放課後はクレイジーキルト

吉岡梅

針はじめ

 その転校生が目の間に現れたのは10月の衣替えの頃だった。まだワイシャツ派とブレザー派が入り混じっている教室のドアがからりと開くと、たどP先生に続いて見慣れぬ学ランが入ってきた。ざわついていた教室がピリッとしたのは、学ランの風貌が少々いかつかったからだろう。厳ついっていうか、ド真っすぐにヤンキーだった。リーゼントに金髪だし。


「どうも、正岡佳朗まさおかよしおっす。よろしく」


 威勢よく挨拶した学ランが、彫りの深い三白眼で教室中のひとりひとりの顔を覗き込むようにしてゆっくりと見渡す。ひとりひとりを見定めているかのような視線に、普段は騒がしい小倉おぐらでさえ、戸惑っている。まるで誰かを探してでもいるようだ。なんかヤバそう。そんな不穏な雰囲気を破ったのは、空気を読まないことにかけては定評のある野球部の中山なかやまだった。


「おー正岡よろしくー、お前、部活は何やんの? 一緒に野球やらねーか?」


 さすが中山。バカだけど局地的に頼りになる。中山の一言で妙な緊張感から解き放たれたのか、男バスの伊東いとうちんや男バレのがんちゃんもウチがウチがと騒ぎ始めた。待て待てお前ら。確かに転校生の学ランは割とスポーツいけそうながっしりとした体格をしている。でもいいのか運動部? こいつ問題起こして出場停止までありそうだけど? そんな私の心配を他所に、いつものようにザワザワしだした教室を、学ランの一言が再び静かにさせた。


「いや、俺はもう入る部活決めてるんで。もっと所」


 ピリッとした空気が教室に流れ、運動部連中が顔を見合わせる。そして中山が、皆を代表するかのように尋ねた。


「気合入ったところって、どこなんだよ?」


 学ランはにっと笑って自信満々で言い放った。


「手芸部」


「手芸部!?」


 一気に教室中がザワつき、皆が一斉に私の方を見る。手芸部新部長であるところの私、西ヶ谷知花にしがやちかの顔を。おっ学ラン笑うと意外に可愛いーじゃーんなんて頬杖をついて見ていた私も少し遅れて事の次第を理解する。


 は? 手芸部!? ? そして教室はなぜか、私が一言言わなければいけないような空気になっていた。私は姿勢を正すと、メガネを直してひとつ咳ばらいをした。


「えと、よ……ようこそ」


 それが私がひねり出した精いっぱいの一言だった。

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