27話 VSタカシ

 あれから俺の攻撃ターンになって15分が経過。

 基本的に銃弾を中心に武器を集めていく。

 雫なら間違いなくタカシに勝てる。

 だから俺は雫が全力で戦える舞台を用意する。


「雫。信じてるぞ」

「うん。任せて」


 そうしてSシステムの自動戦闘に入れ替える。

 雫にブラック・リリーの肉体を任せる。


「しかしブラック・リリーって名前もあれだな」

「私はカッコいいと思うけど……」

「ブラック・リリーは個人名。これからは雫と俺の二人で一人。だから新しい名前が欲しいなと」

「……うーん」


 ブラック・リリー。意味は黒百合だ。

 雫が好きな花は百合。それと俺の好きな色を組み合わせた。

 そんな深い意味は無い名前だ。


「ブラック・リリー・クイーンなんてどうかな?」

「悪くないけど長いな……」

「まあね。でも私は産まれた時からTEQの姫として生きてきた。姫って単語は私を表す一文字だと思ってる。だから私を表すクイーン」

「ブラック・リリー言い換えて黒百合。そこに姫を加えて黒百合姫なんてどうだ?」

「うん! 良いと思う!」


 俺と雫。

 二人で黒百合姫。

 赤薔薇姫は一人で完結した存在。

 彼女と同じ領域に達するには二人で足りないところを補わないと無理だ。

 俺たちは一人だと弱い。でも二人なら……赤薔薇姫と対等になれる。

 そんな願いを込めた名前。赤薔薇姫を意識してないと言えば嘘になる。

 一人なら無理でも俺達二人ならきっと……


「それじゃあ行くね。勝ちに!」

「やってこい! 雫!」



 転移してタカシの元に行き現れた瞬間に銃を乱射する。

 しかしタカシは体を液体にしてそれを回避。

 それから俺の目の前に現れて、時飛ばしの時計を使用。

 ずっとその対策を考えてきた。

 でも至った答えはシンプルだった。

 俺一人なら出来ない。でも雫と二人なら出来る。


「雫! 代われ!」

「うん!」


 タカシがナイフを振りかざす。

 俺はすぐに即死の刃を出してタカシの武器を破壊。

 それからタカシの腹を蹴って距離を離していく。


「雫。サポートはするから思いっきり戦え」

「うん!」


 雫は近接戦は滅法弱い。

 だから近づかれたら俺に代わって蹴り飛ばすなんなりしてん距離を離す。

 そんな二人の共同作業だ。


「今のを読むのは想定外ですね」

「雑種が考えることなんてお見通しだよ。どこからでもかかってきな」


 時飛ばしの時計の対策。

 それは攻撃を全て受け切ることだ。

 考えてみたら30分逃げ切ればこちらに再び攻撃権が回ってくる。

 俺一人なら万全の状態のタカシから30分逃げるのは厳しい。

 でも、雫と二人ならそれが出来てしまう。


「30分。それ以内に私を殺せなかったら、あなたの負けだね。雑種一匹殺すのなんて造作もないからね」

「その慢心が命取りになりますよ!!」

「慢心せずして何が姫か……とでもいえば満足かな?」


 タカシが接近戦を仕掛けようと一気に走り込む。

 恐らくタカシは雫が接近戦を苦手としてることに気づいてる。

 腐っても準決勝まで駒を進める凄腕のプレイヤーってことか。

 だが、雫も的確に足を狙ってタカシを転ばせて距離を離していく。

 タカシの右手にはロングソード、左手にはハンドガンというTEQでのテンプレスタイルだ。しかも丁寧にハンドガンはご手寧に弾切れしないタイプ。

 俺もその武器を探したが運悪く見つけられなかった。

 そんな中でタカシが転移を使って背後に回って奇襲を仕掛ける。

 だが、雫は転移とほぼ同じタイミングで俺と入れ替わる。

 俺は転移で現れた位置とロングソードの剣筋を視認してから回避。

 普通なら見てから動いていたら間に合わないがSシステムで何倍も速く脳が動いてるため全てが止まって見える。

 だからこそ見てから行動でも簡単に間に合う。

 タカシは剣を躱されてすぐに銃を構えて発砲する。

 俺はそれと同時に雫と再び交代。

 雫が弾速から射線まで全て計算した発砲をして、俺の体に当たるか当たらないかギリギリのところで銃弾に銃弾をぶつけて叩き落す。

 相手の銃撃を防いで俺と変わり、タカシを蹴り飛ばそうとする。

 しかしタカシは液体になって蹴りを躱して俺の背後に回り込む。

 だが、そんなことは意味が無い。


「遅え……」

「これも見極めるか!?」


 タカシの振った剣を俺は簡単に躱して懐に潜り込んで腹に拳を叩き込む。

 それからバックステップで距離を取り、雫に交代する。

 しかし不思議なことにタカシはこれ以上の追撃をしてこなかった。

 それどころか啜り泣く声が聞こえる。


「……勝負ありかな」


 雫がタカシに問いかける。

 しかしタカシはそれに答えない。

 それを見て戦意が無いと判断した雫が銃を収めようとする。

 俺はそんな雫を慌てて止める。


「演技で油断したところを不意打ちされるかもしれねぇから構えとけ」

「分かった……」


 雫は考えが甘い。人を疑わない。それが雫の良いところでもあり、弱さでもある。

 だから俺がしっかりフォローする必要がある。


「勝たせてくれよ!! 俺を勝たせてくれよ!!!」


 そんな中でタカシが叫んだ。

 みっともなく泣きじゃくりながら叫ぶ。

 それこそ子供が駄々をこねるように。


「……何、調子の良いこと言ってるのかな?」


 その言葉を聞いて雫の動きが止まった。雫は静かにキレた。

 今まで聞いたことないような冷たい声が場を凍らせる。

 それから静かに自分の考えを述べていく。


「勝たせてくれ? それに二つ返事で頷くようなら私たちはこの場にいない。みんな必死になって勝つためにここにいる。あんまり私達を……いや、人を愚弄しないでくれるかな。すごく不愉快だから。逆にあなたは私達が勝たせてくれって言ったら負けてくれるの?」

「うるさい!!」

「うるさいのはあんたよ。戦う意味すら知らず、ぬるま湯で育ってきた。だからあんたはどこまではいこうが雑種なのよ」

「お前に何が分かる!」

「プライドが無いってことが分かるよ。勝つためなら平気でズルもするような人間。そしてズルをしてることに罪悪感も抱かない人間のクズ」

「黙れよ!!」

「運営からアイテム情報及び私達の能力内容の通達。私たちが知らないとでも思ったのかな?」

「勝つためなら仕方ないだろ!!」

「……勝つためね。単純な疑問なんだけど、あなたはズルして勝って満足するのかな?」


 勝つために手段を選ばないか。

 俺は今までにタイムリープをして勝ってきた。

 そして挙句の果てにSシステムなんてものを使用した。

 それは一種のズルではないだろうか?


「するね! 僕は何をしてでも勝つ! 勝つためなら頭だって下げてやる!」

「そう……残念だね。チート使いは司君一人で事足りてるんだよ。カス」


 俺は全て察した。雫がキレたのは勝ちを求めたからではない。

 単純に最初からキレていたのだ。この場で怒りを露わにした理由は簡単だ。

 周りから見て自分がキレるのは正常だと思わせるため。

 逆に雫が正しいと思える局面ならなんでも良かった。


「僕には付き合ってた彼女がいた」


 タカシは衝突に自分語りを始めた。

 恐らくそんなの雫にとってはどうでもいい。

 雫はタカシが運営から情報を聞くという一種のズルチートをした事にキレているのだ。もう雫は誰にも止められない。


「しかし彼女は半月前に交通事故で昏睡状態になった。今も目を覚まさない」


 雫にとってズルチートは俺だけに許された権利という認識なのだろう。

 だから雫はタカシがズルチートをした事実にキレている。

 俺以外の人間がズルチートをするということは雫にとっては寝取りに等しいのだろう。何故なら雫はズルチートを俺の専売特許だと思っているから。

 雫の吐く正論は相手を虐める手段であって本当は心底どうでもいいのだろう。だから平気でブーメランも投げる。


「でも彼女は手術すれば目を覚ますかもしれない。そのためには金が必要だ。だから俺はTEQで勝って金を稼ぐ!」


 言い終わると同時に雫は銃を構える。

 それからアナウンスが流れる。


『攻守交代の時間です。 ブラック・リリー様に攻撃権が移ります』

「知るか。さっさと退場しろ。雑種」


 雫は表情一つ変えることなく銃を撃つ。雫は誰よりも純粋だ。だからこそ平気で他人を傷つける。人を疑うということを知らない。だからこそ自分の考えを何よりも正しいと考えて俺と自分さえ良ければ何でも良いと考える悪魔的な女だ。


『勝者。ブラック・リリー』


 だから俺は雫を嫁に選んだ。

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