イケニエ

第1話 祭り


少女は夜の町を歩く。

祭りの賑わいが夜の闇を照らし出す。

十歳程の浴衣姿の少女は、人ごみに飲まれ流されて、知らない町のみちを見ていた。

あれほどいた人波は、もうほとんどひいている。客も店員も失くした屋台が、空しく通りを照らしている。

少女は不思議に思った。

誰もいないのに賑やかなのは何でだろう。

この喧騒はどこから聞こえてくるのだろう。

見上げる空には、頼りない灯りの提灯ちょうちん。その向こうに半分のお月さま。

くらい闇が花柄の浴衣に絡みつく。

少女は不安だった。

お兄ちゃんはどこへ行ってしまったのだろう?

少女は兄と祭りに来ていた。毎年、兄と七夕祭りに来るのが少女の楽しみだった。

でもこんなことは初めてだ。

右の屋台の鉄板の上には、焼きそばが残されたまま。

焦げ付かないのだろうかと、少女は思った。

左の屋台には、チョコバナナが残されたまま。

誰もいなくて良いのだろうかと、少女は思った。

通り過ぎる人は、ゆらゆら揺れてよく見えない。顔も服も、何だかよく分からない。

「…どこ、お兄ちゃん…」

少女の名は小笹こざさ しずく

やがてイケニエとなる、哀れな存在。

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