても参考になって助かりましたよ」
これは驚いた
例の勇者様一行がダンジョンに入ってから3日目
昼過ぎに周辺の警備から小屋に帰ってくると、ほぼ無傷の状態でダンジョンから帰って来た彼らに出会った
「素晴らしい! 流石は勇者様一行だ!! たった3日でお戻りになるとは、長くここの案内人をしておりますが、片手で数える程しか見たことがありませんよ!!」
「いえいえ。案内人さんから貸してもらった地図と、俺の仲間達が優秀なおかげですよ」
「そんな謙虚な事を言わずに。そうだ! 良ければ家でお祝いをさせてください!!」
「えぇ!? お祝いだなんてとんでもない!?」
「ちょうどお昼ですし、皆様の休憩も兼ねてぜひ! 何よりこれから活躍なさるであろう勇者様一行に、始まりのダンジョン内の話を聞きたいのです!!」
3日で攻略するほどに優秀な勇者様達のこれからを想像して、つい興奮気味に彼らに詰め寄ってしまう
そんなオレの熱に当てられたのか勇者様の仲間からの後押しもあり、手狭な小屋の中へ勇者様一行を案内する
「いやー、突然にすいませんでした。ちょうど村から美味しい果物もいただいたので、皆様遠慮せずにお食べください」
机の上にところ狭しと並んだ料理の数々に、勇者様一行から遠慮がちな声が上がる
「まぁ、こんなに沢山。本当に私達がいただいて良いのでしょうか?」
「もちろんですとも聖女様。王都の有名店には程遠いでしょうが、召し上がってくださいな」
「んじゃ、遠慮なく……お、普通に旨いし!!」
「うん。魔術師の程、不味くない」
「ちょっと!? どうゆう意味よそれ!?」
「お口にあったようで良かったです、魔術師様に弓使い様」
ワイワイ、ガヤガヤ
賑やかな話し声と共に食事が進む
ダンジョン内で食べれる食事は限られる為、まだ慣れていない勇者様一行には3日ぶりのまともな食事は、たいそう気に入ってもらえたようだ
オレはダンジョン内での彼らの活躍ぶりに聞き入り、勇者様達も楽しげに話してくれる
用意した食事は早々に無くなり、食後ひと息にと入れたお茶を飲みながらまだ愉快に話していると、1番幼い魔術師様がうつらうつらと船をこぎ始めた
「おや? ああ、すいません。皆様お疲れなのに、オレばかり楽しく話をしてもらって……」
「いや、俺達の方こそこんなに歓迎してもらったんだ、ありがとう。そろそろ村に戻るとするよ」
「でしたら家を使ってください。2階は宿屋も兼ねているので部屋はありますよ?」
「そんな、案内人さんにそこまでお世話になるわけには……」
「ここまで引き止めてしまったのは、オレのせいでもありますから。久しぶりに楽しいお話を聞かせていただいたお礼とゆうことで」
「勇者様も聖女様も案内人さんがこう言ってるしイイじゃん。ワタシもうお腹一杯で動きたくなーい」
「まぁ、そこまで言うなら。何から何までありがとう、案内人さん」
勇者様一行を2階の客室へと連れて行き、男女別にという事で空いている2部屋に案内する
部屋から覗く窓からは既に日が沈みかけていた
「もうこんな時間だったのか、つい楽しく喋り過ぎてしまったようだ」
「オレも皆様の話に夢中なあまり、気がつきませんでした。もし何かあれば下におりますので」
「本当に案内人さんには世話になりっぱなし」
「ダンジョンに来た全ての人の警護もオレの仕事ですから」
にこやかな笑顔と一緒におやすみの挨拶を勇者様と弓使い様にしてから下へと降りる
山積みとなった食器を片付けてから、今度は1人用にお茶をいれて、日が沈み月が真上に昇る真夜中までのんびりと待つ
さて、そろそろ大丈夫だろう
「こんばんは、お久しぶりでございます……魔王様」
左耳に取りつけた透明な魔石が赤い光を放ち、数秒の雑音の後に、低い底冷えする氷のような声が返ってきた
「久しいな、アバトン。壮健なようでなによりだ」
「魔王様もお元気そうで。今回は例の件で、ご連絡差し上げた次第でございます」
「そうか。ならば直ぐに迎えを出そう」
そう言って魔石の赤い光は収まり、オレも小屋を出て迎えが来るダンジョンの出入り口まで夜の森を進んで行く
出入り口の洞窟前には既に人影が1人立っており、近付けば驚いた事に先程まで話していた魔王様本人
「これは魔王様。自らこんな辺境地までわざわざ?」
「城にずっと
「まぁ、早めに戻る事を勧めておきますよ」
「無論だとも。用事がすんだらすぐに戻る」
月明かりだけが照らす森の中を進み、我が家へと魔王様をご案内する
「こちらの2階に4名おります。有意義なご活用期待しておりますからね」
「あぁ……お前がただの人に転生して何をするかと疑っておったが、随分と楽しんでいるようではないか? アバトンよ?」
「そうでございましょうか?」
「死ぬ前に魔族領地に繋がる弱いダンジョンを作り始めた時は、遂に頭が狂ったかと思っていたぞ?」
「失礼ですねぇ、こうして敵の優秀な芽を摘む助けになっているといいますのに」
そう、ダンジョンに詳しいのは当たり前
だって生前のオレが作ったのだから、全てを知っているに決まってる
生前は魔族の、それも四天王と呼ばれる幹部の1人で、いよいよ寿命が近付いてきた時に発明した転生術で蘇ったのが今のオレだ
残念ながら生まれ変わり先が何になるか分からないが、今回はただの人間となった立場を利用して、自身の作ったダンジョンに腕試しにくる者達を見定めて、我らが魔族に敵対する人間の、特に優秀そうな者を魔族側に生け贄として譲り渡す役目を業務にしている
「では預かった。また頼んだぞ、アバトン」
「はい、もちろんですとも魔王様」
混ぜた睡眠薬のおかげでぐっすりと眠る4人の勇者一行を、魔法を使い浮かせてダンジョン奥に隠された魔族領のゲートへと運んで行く魔王様
道中に彼らの防具や武器を壊して置いて来たので、偽造も問題ないだろう
勇者一行がダンジョンへ入った日から1週間後
彼らが戻らぬ事をルワオ王国へと手紙で伝え、王国から来た屈強な兵士達がダンジョン内で無惨にも壊された彼らの装備品を見つけて、王国へと戻っていった
勇者一行が帰らぬ人となっても、始まりのダンジョンを訪れる者は減ることはない
あぁ、ほら今日も
不安に震える身体を正し、目を期待に輝かせた新しい挑戦者達が訪れる
「お待ち下さい! ここから先の洞窟は危険なダンジョン!! 失礼ですが身分の確認出来る物をお願いします」
転生村人A、元四天王アバトン
本日も訪れる者達を平凡な未来か、優秀な絶望へと案内する業務に
転生村人Aによるダンジョン案内業務 陸昼すず @OmoteuraNatuaki
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