JKが苦手な俺に彼女ができるまで

宝生フェノル

第1話 『天野川星座』

女子高生JK苦手症、その名の通り女子高生という存在に対して苦手意識を抱いてしまうという病の1種。

健全な男子高校生の俺はここ病を患ってしまい、非常に苦しく苦い学園生活が待っていた。

そんな俺──八代翔矢やしろしょうやにも遂に彼女が出来た。


今日は私立海ヶ咲高校卒業式、俺の濃密であっという間の青春の大舞台から去る日。

これまで色々あったな…思い返せば数え切れない程の想い出がある…っと、5人同時に来たか。

この中に俺の彼女もいる。


「あ、翔矢!もー、一緒に行こうって行ったじゃん!」


と、紫髪長髪の天然、天野川星座あまのがわせいざ


「そう怒らずに、お殿様にも事情があるものです」


と、相変わらず戦国武将×制服みたいなファッションスタイルの上杉鈴凛うえすぎりんり


「どうせ今日だけならわざわざ来なくて良くない〜?凄い面倒何だけど〜」


と、卒業式だと言うのに、相変わらず制服も、髪型も、喋りもラフな越谷詩熊こしがやしぐま


「何言ってるのよ!この私が輝く為の最後の大舞台!

華やかに去るのが礼儀じゃない!」


と、3年間高飛車を貫いた松風真理まつかぜしんり


「あんた達ねー、まともな人は居ないわけ?

はぁ、良くこんなので『友好研究会』が廃部にならなかったのか未だに分からない」


と、頭を抱えてやってきた、一見まともそうな三塚奏みつかかなで


俺達『友好研究会』のメンバーだ。

全員俺の大切な仲間であり、1人は俺の大切な彼女だ。


そうだな、折角の卒業式だ。

『友好研究会』の事を振り返ってみるのも悪くない──



──



舞落ちる桜の葉、新たに身を包んだ高校の制服。

今日は俺の青春のスタートを飾る私立海ヶ咲高校の入学式!

けれど、俺には気掛かりなことが一つあった。それは女子高生苦手症だ。

別に嫌いな訳じゃない、苦手なのだ。

けど、今の俺は男子高校生、共学の道に進んだ以上避けられない道。

だから、俺は極力女子生徒とは関わらない!そう誓った。


1年A組、それが俺が配属されたクラス。

ここで俺の平穏な生活が──


「あの、すみません。

席…間違えてませんか?」


「え?」


話しかけてきたのは女子高生…という言い方はやめよう。

同級生のクラスメイトだろう。


「あの…」


紫髪のスレンダーなその子は、俺が返事をしない事を怪訝に思ったんだろうな。

そりゃそうだ、何たってこれが俺なんだから。


女子高生苦手症──現役女子高生と対峙した時に起こる、理不尽な苦手意識。

だから何を話せばいいか分からないし、どう対処していいか分からなくなる。


しかし、さっきの席を間違えているという話、あれは本当だ。

女子と関わらない事ばかり考えていたからかな、席を前後1つ間違えていた。


「悪い、すぐ移動する」


「え?あ、はい…」


素っ気なくて悪いな。

俺だってこんな事したくてしてる訳じゃないんだ。

それ以降入学式が終わるまでの間、彼女と一切話す事はなく、無事に初日を乗り越えた。


ともかくこんな空間に長居は無用、俺は誰よりも先に昇降口に向かい、誰よりも先に高校の敷地から脱出した。


「ちょっと待って!」


後ろから誰かが呼び止めてくる。

嫌な予感がする…。


「あぁ、朝の」


「朝の、じゃない!正直ショックだったんだから!

勇気出して話しかけたのに…あんなに無愛想な態度取られて」


何が言いたいのだろう?


「そもそもなんでそっちのミスで、私がこんな思いしなくちゃならないの!」


「お前、そんな事言うために追いかけてきたのか?」


いい迷惑だ、俺は特にお前から離れたくて逃げてきたってのに。


「違う!思い出したのよ、あなたのこと。

近所で女子高生苦手症とかのたうち回って、女子から避けられてた男!」


「別にのたうち回ってはいないけど。

ってか、なんでお前がそんな事知ってんだよ。俺は誰にも言ってないぞ」


「まさか忘れたって言うの?

なら私に『お前はいずれ女子高生になる女だ、だから女子高生苦手症の俺はお前と仲良くしない』ってイライラするセリフ吐き捨てたのはどこの誰よ!」


「は?そんなの知ら──」


いや、知ってる。

中学の時だ、俺は1度だけ女子に話しかけられた。

眼中に無かったから忘れてたけど…確かそいつの髪色も紫だった。


「まさか2回も同じ経験を積むなんてね。

中学の時は、私は中学生だったし何も思わなかったけど、今日からは事情が違う。

クラス替えがないこの高校で、席替えがないこの状況で、真後ろの席であるあなたに嫌われてるなんて私はごめんよ!」


知るか。


「だから──私がその『女子高生苦手症』を意地でも治してあげる!」


その時だろう、俺が彼女──天野川星座が一筋縄じゃいかない存在だと気付いたのは。

結局俺は、後の3年間を彼女に振り回されるのだから。

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