地方で存在証明を叫ぶ

香枝ゆき

第1話 本州まっぷたつ

『生活水準維持のための移住促進制度、通称生活促進法案が、このたび可決されました』

 テレビから、アナウンサーの興奮した声が響いている。

『法案が可決されたことで、これまで努力義務であった移住は、自治体解散命令発令と同時に、移住命令が下されることとなります』

 ノックもなく、乱暴に開け放たれた扉からは、黒ずくめの人間たちがなだれ込んできた。

「な、なんだね君たちは……」

『たったいま入った情報です!法案可決とともに、新たに自治体解散命令が下された模様です!』

 思わずテレビをみやった中年男性は、突然の音に身をすくませた。十万円は下らない執務机に、侵入者が土足で上がったのだ。

「ここから出ていってください」

「な、なにを……私は」

 周りを警戒していた人間のうち、一人がローテーブルを蹴る。

 発生させた静寂をものにしたのは、黒ずくめの方だ。

「市長だろうが、県知事だろうが、地元を売る人間は、俺たちにはいらない」

「一体、なにを……」

「議会、役所、その他公的機関。すべて我々が抑えました。残るは、あなただけです」

「……戦争でも始めようとでもいうのか」

 野暮な問いには、誰も答えなかった。

「……このお方には退場いただけ。そのあと、A班は報道各社へ連絡をいれて、会見の準備。B班は警備強化。C班は各拠点へ連絡しろ」

「待て、一体なにをするつもりだ、テロリストども!」

「そんなことは決まってる」

 侵入者の面々は、次々と黒ずくめの衣服の一部を露出させる。

 あるものはリストバンドとして。

 あるものはブレスレットとして。

 またあるものは、インナーシャツとして。

 現在では廃止された市町村章を身にまとっていた。


「独立だ。我々地方自治体独立支援機構は、ここに兵庫県の独立を宣言する」

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