第19話 見えないのは、陽射し?

小松基地航空祭、昨年は台風が二つも来ていた影響から、午後のプログラムはほぼなくなったと言う。

今年はどうかと言うと、週間天気予報では午前中雨がパラつくのではと言う話だ。

正直ミーティング中の後藤総括班長の、視線が痛かった。

「雨木二尉!」

「はい」

「特大てるてる坊主をアグレッサーの方で作ってるらしいから、お前川嶋連れて手伝って来い」

「了解しました」

わざとしっかり敬礼したが、後藤二佐はまるで気に留めず深く頷いて戦術教導隊の隊舎に行くように言った。

「アグレッサーには僕の後輩いるから、よろしく〜」

足代三佐は手を振って言い、

「後で皐月三曹にもそっち行くように言っとく」

と話した。

皐月三曹は整備士のチームだから、ブルーに乗って来るパイロットとは違って、輸送機のC-2に乗って来る。

もう到着はしているが、整備士は整備士でミーティングがあった。

宙に声をかけて、戦術教導隊の隊舎に向かった。



隊舎を覗くと、自分たちよりは多少年上に当たるアグレッサー部隊のパイロットたちが、喜んで迎えてくれた。

「いやー、良かった!ブルーのパイロットさんが作るなら、雨が降ってもファンも喜ぶから」

何だか降ることが前提になってる。

大人の頭と同じ頭のサイズのてるてる坊主が4つ並んでいる。

裾にアグレッサーの機体特有の模様が入っていた。

「5つ目をブルーインパルスバージョンで作らない?君、雨木くんだよね。足代三佐の後ろに乗ってる…」

「はい、足代三佐にはお世話になっています」

「あの人もねー、噂の多い人だけど」

一尉の階級章を付けている。

「千歳にいた頃お世話になったんだよね、俺。藤田って言います」

「よろしくお願い致します」

「後ろの彼が、伏見の撃墜王の川嶋二尉だよね」

「よろしくお願い致します。そのあだ名不本意です。学生時代の噂が変な風に伝わったらしくて」

宙は困ったような顔して俯いた。

「お前、一体何を撃墜したんだよ?まさか足代三佐の噂みたいにロシアならぬ、中国の機体とやり合った訳じゃないよな」

わざと聞いてみた。大抵宙にまつわる噂は、彼に過失がない場合が多い。

見た目や能力がやや突出している為、噂が大袈裟になってしまうのだ。

「元々は、高校生の頃に点取り系のアクションゲームの得点が高かっただけなんですが、近所の女子高生や女子大生に変に追っかけられたりしたから…」

「…ああ」

またか。

何故、女子って奴は一局集中して同じ奴ばかり狙うんだろう。

今でも1番機はともかく、5番機はやたら女子の列が長い。TRの宙もイケメンだが、今のOR佐藤一尉もスラリとした高身長でSNSでも一番人気だ。

「お前、ORになったら結構ヤバいんじゃ」

先の苦労が思いやられる。自分がORになる百里基地航空祭で、宙はTRとしてお披露目になる。今から地元の女子のアマチュアカメラマンには人気がある為、松島基地航空祭でも随分呼び止められていた。

ただ、異動してきた頃のような無愛想ではなく、宙は宙なりに柔らかい態度でファンには接しているようだった。

一つ違いの皐月三曹とも、反目せず話せているようだし。

「雨木くん、こっちに材料あるからよろしく。吊るすのも手伝って」

「はい」

それから宙と2人でてるてる坊主に詰め物をして、クビに青いリボンをぎゅっと締めててるてる坊主を作った。

すると「失礼します」と凛とした声がして、皐月三曹がやって来た。

「皐月三曹、こっち手伝ってやって。俺そろそろ戻らないと」

少し時間は早いがブリーフィングがある。

頷く皐月三曹にじゃあ、と手を振って、元のブルーチームがブリーフィングルームに使用していた部屋に戻った。



「あれ?もう戻って来たの?」

「皐月三曹と宙がいますから」

「Sagitくんが戻ると思ってたのに」

「そんな気の利かないことしませんよ」

「え?」

足代三佐のマジか?って表情を見て、やれやれと思った。最近の宙と皐月三曹は、偶に松島基地でも二人で話しているところを見かける。足代三佐はそれを知らないのだろう。爆発物に危険物だった頃の二人を考えたら、二人で協力しててるてる坊主を作れなんて、話は迷惑を通り過ぎて、事件になってしまったかもしれない。

だが最近は皐月三曹も宙も、大分隊に馴染んで、雰囲気が柔らかくなって来た。

そうなったら、あの二人なら却って似合いなんじゃないだろうか。

もちろん朱夏の件で三人で話すことも多かったが、二人で話している時は気を利かせる事にしている。

「RAINくん、本気?」

「何がですか?」

「……」

足代三佐は呆れた表情でこちらを見た。

「バランスが良いと思ってたけど、意外と見えてないね、RAINくん」

見えてないのはそちらだろうとは思ったが、口には出さずブリーフィングの準備を始めた。

「可哀想に」

背中を向けていたので、良く聞き取れなかったが足代三佐が呟いたのは、誰に向かってか?



曇天の中予行が行われた。

五区分でのフライトだ。

ネットのファンの間でも基地内でも明日の天候の回復を祈っていたが、気象隊の報告は午前中はやや雨が残るとの事だった。

夕食前にチーム全員のブリーフィングが終わり、廊下に出ると宙と皐月三曹がいた。

ホラ、やっぱり。

宙にしても、皐月三曹にしても飛行機以外にあまり趣味がなさそうな生活だ。

それは俺もそうなんだが、あの二人なら折り合えれば却って話が合うんじゃないかと、度々思った。

宙は今までの半生から仕方ないが、やや人間不信の気味があるが、最近変わって来ている。

皐月三曹がもう少し、あの笑顔で笑ってくれたら…。

何だか後輩に先を越される辺り、自分は要領が悪いかもしれないな、などと考えながら、こっそり二人のいる方向とは反対方向に歩いて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る