第45話 マザー・エリオルリータ
ガリアはドラクリアンを駆り、壁のような船体へと飛びついた。砲塔を引き抜き、空いた隙間から潜り込む。
異物を排除に来たのだろう。生体組織のように統率の取れたオーガクラス。船を壊さず戦うなら、確かにそのサイズが限度だ。しかしガリアは事情が違う。
「グローズビーム!!」
胸部展開。十字に瞬く砲口から、極太の光線が放たれた。寄り集まっていたオーガクラスは、跡形もなく消滅する。
次だ。ガリアはドラクリアンの巨大な腕で床板を剥がし、更に奥深くへと潜り込む。
最下層。恐らくこの近くに動力部があるはずだ。耐水装備のサーチライトを点火し、周囲を見回す。どうやらもう少し離れているようだ。
「しっかしめでてえな。心臓部に見張りを付けないなんて」
非正規のルートで侵入したこともあるが、近辺に見張りの類は見当たらない。機関部周辺なら少しは配置されていると思うのだが。
「グレートビッグベアーも大したことねえな」
積まれていた酒樽を蹴飛ばしながらガリアが言うと、どこからともなく声が降ってきた。
「それは聞き捨てならねえな」
「誰だ!」
振り返れば奴がいる。柱にもたれかかった、青を基調とした機体。黄色と赤のラインは、暗がりの中でもよく目立つ。
青いVMは、気取った仕草で身を起こす。勿体ぶって指を振り、ビシッとドラクリアンを指さした。
「俺はラッキー。ラッキーセブンのラッキーだ。そしてこいつは、相棒のダイカイザーク!」
関節から煙が噴き出す。排熱機構だろうか。恐らくドラゴンクラスだろう。
――『DIE χ THE Rack』
乱暴に施されたペイントは、なんとも無理のある綴りだった。これじゃあダイカイザラックだ。ちょっとバカっぽいなこいつ。センスは買うが。
ダイカイザークはドラクリアンを指さしたまま、反対の手でバシッと自らの胸を叩いた。
「お前はここで終わりだ。なぜなら、キャプテンであるこの俺が来たからな!」
なるほど、キャプテン直々のお出ましときた。相手にとって不足はない。
「存分に暴れさせてもらうぜ!」
先手必勝! ガリアはドラクリアンを駆り、ダイカイザークに飛びかかる。高速の一撃。えぐるように殴り込まれた拳は、しかし柱を盾にして防がれていた。
「おいおい良いのか? 大事な船を盾にして」
邪魔な柱をへし折って、ガリアは言う。しかしこの程度の挑発に乗ってくる相手ではなかった。それどころか、小馬鹿にするような身振りをする。
「この船はダイカイザークそのもの。こいつを喰らえ!!」
突如床板が跳ね上がり、ドラクリアンを拘束した。次いで巨大な柱が壁を突き破り、コックピットに襲いかかる。どういうわけか、奴は船体そのものを武器にしているのだ。厄介な能力だ。
なればこそ、この船を沈めてしまえばいい!
「バレットスマッシャーナックル、二連発!!」
左右の拳を射出し、飛び出した柱と近くの壁を吹き飛ばす。フルパワー駆動で拘束を引きちぎると、ダイカイザークが飛び込んできたので組み合った。
「まだまだこっちの船はある。いくら壊しても終わらねえぞ?」
まだまだ船は突きない。その事実が、ガリアの思考を揺らす。
確かにこんな巨大な船を一隻ずつ潰していては埒が明かない。まとめて消し飛ばすにしても、グローズビームは強すぎる。あれは味方との位置関係をハッキリさせないと使えないのだ。乱戦には向かない。
であれば、答えはシンプル。堂々巡ってフリダシに戻っただけだ。
「じゃあ最初にテメーをブッ殺す!!」
ドラクリアンの強みは圧倒的な基礎スペックと、それを裏付けて余りある出力。活かすことで、相手の思考を置き去りにした戦闘機動を行える。
脚の関節をバネにして、ドラクリアンは小さく跳ぶ。重力を無視したように浮き上がった下半身が、取っ組み合いの形のままにダイカイザークを蹴り上げた。そのまま相手を踏み台にしてジャンプ。
天井の配管に足をかけ、宙吊りになって頭上から攻撃。きしむパイプからパイプへと飛び移り、ダイカイザークを翻弄する。
「ちょこざいな!」
ラッキーが指を鳴らすと、天井の配管が一斉に剥がれ落ちてドラクリアンへと襲いかかる。蛇のように迫る金属パイプをいなし、バレットスマッシャーナックルで爆破する。
続いてもう一発!
「バレットスマッシャーナックル!!」
射出された腕がダイカイザークを強襲。煙に包まれながら、しかしよろめくその姿には余裕があった。
「フン、俺にばかり構っていても良いのかな?」
「なんだと!?」
見上げれば、天井から上がごっそりとなくなっている。ダイカイザークは船体を制御できる。つまり――
「やられた!」
竜のように再構築された船体が、マザー・エリオルリータに襲いかかる。船を飛び出し追撃をかけるガリアを、しかしラッキーは逃してくれない。
「お前の相手は俺だ!!」
「クソッ!」
レギンレイヴももう一隻の対処に手間取っている。ガリアが行かなければ、あの大質量を止めることはできない。このままでは母艦が――
その時だった。
巨大な砲身が、天を貫いたのは。
※
「マザー・エリオルリータを舐めてもらっちゃあ困るね」
グルーノの言葉と共に、甲板が開き黒々とした砲身がせり上がる。全長は船の半分。多層点火式短距離弾道砲、エリオルキャノン。大質量の敵船とやり合うための武装だ。
こんな物騒なものが女王陛下の名を関しているのには理由がある。他ならぬ女王陛下の考案した兵器だからだ。
どうせ殺さねばならない相手ならば、なぶり殺しにするよりも一思いに消し飛ばしたほうが相手のためだろう。そんな鶴の一声で、この兵器は開発された。
長い砲身の各所には起爆剤が仕込まれていて、砲塔をくぐる弾丸に絶え間なくエネルギーを与え続ける。加速に加速を重ねた弾丸は音すらも置き去りにし、竜と化した敵艦船を貫いた。
※
なんだか知らんがとにかく凄い。マザー・エリオルリータの真の力を目の当たりにしたガリアは、再びラッキーに向き直る。形勢逆転だ。
「俺達の船はこの程度じゃ沈まないぜ」
しかしラッキーの態度に焦りは見えない。鮮やかな機体捌きはそのままに、ガリアとの殴り合いを続けながら叫ぶ。
「ならば、こうだ!」
次の船が形を変える。今度は十数匹の竜だ。質量では敵わないと判断したのか、数で攻める作戦にシフトしたらしい。しかしこちらにも対空砲がある。先程の巨砲ほどではないが、次々と放たれた大砲が船の竜を撃ち落としていく。
しかし、落としきれない。救援に向かおうにも、ダイカイザークは片手間で捌けるような相手ではなかった。
木の竜が一匹、船体に迫る。万事休すか――
いいや、まだだ。まだ "アレ" がある。
彼女の存在を、ガリアは確かに感じ取ったのだ。
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