第63話 開戦、俺と俺!

 謎の巨大物体は、依然として空中を進行している。幸いなことに進行ルート上に人里はなく、迎撃も森の上で行うことができそうだ。

 進行速度が変わらなければ、作戦決行は夕方になる。大砲の仕掛けられた森から少し離れた平原で、ガリアはドラクリアンと共に待機していた。

 作戦の内容を確認していると、メライアに肩を叩かれる。

「調子はどうかな?」

 パーツの取り寄せが必要ならしくレギンレイヴの修理がまだ終わっていないため、彼女は今回大砲隊の指揮を執ることになっていた。

「ぼちぼちだ。だんだんめんどくさくなってきた」

 戦うのは好きなのだが、大々的に作戦と言われると息苦しくて仕方がない。周囲と足並みを揃えないといけないし、最悪撤退の指示も出る。ドラクリアンの力があれば、何が来ても蹴散らせると思うのだが。

 ガリアの心情を察してから、メライアは諭すように言う。

「ドラクリアンの性能はまだ未知数だ。この前のようなパワーが今回出せるとも限らない。だから後ろの部隊になっている」

 そうなのだ。今回ガリアは裏方。最前線はエリート部隊によって固められているので、新顔でかつ機体がよくわからないガリアは裏に回されてしまったのだ。

 これではおこぼれに預かることすらできないだろう。エリート部隊にはマリエッタやギルエラ、マジータちゃんまで参加しているのだ。雑兵などすぐに片付いてしまう。

「せっかく派手にやれると思ったのになあ」

 因みに、似たような立場であるはずのキルビスは、貴重な飛行要員として遊撃部隊に組み込まれていた。巨大物体に直接仕掛けるのも彼女の仕事である。飛べるってずるい。

 メライアは苦笑した。

「そもそも、今回は砲戦だけで片がつく可能性が高い。相手が相手だからな」

「そうなんだよな……」

 思うように戦えない。ガリアにはそれが退屈で仕方がなかった。



「なぜ俺が出られない!?」

 ガリアワンは、長身の女に掴みかかった。

「デヴォルメンはまだ未完成。それに今回は小手調べだ。サタンドールの性能試験もある」

 女の怜悧な声にガリアⅠは身じろぎしたが、しかしすぐに調子を取り戻す。

「言ってろ! 俺は勝手に出るからな!!」

 そう言って、女に背を向け駆け出した。女が手を伸ばすも、もう追いつけるような距離ではない。

「待て! ……子供というものは、いくつ作っても御しがたいものだな」

 そう言った女は、薄い感情の伴ったため息を吐き出すのみだった。



 巨大物体から飛び出した異形の影に一同は騒然とした。それは少しばかり形が変わっているが、紛れもなくデヴォルメンだ。

 ドラゴンクラスのVMが単機で現れる――想定外の状況に、しかし現場はすぐに対応する。

「単機でも複数でも迎撃要領は変わらない! 大砲隊、前へ!」

 デヴォルメンへ向けて、次々と砲弾が放たれた。しかしガリアワンはそれを気にも留めず、一目散にガリアの元へと飛んでくる。

「ガリアゼロ! その機体ごとお前をいただく!!」

 こちらに来てくれるならば都合がいい。空からの襲撃を、ガリアは正面切って受け止めた。

「うっせー黙れ! オレモドキ!! ブチ殺してやるからよ!!」

「乗り気じゃねえか! そうこなくちゃな!!」

 ガリアの言葉に、ガリアワンは嬉しそうに応じる。そのコックピットに好戦的な笑顔を幻視した。

 そう。

 結局の所、同じなのだ。こいつはガリアのコピーで、頭の先から足の先まで同じようにできている。だからきっと、まどろっこしい作戦に耐えられずに突っ込んできたのだ。

「お前も退屈してたんだな!? 都合がいい!!」

 拳と拳を打ち合わせ、ガリアは歓喜の声を上げる。種が割れてしまえばどうということはない。敵が同じ顔と同じ思考回路を持った相手であろうと、自分のコピーであろうと、

 大切なのは、今の自分がどう思っているか。考えてみれば簡単なこと。どれだけ精巧なコピーであろうと、それは自分自身ではない。ここに立っている自分だけが、唯一無二の本物のガリアなのだから。

 いいや、そうじゃない。それだけじゃない。偽物だとか本物だとか、そんなことすらどうでもいい。むしろガリアが、自分自身がコピーの偽物であっても、些細な問題ではないだろう。重要なのは今の自分。ただそれだけだ。

 ガリアの猛攻にデヴォルメンは圧されていた。全身の武装をフルに活かした肉弾戦。距離を置けばバレットスマッシャーナックル。空を飛べばメテオフラッシュで撃ち落とし、近づけばノスフェラートミストとワンツーパンチのコンボ。ガリアは確実に腕を上げている。

「流石だなドラクリアン! 相手にとって不足はない! ギアを上げていくぞ!!」

 ガリアワンが雄叫びを上げた。デヴォルメンの異形に、不可思議な文様が浮かんでいく。

妖精の骨フェアリーボーンは炉の出力を一時的に跳ね上げる!」

 刹那、デヴォルメンの動きが変わった。

 力任せにドラクリアンを押さえ込み、魔法陣を展開。極太の光線を照射する。機体を押さえる異形の腕を振り払って間一髪で回避すると、紫色の光が大地を抉った。恐ろしい威力だ。

「クラーケンの心臓は魔力を蓄積する。要はドでかい蓄魔荷装置コンデンサーになるんだ」

 妖精の骨で跳ね上げた出力をクラーケンの心臓で濃縮して解き放つ。それが先程の光線のカラクリだろう。

「御託を!! バレットスマッシャーナックル!」

 再び掴まれた前腕を射出し拘束を逃れる。しかしデヴォルメンはわざと背後で爆発を起こし、その勢いで体当たりを仕掛けてきた。対策を打たれたのだ。

「タネさえ割れてしまえばなあ!!」

 大出力で放たれた体当たりは、その質量も相まって超強力な兵装となる。再成形された両腕で巨体を受け止めると、不快な音を立てて関節がきしむ。とうに逆転した形勢の中、ガリアは叫んだ。

「唸れッ! ドラクリアン!!」

 一か八か。あの時のパワーをもう一度使う。

「そうだ、もがけ! お前の実力はその程度じゃないだろう!!」

「黙って見てろ!!」

 力がみなぎる。鋼鉄の拳を固く握り込み、デヴォルメンに正拳突きを叩き込む。――捉えた!! 正面装甲を砕き、奥へと食い込ませる。

「こいつぁ、流石に!」

 身動ぎするデヴォルメンに、容赦なく追い打ちをかけた。

「バレットスマッシャーナックル!!」

 射出される前腕に押され、デヴォルメンは土埃を上げ後ずさった。――爆発!

「やったか!?」

 爆発的に高まった出力を一点に叩き込んだ。その上装甲の隙間に爆発を食らっている。ただでは済まないだろう。

 巻き上がる砂埃の中、しかしそれはまだ立ち上がる。

「効くなこいつぁ……だがまだだ。第二ラウンドと行こうじゃねえか!!」

 デヴォルメンの装甲には、なぜか傷一つついていない。

「俺にも奥の手ってのがあるんだなぁ、これが!!」

 二人の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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