第47話 僕らも戦う、君と一緒に
「惨めだな、ガリアゼロ!」
遂になにも言わなくなったガリアを見て、ガリアⅦは不敵に笑う。
「そうか。お前はその程度だったか。俺は残念だな、自分がこんなにヤワな奴で」
自他の境界が崩れる。自分やあいつが何者なのか、今のガリアにはわからない。自分はガリアだと思う。じゃあ、目の前のあいつは一体なんなんだ?
俺の魂をコピーしたのがあいつらだ。しかし、コピーとコピー元のどこに違いがあるというのか。そもそも出自がすべて等しく計画のためであれば、どれが一番最初かなんて些細な問題ではないのか。
俺は一体なにものなんだ。
「フン……殺さぬようにとは言われていたが、事故で死ぬ分には構わないだろう」
ガリアⅦはそう言うと、ガリアⅠから受け取っていた小箱を、動かなくなったダイカイザークにかざす。
「これを触媒にして魔力伝導率を高めれば……ようやく、ダイカイザークが真の姿になる。さあ、俺に力を見せてみろ」
胴だけになった機体に、失われていたはずの光が宿る。船体すべてが大きな音を立て、その姿を変えていく。
「いでよ、グレートダイカイザーク!!」
まるで生きているかのように脈動する船体。どよめく木材の間をすり抜け、騎士の鎧を模した機体が現れた。
「状況がおかしい、一度退くぞガリア!」
飛び込んできたレギンレイヴが、立ちすくむドラクリアンを見て叫ぶ。
「どうしたガリア。退くぞ!」
ガリアは答えない。
しびれを切らしたメライアは、強引にドラクリアンを抱えると、他の船員達と共に蠢く船内から離脱する。
抱えられた機体の中で、ガリアはひたすらに海を眺めていた。
※
機体から引きずり降ろされたガリアは、完全に呆けていた。
自室のソファに座らされ、なにを嘆くこともなく、ただひたすら虚空に視線を漂わせている。その瞳は、なにも見てはいなかった。
「ガリア。一体なにがあったんだ」
メライアの問いに、かろうじて答える。絞り出された、思考の残り滓。
「……わからない。わからなくなった」
メライアは、隣りに座っているキルビスと顔を見合わせた。ガリアになにが起きているのか、さっぱりわかっていない様子だ。現場を見ていなかった上に、ガリアもなにも語らないので仕方がないだろう。
「ガリア。姉ちゃん、ちゃんと聞くから。教えて欲しいな」
ガリア自身、このままでいいとは思っていない。しかし、本当にわからないのだ。自分は何者で、なにを悩んでいるのか。どうしてこんな虚無感に襲われているのか。心の中がぐちゃぐちゃで、なにを嘆いていいのかすらもわからない。わからないから、涙を流すような余裕さえなかった。思いっきり泣いて、嘆くことができれば……どんなに楽になれただろうか。それすらも、叶わない。ただ苦悩と辛さだけがガリアの心を苛み続ける。
ガリアの様子になにかを悟ったのか、キルビスはゆっくりと言う。
「ガリア。まずは、一体なにがあったのか教えて欲しいの。そうしたら、姉ちゃんも一緒に考えるから」
なにがあったのか。乱れた思考を精一杯に整理して、ガリアはあったことを語る。
「……奴らが……ラッキーとか、アリアが、俺だった」
メライアとキルビスは再び顔を見合わせる。ガリアも状況こそわかっているが、断片的な事実を知らされただけで理解が追いついていない。ただ本能的にそれが事実であることはわかっていて、だからこそ感情が乱れている。
今は、とにかく説明しなければ。
なにがあったのか。どんな事実が判明したのか。それだけに集中し、ガリアは口を開く。
「あいつらが……言ってたんだ。あいつらは俺のコピーで、俺は計画のために産まれてきたって」
ガリアの言葉に反応し、キルビスの額を冷や汗が伝う。それを見てなにか勘付いたらしい、メライアが横目で彼女を睨む。
「……おい。なにか知っているようだな」
取り乱すキルビス。
「違う。ガリアはガリアだから。計画のための礎なんかじゃないから。やっぱり連れて逃げればよかった……!」
彼女はなにかを知っている。真実を隠そうとしている。メライアは息を上げたキルビスの肩を両手で握り、泳ぐ瞳を真っ直ぐに見据えた。
「ちゃんと話せ。ガリアが混乱する」
メライアの鬼気迫る言い方に、観念したのかキルビスは語り出す。
「……ガリアは、産まれてからすぐに父さん達の計画に巻き込まれた。 "私の" 両親は、我が子を利用することすら辞さない、悪魔のような人間だったんだ」
キルビスの両親は、すなわちガリアの両親だ。だからこそ、彼女は "私の" 両親であることを強調したのだろう。これ以上、ガリアに付随するいろいろなことを否定しないために。
「父さん達は、産まれたばかりのガリアに洗脳じみた教育を施した。VMについて、ありとあらゆる事柄を。クーデターを実行するための尖兵――最強の兵士として」
腑に落ちたように頷くメライア。
「だから吸血甲冑に詳しかったんだな……」
しかしキルビスの話は終わらない。
「それだけじゃない。……父さん達は、ガリアのすべてをコピーして、自分達の兵隊を造り上げた。そして、コピーしたガリア達が戦うために、DナンバーのVMを開発した」
「待て。Dナンバーはドラクリアンだけじゃなかったのか」
「他にも居る。デヴォルメン、ダークレイヴン、ダンディット……私が知ってるのは、これぐらいだけど」
デヴォルメンはガリアⅠが乗っていたし、ダンディットはアリアが使っていた。間違いないだろう。メライアも気づいたのか、単語が出るたび眉をピクリと動かしていた。それから一呼吸置いて、メライアは腕を組み言う。
「きな臭くなってきた。アリアが資料を消して回っていたのはこのためか」
「かもね。最初は結構堂々とやってたみたいだし。まあ、周りの支持を得られなくて失敗したんだけど」
キルビスの言葉には棘がある。気になったのか、メライアは首を傾げた。
「辛辣だな。ご両親のことじゃないか」
意地の悪い質問。しかしキルビスは毅然として答える。
「親の理想なんてわからない。でも、それは関係ない。計画のために、ガリアを……私の可愛い弟を、酷い目に遭わせたんだ。絶対に許さないよ」
その答えに満足したのかどうかはわからないが、ひとまずメライアは頷いた。それからガリアに視線を向け、言う。
「……だそうだ。君が聞いた話と、違いはないな?」
キルビスの言っていたことは、ガリアⅠやⅦの言っていたことと合致している。恐らく、それが真実なのだろう。
「ああ……そうだな」
ガリアが頷くと、メライアは立ち上がり、さっさと話を進める。
「そうか。なるほど。それで君は、自らの出自と……アリアが、自分のコピーだったことに戸惑っているんだろう」
「……そうかもしれない。俺は自分がわからない」
「一度に多くのことがわかりすぎた。どう悩んでいいのかすら、わからないんだろう」
「……かもしれない」
言語化してもらい、ようやくそんな気がしてきた。頷くと、メライアがガリアの隣に腰掛ける。優しく、ゆっくりとした抱擁。
「大丈夫。君には私達がいる。わからないことがあったら一緒に考えるし、辛いことがあったら慰めよう。そうだろう、お姉ちゃん?」
挑発的な笑みを向けられ、うつむきがちになっていたキルビスも立ち上がる。メライアとは逆側からガリアを抱き寄せ、優しく囁く。
「姉ちゃんはガリアの味方だよ。なにがあっても絶対に、君を見捨てたりしない」
二人に名前を呼ばれて、ガリアはようやく自分がガリアであることに自信が持てた。メライアとキルビス、二人が居れば、ガリアはガリアであると、自信を持って宣言できる。
俺はガリアだ。とにかく今は、それだけで十分だった。
「……ありがとう」
二人をそっと押しのけて、ガリアは立ち上がる。
「
あの時のダイカイザークは尋常ではなかった。大きななにかが蠢いている。ガリアは部屋を飛び出し、新たな宿敵の待ち受ける甲板へと駆け上がった。
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