第67話 戦え僕らのスーパーロボット! 吸血甲冑ドラクリアン!!

 コアを貫かれたデヴォルメンは、しかし動きを止めなかった。不相応なまでの大出力をそのままに、無理矢理二機を振り払う。

「それがどうした! 俺のコアはまだ三つあるぞ! 自己再生に出力強化、空中浮遊だ!」

 吠えるガリアワン。着地したキルビスが冷淡な声で言う。

「そう。四つまでなんだ。父さんも母さんも、まだまだね」

 それからガリアに向き直り、力強く激励した。

「ガリア! ドラクリアンのコアは一つだけど、とびきり強いのが入ってる! 性能はそっちのほうが上!」

「戯言を!」

 ガリアワンの雄叫びに呼応するかのように、五機のサタンドールが周囲を取り囲む。メライアとキルビスはそれぞれ目前の機体に突進し、戦域から離脱する。

「ガリア、君なら勝てる。他は私達に任せろ!」

 しかしガリアの身体は限界だった。戦い続けたことによる疲労。血を吸われすぎたことから来る虚脱感を始めとした機能障害。息も上がりっぱなしで、立っていることすら苦しい。これ以上戦えるわけがないのだ。

 返事代わりの荒い呼吸に、しかしキルビスはこう言った。

「勝ったらメライアがエッチしてくれるって!」

 麻痺しきった脳が刺激を取り戻す。くすんだ瞳に光が宿る。乾いた唇の隙間から、弱々しく声が漏れた。

「……メライアが?」

 エッチシテクレル?

「な、なんだそれは!? 聞いてないぞ!?」

 メライアが叫ぶ。キルビスは構わず続けた。

「メライアを丸一日、ガリアの好きにしていいって言ってた!」

「言ってない!」

 意識が朦朧としているのでメライアの声は聞こえない。本当だぞ。

「一日……好きに……」

 力がみなぎる。魂が燃え上がる。俺の○○○がほとばしる。

 虚脱感が抜けていく。全身を駆け巡る強い熱を帯びた感情が、足の先から頭の先までクリアな意識を運び込む。広がる視界。研ぎ澄まされた五感。

 出力最大、吠えろドラクリアン。

 おぼろげだった足取りは、もはやどこにもない。鋼鉄の両足はしっかりと地面を踏みしめ、大地に根を張るように力強く立ち上がる。

 迎え撃つのはデヴォルメンと、サタンドールが三機。足りない。いくら数を揃えても、誰一人として今のガリアは止められないだろう。

「俺はもう、負ける気がしねえ!!」

 第三ラウンドだ。

 



 挿入歌『ドラクリアンのテーマ』


 真紅の鎧を身に纏い 闇にきらめく二本角

 不死身の力で敵を討て 必殺の一撃

 撃て! バレット スマッシャーナックル!!

 貫け! メテオフラッシュ!!

運命さだめくびき砕いて

 さあ乗りこなせよ本能

 僕らの ドラクリアン!


 父の頭脳と母の夢 姉の思いを握りしめ

 俺の血潮が燃え上がる お前と同じ真紅いろ

 闇で欺け! ノスフェラートミスト!!

 灼き尽くせ! グローズビーム!!

 悪魔の腕を振るって

 心の鼓動ビート刻んで

 戦え ドラクリアン!


 お前が悪魔だとしても

 立ち上がれ愛のため

 この身が砕け散っても 愛しい姿なくても

 俺だけはここにいる


 ☆ くりかえし




「面白くなってきたなあ!」

 デヴォルメンが片手を上げると、導かれるようにサタンドールが駆け出す。三角陣形だ。

「くたばれや!」

 ガリアは先頭の一気と組み合う。パワーの差は歴然だ。組み込まれた竜の骨筋を断ち切り、サタンドールの両腕をへし折る。

「トドメだ! メテオフラッシュ!!」

 煌めく眼光。真っ直ぐに伸びた光線がコックピットを貫いた。次。

 目にも留まらぬ惨殺劇に日和った二機は動きを止める。三角陣形は動き続けることが肝要。足を止めた獲物に、ドラクリアンの魔の手が迫る。――気づけば、黒い霧が辺りを包み込んでいた。

 周囲を見回すサタンドール。相当に焦っているのだろう。無意味に移動を繰り返しながら、おっかなびっくり周囲を探る。ガリアにはその動きが手に取るようにわかった。まずは一機目だ。背後から近づいて頭部を握り潰す。遅れて振り返った胴体に、手刀を一突き。残り一機。

 ガリアはドラクリアンの出力を上げた。吹き荒ぶ風に一瞬にして霧が吹き飛ぶ。景色の変化に騒然としたサタンドール。初いやつめ。とびきりのパターンを食らわせてやる。

「バレットスマッシャーナックル!!」

 突き出す両腕が宙を舞う。突き進む拳は両腕を吹き飛ばし、丸裸になった機体に再構成された右腕が迫る。

 胸ぐらを掴み、一撃。

「メテオフラッシュ!!」

 機体を貫く光線。三下は全て片付いた。

「さあ、本番と行こうか」

 ガリアの言葉にガリアワンは呼応する。同じ存在同士、どうしようもなく気が合ってしまうのだ。

「そうこなくっちゃなあ!」

 どちらが早かっただろうか。駆け出す二機が、荒れ果てた大地を踏み鳴らして交錯する。ガリアが掴んだ。デヴォルメンが避けた。嘲るように放たれた極太の光線。ドラクリアンは跳躍。

「楽しいなあ、ガリアゼロ!」

 着地を狙った足払い。ガリアはあえてそれを受け、倒れ込みながらデヴォルメンを引き倒す。無理に倒された機体が大地をえぐり、石を巻き込んで悲鳴のような甲高い音を立てた。

「お生憎様!!」

 ゴロゴロと地面を転がる二機。ドラクリアンは出力に任せて乱暴にマウントポジションを確保。喧嘩殺法だ。抵抗する腕を掴んでバレットスマッシャーナックル。引きちぎられた異形の腕が宙を舞い、背後の地面に突き刺さった。

「俺はこれからもっと楽しいことがある!!」

 しかし片時も油断はできない。

 自己再生が始まる前にコアを仕留める。頭突き。デヴォルメンの水晶の目がひび割れる。その奥で鈍く輝く物体を、ドラクリアンは鷲掴みにした。

 昔、マリエッタが言っていたことを思い出す。

 ――「自分を叩き込むだけではいけません。同時に相手のすべてを受け入れるのです。それでこそ、拳と拳の対話の真髄。肉体言語なのです」

 今のガリアにはそれが理解できた。ぶつかりあったガリアワンの悲鳴が、恐怖が、心の叫びが、手に取るようにわかるのだ。

 そして――彼が、コピーの身でありながら誰かに認めて欲しかったことも。だから単機でガリアを襲撃し、手柄を立てようとしたことも。

 全部全部甘いんだよ。

「残り二つだ!!」

 コアを砕かれたデヴォルメンの自己再生が止まる。残るは空中浮遊と出力強化。

「ゼロのくせに!!」

 かすれる声でガリアワンが叫ぶ。デヴォルメンが出力を上げ、ドラクリアンを振り払って飛び立った。

「逃がすか! メテオフラッシュ!」

 右足の付け根! 残り一つ!

 落下したデヴォルメンの胴体に、鋼鉄の腕をねじ込んだ。漏れ出す輝きを握りしめ、一言。

「……終わりだ!!」

 デカブツごと沈めてやる。大好きなママと一緒にくたばりな!!

 ガリアは三度出力を上げ、デヴォルメンを中空に放り出す。射線は開いた。ドラクリアン最大最強のこの一撃!

「グロォーズビィーッム!」

 開いた砲口から、超強力な光線魔法が放たれた。それはデヴォルメンを焼き尽くし、南の空に浮かんだ浮遊物体の翼を折る。黒煙を上げ高度を落とす浮遊物体。ガリアの勝ちだ。

「うぉっしゃぁ!!」

 夕日が沈む中、ガリアの雄叫びが荒野に轟いた。

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