#14 僕は怯えたストーカー。
朝目を覚ますと、心がスッと軽かった。どうやらもう心の中に佳香さんはいない様だ。今回も無事、同一化が終わった事に僕はホッと一安心する.
「一体なんの法則性があるんだろう、これ...」
僕は疑問に思いつつ、この後鳴るであろう目覚まし時計のアラームを切ると、いつもの様に朝支度をしてから学校へと向かった。
教室の前に着くと、なにやら今日はいつも以上に騒がしかった。僕が教室に入ると、皆んなが一斉に僕に注目した。何だろうと教室をぐるりと見渡して見ると、その原因が分かった。黒板に僕と柏の名前が書かれた相合い傘が、大きく書かれていたからだ。悔しい事に、こんな幼稚ないたずらに、僕は怒りと恥ずかしさで頭に血が上ってしまった。
「子供だな、本当に」
僕は周りに聞こえないように呟いた。
幸か不幸か、柏はまだ来ていない様だった。僕は黒板のいたずら書きを消す為に急いで教壇に近づくと、感情を表に出さない様に、無言でそれを消していく。途中何人かのクラスメートが消すのを手伝ったくれた。消し終わると、手伝ってくれたクラスメート達に小さな声で「ありがとう」と言うと自分の机に座り冷静を装った。
柏が教室に入ってくると、クラスの男子達が騒ぎ始めた。僕は居心地の悪さに吐き気すら覚えるも、なんとか無視を決め込んだ。柏はというと、男子数人にちょっかいをかけられていたが、持ち前のトーク力の高さからなのか、それもだんだんとただの雑談へと変化していった。僕もああなれたらな。なんて、らしくない事を考えてしまっていると、時間通りに先生が教室に入ってきた。さっきまでのざわめきが徐々に収まり、今日もいつもと変わらない1日が始まった。
昼休みになると、僕の机に和樹がやって来た。内容はだいたい見当がついている。
「お前、柏のこと好きなの?何だったら俺が伝えてやろうか?」
ニヤニヤと見下した様な口調で彼は言った。とりあえず僕は相手にしない事にした。
「渉は柏のことが好きらしいぞ!」
すると耳鳴りがするほど大きい声で、和樹は叫んだ。一瞬の静寂の後、教室中がざわめき始めた。柏のグループが「やめなよ」「可哀想でしょ」と擁護する中、男子グループはさらにはやし立てて、他人事を面白おかしく笑う。すると、調子を良くした和樹がさらに言う。
「稔!もたもたしてると渉に取られちゃうぞ!」
男子グループの中がさらに湧いた。どうやら稔は柏の事が好きらしい。
すると稔は和樹に近ずくや否や、彼の顔面めがけて拳を放った。派手に倒れた和樹を後に、稔は教室を出る。残された男子グループは、稔をなだめる為に一緒に教室を出て行ってしまった。倒れてうずくまっている和樹が、とても滑稽で哀れに見えた。それと同時にざまあみろとも思ってしまった。僕は性格が悪いな。本当に嫌になる。その後、誰かが先生を呼びにまた教室を出て行った。
六限目の国語が終わると、僕と和樹と稔が呼び出された。呼び出されたのが帰りの会の前ということは、そんなに時間のかからない説教だな、なんていやらしい事を考えていると、先生が僕と和樹を見ながら言う。
「渉と和樹は最近仲が悪いみたいだけど、同じクラスメートなんだ。仲良くしなさい。」
同じクラスメートだから仲良くしなくちゃいけない、という理屈が僕には理解できなかった。けれど、この茶番を早く終わらせたい僕は無言で頷いた。ただ、十人十色?(たぶん使い方はあっているはずだ)の僕らが、すんなりと仲良くなんてできたら誰も苦労しないよ、と頭の中で小さな反抗をした。
「さ、お互い謝ろう。」
「ごめんな渉」
どう見ても目が笑っている。とことん人を馬鹿にしたいらしい。言い方が悪くなるけれど、こいつはクズだ。
「こっちこそ、ごめん」
僕は無表情で謝った。それからしばらく先生の話が続いた後、僕ら3人は自分の席に戻された。
放課後になり、皆んなが帰り出すと、僕は柏のグループから10メートル程離れて後ろをつけた。ストーカーみたいでいい気分ではなかったが、やっていることはストーカーのそれだから仕方がない。
僕の家から真反対の帰り道を数十分程歩いていると、グループの人数が徐々に減ってきた。さらに数分歩いてようやく最後の一人と別れると、やっと柏一人になった。僕は柏のもとへ駆け寄る。彼女は少しだけ驚いたという顔をしていたけれど、多分数十メートル離れただけでは尾行はバレていたんだと思う。
「どうしたの?まさか和樹くんが言ってたみたいに、本当に愛の告白をしに来たの?」
柏はいつもの愛嬌溢れる笑顔で言ってきた。僕は恥ずかしさを顔に出さない様に、何ともない風を装って言う。
「いきなりだけど、今週の日曜日、一緒に遊園地に行かない?」
「え?遊園地って...デート...?って本当に告白?!」
「違うよ。佳香さんと一緒に行くから、柏もどうかなって思って」
「えっ」
佳香さんと一緒という言葉にビクッと反応すると、柏は黙ってしまった。ここ一週間近く、二人の関係を聞いてきたけれど、ここまで過剰に反応したのは初めてだと思う。
「一緒にって...私は…」
彼女は言い淀むと、下を向いたまま固まってしまった。僕はどうしたらいいのか分からず、ポケットから遊園地のチケットを取り出す。
「とにかくチケット。はいこれ、渡しとくから来れたら来てよ」
そう言って僕は、逃げる様に自分の帰路に走って行った。
少しずるい渡し方にはなったけれど、この間僕も置いていかれたからこれでおあいこだ。
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