魔法とお嬢様

カラスヤマ

第1話

【 青い地球。その地球に憧れる少女がいます。地球の遥か先。銀河の果てに、その少女はいました。これは、その少女のお話です 】




「はぁ~、いいな」


小窓から顔を出した私の目には、大きな大きな青い地球が見える。私がいるこの場所からは、何光年も離れている地球。だけど私には、はっきりと地球が見えた。


「はぁ~、いいな」


何度目かの甘いため息。今日も地球は、キラキラ輝いていた。本当に綺麗な星。だから私は、ずっとずっと地球を見ている。


見るだけで満足出来なくなった私は、地球にいる人間に話しかけてみた。


「地球の暮らしは、楽しい?」


「…………」


「…………」


 懲りもせず、何度も何度も同じ質問を繰り返す。


「だ……れ?」


「えっ、私の声が聞こえるの?」


「うん。聞こえるよ。君は、だれ?」


 たまぁに私の声が人間に届く。私は、うれしくなって部屋中を駆けまわった。


「私ね……。記憶がなくて、自分の名前すら思い出せないの。あなたのお名前は?」


「僕は、サトル。名前がないとどうやって呼んでいいか分からないね。じゃあ……タマって、どう? 昔、僕が飼っていた猫の名前なんだけどさ」


「うん。タマでいいよ」


「タマは、今どこにいるの?」


「遠い遠い場所だよ。アナタの知らない場所」


「そこは、外国?」


「国ではないよ」


きっと、アナタに本当のことを言っても信じてはくれない。サトルが想像も出来ないほど遠くの世界に私はいるんだよ。


「地球の暮らしは、楽しい?」


「楽しいよ。今は、夏休みだしね。これから学校のプールに行くんだ」


「プール? ……初めて聞いた。そのプールって楽しいの?」


「楽しいよ。あっ! 今度さ、こっちに遊びに来なよ。僕が、町を案内するから」


「……うん。分かった」



その夜は、疲れているのに眠れなかった。目を閉じて、もう何時間も過ぎた。私は、裸足で外に出た。一緒に暮らすメイドを起こさないように静かに。そっと。


「わぁ! 凄い」


無数の流れ星が、私の前を横切っていた。


「眠れないのですか?」


メイドが、いつの間にか私の隣で、私と同じように流れ星を見ていた。


「うん。今日ね、地球にいる男の子とお話ししたんだよ。いっぱい、いっぱい色んな話をしたの」


「そう……。それは、良かったですね」


少し悲しそうな彼女の顔。理由は分かっている。どんなに私が、地球に憧れても。行きたくなっても。遠く離れたこの場所からは、絶対に地球に行くことは出来ない。


「泣いているのですか?」


「……泣いてな…ぃ。……ぅ」


目にゴミが入った私を、メイドは優しく抱きしめてくれた。優しい匂い。私の大好きな匂い。


眠れない私のためにメイドは、子守唄を歌ってくれた。その優しい歌声を聞きながら、私は夢の世界へ旅立つ。


 夢の中で私は、友達になったサトルとプールに行ったり、虫を採って遊んだりした。楽しくて、楽しくて。私は、もっと地球を好きになった。


「………………行く」


絶対に!


絶対に地球に行く。私に不可能はないから。

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