Tips:吸血甲冑を運用するにあたって提出が必要な書式とその意義について

 強大な兵器であるVMは、今や戦場の主役であるが故にその扱いには細心の注意を払わなければならない。特に公的機関であるバンパニア軍や王国騎士団などでは厳密な管理が行われている。

 その一例として挙げられるのが、『運用申請書』だ。どんな用途であれ、VMを指定の格納庫から外へ持ち出す際には、一回につき一枚、必ず記入しなければならない。主な記入事項は、運用する機体の名称及び通し番号、運用目的とその予定日時、装者(機体の保管場所変更等で誰も乗り込まない場合は携わった中で最も階級の高い者の名前を書く)と同行者(居なければ無記入でも良い)に、運用予定地だ。他にも細々とした項目はあるが、今回は割愛する。

 この申請書に加え、任務などでの運用完了後には必ず『運用報告書』を書かなければならない。こちらも一回につき一枚、申請書とセットで必ず書くものと考えればよい。記入欄は申請書とあまり変わらないものになるが、こちらは実際の運用結果を記入する。申請内容との相違があれば、もだ。裏面にはログアウトソーサーによって抽出した行動ログを添付する。

 ただVMを動かすだけでなぜこんな七面倒臭い儀式が必要なのかと言えば、万が一の際に外交上の問題を円滑に解決するためだ。

 この二枚と騎士の業務日誌を照らし合わせることで、国はVMの運用状況を詳細に管理・把握することができる。例えば他国に「本日明朝、ドラゴンクラス一機による領地の侵害があった。誠に遺憾である」と難癖をつけられたとしよう。その際に、バンパニアはこの三種の書式を用いることで身の潔白を証明できるというわけだ。これは外交上とても重要なことであり、無駄な諍いを避けるために必ず必要になる。だからこそVMの無断製造は厳罰に処されるし、違法にVMを運用するヴァンパレスはその行動そのものが国に仇なす行為となる……というわけだ。


 とはいえ、どんな時も必ず事前申請ができるわけではない。例えば戦時中。これはまた別の書式が存在する。これに限らず戦時中の認可フローは最低限のものになる。

 他にもやむにやまれぬ事情で事前申請ができなかった場合に存在するのが『臨時運用報告書』だ。後出しで提出するだけで身の潔白を証明できる魔法の書式だが、ログデータのフローごとに行動目的を記入しなければならないため非常に面倒な代物となっている。これを嫌がる騎士達は、例えば当番の際には事前に丸一日分の運用申請を出しておいて、襲撃の有無、時間帯に合わせて運用報告書を提出する。当然、事前申請を出しておいたなら必ず運用しなければならないというわけではないのだ。もっとも、その場合でも報告書の記入は必要になるのだが。


 なお、他所のVMを拝借して使用した場合――例えばメライアがガリアを捕まえる際に工事現場からダイダラボッチを借り受けた時のように――の書式も別に存在する。こちらは簡易的なものになっていて、機種とその所有者(法人でも可)に、使用時間と目的のみ。ログは必要ない。ログアウトソーサーの装備は努力義務であるため、民間機にはあまり装備されていないからだ。

 一部の不届き者は、たとえ最初から必要だとわかっていても現地で民間機を借り受けるという抜け穴的運用を行っている。借用時の書式が簡易的なのはあくまでであり、騎士が楽をするためのものではない。気高い騎士の身分にありながらもそこを履き違える者が多いというのは、誠に遺憾な実情である。


 因みに最新式のログアウトソーサーには座標データや装者の思考プロセスも記録されるため、細かい書式を用意しなくてもログだけで行動証明が可能となる。むしろ自己申告による手書きの書式より信頼性が高いぐらいだ。共和国の軍隊では既に全面的な機種転換と書式の刷新が行われており、運用申請書や報告書にあたる書式が廃止されている。このことからもわかるように、昨今のトレンドはログのみの一元管理。メライアも最終的にはこれを目指しているのだが、しかしVMの保有数の多い王国では機種転換に掛かるコストも非常に嵩が張る。旧式を残した状態で書式を変えることはできないため、改定は当分先になるだろうというのが大方の読みだ。

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