第25話本気で心を通わせたいから
ユベールの告白を聞いて、セレネーは平静を装いながらも戸惑う。
(こ、これも乙女として考えていいの? 体が完全に男性でも、中身が乙女のままならありなの? でもこの人、中身も男性っぽい感じなんだけど……)
このままカエルを預けて様子を見てもいいものか、それとも新しい乙女を探し出したほうがいいのか――セレネーには判断がつかなかった。しかし、
「そうでしたか……貴方の功績はよく知っていますし、私も今まで何度もお世話になりました……ユベール、貴方が元は女性であったとしても、貴方への信用は変わりませんから」
これから向き合わなければいけない当人のカエルが、一切の迷いなくユベールへ答える。
本人がいいなら、まあいっか。何もせずに憶測で決め付けるより、何事も試してみて判断したほうが間違いないし――そう思い、セレネーも腹を括ることにした。
「王子がそれでいいならアタシにも異論はないわ。じゃあユベール、王子をしばらくお願いするわね」
ホウキにまたがり胸元で小さく手を振ると、セレネーはゆっくりと浮上しながら姿を透明にし、城外へと飛んで行った。
いつものように宿を取り、セレネーは部屋に入って早速水晶球を手にして中を覗き込む。
ユベールはあれからすぐに城を出たらしく、自分の屋敷へ戻り、自室の一角にカエルがくつろげる場所を作っていた。
『アシュリー王子、これでいかがですか?』
常に剣を扱っているせいか、小ぎれいな顔とは裏腹にユベールの手はゴツゴツしている。そんな無骨な手を器用に動かして小さな人形用の家具や食器を用意する姿を見ると、女性だった名残りが垣間見える。
『ありがとうございます、こんなに良くして頂けて……しかもカエルの大きさにピッタリな家具まで……』
『まさか子供の頃に使っていた人形遊びの道具が王子のお役に立てる日が来るとは……捨てずにしまっておいて良かったです』
小さなソファーに座って感激しているカエルにユベールは微笑むと、懐かしそうに目を細めた。
『今の自分には相応しくない物だと分かっていますが、父が生きている間に私へ贈ってくれた唯一の物。どうしても捨てられませんでした……見る度に元の姿への未練が沸き上がってしまうので、少々複雑な思いになってしまいますが』
気になる……どうしてこうなったのよ? 王子、頑張って理由を尋ねてくれないかしら?
セレネーが水晶球の前でそう願っていると、カエルはユベールを見上げて申し訳なさそうに口端を下げた。
『すみません……もし不快でしたら、この家具を片付けて下さい。小さなカゴにハンカチを入れた物を置いて頂けるだけで十分に事足りますから』
『い、いえ! 不快ではありません! どうかお気になさらないで下さい』
『何せカエルで旅をしていると野宿は当たり前ですし、室内に入って雨風を凌げるだけでもどれだけありがたいことか……突然横殴りの雨に濡れて起こされたり、蛇や鳥や獣たちに襲われたり、無垢な子供に弄られたりする心配がないって素晴らしいです』
ちょっと、王子がひとりで解呪の旅をしていた時のことも気になるんだけど?!
どちらの事情もあまりに特殊過ぎて、純粋な好奇心から話を根掘り葉掘りと聞きたくなってしまう。口元がムズムズして、思わずセレネーは手を当てる。
(ダメね、面白半分にあれこれ詮索したくなっちゃうのは……それにしても、聞いてもおかしくない話題でもユベールのことを聞かないわね? もしかして――)
しばらくやり取りをして、ユベールが城へ戻ると部屋を離れた後、セレネーはカエルに問いかけた。
「王子、貴方わざとユベールの事情を聞かないようにしているでしょ?」
自分にしか聞こえないセレネーの声を聞いて、カエルはわずかに頷いて頭の中で答える。
(ええ……気にはなりますが、性別を変えるなんてよほどの事情があったのでしょう。私が尋ねれば答えてはくれるでしょうが……なんだか聞いてしまうと、今のユベールを否定しているように思われてしまいそうな気がして……)
好奇心に流されないカエルにセレネーは眉を上げる。
「さすが王子ね。解呪への取っ掛かりを作るのは大変そうだけど、そうやって心を砕いていけば叶いそうかも……頑張って」
(はい、セレネーさん! また貴女の力を借りてしまうと思いますが、どうか見守っていて下さい)
そう言うカエルの目は一点の曇りもなく、迷いなくこれからユベールと心を通わせていこうというやる気に溢れていた。
努力が実を結ぶといいけれど……と思いながら、セレネーは解呪後のことを想像して首を傾げる。
(もし呪いが解けたなら、ユベールを妃に迎えることになるの? それって可能なの? 女性に戻れば問題はないかもしれなけれど、それが彼女にとって嫌なことなら王子はそのままでいいって言いそうだし……解呪できた後も苦労が続きそうね)
ユベールと解呪を果たすことが、二人にとって幸せなのだろうかと考えてしまう。
しかし、あまりに迷いないカエルを見ていると大丈夫そうな気がしてきて、セレネーは「まあどうにかなるかしら」と呟いた。
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