第五回『曇りの学校が舞台の話。台詞は「消えても」』

春、穏やかな季節。……に、似つかわしくない曇り空。

いまの私の心境に相応しいような、そうでもないような……まぁ、微妙なところだ。


今まで勤めてきた小学校とも、今日でお別れすることになった。長かったようで短かったような……いや、やめよう。無限ループという奴だ。

今日の授業はすべて終わり、茜差し込む放課後。私はこれまでを振り返ろうと、教室を見て回ることにした。


低学年の教室。ここは大抵一階や二階に作られることが多い。休み時間に早く外で遊びたい子達には嬉しい仕様なのだろうが、これは同じく一階に設けられることが多い職員室から、子供達に何かあった時すぐ駆けつけられるようにという意図からなだけだったりもする。

昨今はいろいろと物騒になってきたこともあり、むしろ一階は危ないのではないかという意見も出ているらしい。そうは言っても学校のキャパが、と当時は反対する先生もいたが、少子化の進むこの国なら、あと十年足らずもすればむしろ空き教室問題なんてのが話題になるかもしれない。


階段を上がり、高学年の教室。この頃から、教師の仕事は目に見えて忙しくなる。

授業準備、部活動、保護者との面談、学校行事、スクールカースト……担任はそれらを一手に引き受けなければならない。これがいわゆる「ブラック」だと言われて久しいが、改善は難しいことだろう。いじめなんて発覚したらもう目も当てられない。

卒業するまでの数年間を耐えられるか否か、先生側にこそ問われている気がしてならない。


音楽室などの移動教室があることが多い最上階を後にし、屋上。

見上げた空は、やはり曇っていた。この回想の終わりに相応しいか否かは、もちろん微妙なところだ。まぁでも、私自身の最後には相応しいような気もする。誰にも気付かれずに、一日こうしていれたのだから。


「用務員一人消えても、大して気にされないもんなんだなぁ」

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