ハロウィーンにて

渋谷のハロウィーン事件。


コスプレをした若者らが、軽トラを横転させた事件であるが、これはその舞台裏である。














「準備は、いい?」




「うん」




「オッケーだぜ」




 10月31日。


僕ら3人はその日、打ち上げ花火とドラムのホースを片手に、渋谷の改札前に集まっていた。


今日、このハロウィーンで、先日亡くなったショウの無念を晴らすんだ。


 地下から地上に上がると、辺りはゴスロリ風のファッションに身を包んだ人、赤と白のTシャツを着た人、サラリーマン、外国人などでごった返している。


僕らは早速、路肩に出て打ち上げ花火を設置した。




「シンジ、点火するぜ!」




「了解!」




 上空に花火を放つ。


開戦の合図だ。


更に、手にはロケット花火を持ち、人混みに向けて放つ。


同時に、悲鳴と、鋭い笛の音。




「そこの若者、何をやっているっ!」




「逃げろっ」




 警察が来るのは想定済みだ。


僕らは、全速力で地下鉄へと逃げ込み、警察を撒いた。


なぜ、こんなことをしているのか。


それには、こんな理由があった。
















「……くそっ」




 幼なじみのショウが亡くなった。


白い布を顔に被せて、まるで冗談みたいだ。


僕は、何も出来なかった。


ショウは白血病で、骨髄移植のドナーを待っていたが、結局間に合わなかった。


僕らは毎日、臓器移植に協力して欲しいと駅前でビラを配っていたが、通行人は誰一人、見向きもしなかった。




「邪魔なんだよっ」




 ある日、ビラを配っていたミチコが、おっさんに弾き飛ばされた。


チラシは床面にばらまかれ、それに他の者が足跡を付けていく。


僕はチラシを必死にかき集めて、また叫んだ。




「友達を、助けて下さい!」
















 


 僕らは、階段を駆け上がってアパートの屋上へとやって来た。


設置されている蛇口にホースを繋いで、それを伸ばして縁まで来ると、合図を送った。




「水、出してくれ!」




 ケンが蛇口を捻り、ホースの先から勢い良く水が出る。


僕は、ホースの口をつまみ、更に勢いを増幅させて通行人に浴びせかけた。




「うわっ、何なんだよっ」




 突然、降り注がれる水に戸惑い驚く。


その時、僕の目にある人物が飛び込んできた。


あの時、ミチコを弾き飛ばしたおっさんが、軽トラに乗り込む瞬間だ。




「ケン、ミチコ、あの軽トラに、あいつがいるっ」




 僕は無我夢中で階段を駆け下り、その軽トラの前に立ちはだかる。




「てめぇ、死にてーのか!」




 発進しようとした所に、僕が立ちはだかった為、急停車。


危うく引かれる所だったけど、間に合った。


僕はトラックをつかんで、力を込めた。




「ケン、ミチコ、力をかしてくれっ」




 みんなで力を込めるも、軽トラはビクともしない。


その時、グン、とトラックが動いた。


誰かが手を貸してくれている。


横を振り向いて、僕は驚いた。




「……お、お前!」




「へっ、水くせーぞ、シンジ」




 クラスメートのヤマダだ。


他にも、20数名のクラスメートが集まっていた。




「ラインで呼びかけたんだよ。 俺たちも、協力する」




「お前ら……」




 思わず、涙腺が緩んだ。


ショウの無念を晴らすために、みんなが協力してくれるなんて……




「せーのおおおーっ」




 クラス全員の力を結集させ、軽トラは横転した。


みんなでハイタッチをして、僕は空を見上げた。










おわり




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