第12話カエル、体を張って調査へ!

 キラは神竜の鱗が見つかった所を中心に、ゴツゴツと岩が隆起した地面を念入りに調べ、地震が起きると顔を上げて辺りを注視していた。


 何度かそれを繰り返した後、キラが独り言を漏らす。


『わずかだけれど、揺れる時に地面が上下してる……まるで呼吸しているような……』


 ゴクリと唾を呑み込み、額に滲んだ汗を拭う。変わり者の彼女でもやはり緊張するものかとセレネーが見守っていると、


『……となると、呼吸が不安定だなあ。お父さんのいびきみたい……うるさかったり、しばらく呼吸止まったり……あっ、まさか食べ過ぎて太って大きくなり過ぎたのかな? ちょっと竜さんの健康状態が心配……』


 ……やっぱりこの子、変わってる。

 怖がるどころか考察したり、妙な心配をしたり。その呟きを聞いていたカエルの心の声がセレネーに届く。


(根っからの研究者なんですね、キラさんは……素晴らしいです)


 この変わり者を好意的に受け入れられるカエルの懐の広さに、セレネーは脱帽しつつ確信する。王子も負けず劣らずの変わり者だと。


 キラは研究団から離れて岩窟の奥へと進んで行く。そして行き止まりへ辿り着くと、壁と地面の境目にランプを寄せ、屈みながら念入りに調べていった。

 そして深い亀裂を見つけると、そこを凝視し続けた。


 ゴゴゴゴ……と岩窟内が揺れる。すると亀裂の奥でわずかに赤い光が見えた。


『竜さん、この下にいるっぽいですね。もっと近づいて様子を見たいけど……つるはしで掘るしかありませんね』


『キ、キラさんっ、そんなことをしたら竜が目覚めて大変なことになりませんか?! しかもかなり深いですから、そこまで掘るのに時間もかかってしまいます』


 大胆なことを言い出すキラをカエルが慌てて止める。しかし納得できないようで、キラは『でも……』と不満そうに顔をしかめ、唇を尖らす。


 カエルはたじろぎながら、横目で亀裂を見やる。それから表情を引き締めてキラに申し出た。


『ここに細い縄か紐を垂らして、私がそれを伝って様子を見てきます。こんな小さなカエル一匹が近づいたところで、大きすぎる竜には気づかれないでしょうから』


『えっ! ……いいんですか、カエルさん?』


『貴女が望むなら、私は私にできる限りのことをしたいのです。ぜひやらせて下さい』


 頼もしく言っているが、水晶球からは近づいてジュッと燃えてしまわないかとか、手を滑らせて亀裂に落ちてしまって潰れガエルにならないかとか、カエルの動揺が聞こえてくる。


 恐怖を感じていても即座に申し出たカエルの頑張りに口元を緩めながら、セレネーは語りかけた。


「安心して。何かあれば私が魔法でなんとかするから」


(セレネーさぁぁぁんっ! ありがとうございます!!)


 表向きはキリッとしながらも、カエルの心の声は今にも泣き出しそうなほど揺れていた。この芯が強くなり切れないところが、可愛げがあっていいものだとセレネーは思う。


 提案通りにキラは腰に携帯していた細い縄を取り出し、亀裂の中へ垂らしていく。ピョンッとキラの胸元から飛び出たカエルは、『行ってきます』と手を振ってから縄を伝って降りていった。


 手を滑らせないように気を付けながら、時折飛び出た岩に体をこすらせながら、カエルは下へ、下へと向かっていく。


 そしてカエルが縄の先端まで降り切り、赤い光でその身を照らした時――ゴゴゴゴゴッと大きく地面が鳴動し、小さな体が激しく揺れた。


『ゲロロロロォォッ……ゲコォッ! ゲフッ……ケロロォ……』


『だ、大丈夫ですか、カエルさん?!』


『問題ありませんー! 地震で体が揺れただけですー! そんなことより……赤い光は竜の鱗でしたよ! みっちり並んでいます……あとほんのり熱が伝わってきて、温かくて気持ちいいです!』


 さっきの揺れで体を岩にぶつけまくって傷だらけにしながら、心配かけまいと何事もなかったような声でカエルが報告する。そんな状態とは気づかぬキラは、目を輝かせて喜んだ。


『ありがとうございます! これで報告することができます。カエルさん、気を付けて戻ってきて下さいー』


『分かりましたー!』


 えっちらおっちらとカエルが縄を登り出す。このまま戻れば、そのボロボロの姿にキラが心を痛めるだろうし、カエルも恰好がつかないだろう。そう思い、セレネーは回復の魔法をかけてカエルを治してあげた。


 あと間もなくでカエルが亀裂から抜け出せる頃――パッ! とキラが強い明かりに照らされた。

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