惑星マルデクの記憶

「惑星マルデクのことは、

聞いたことがあるだろう?」

と、セザールが言った。



「宇宙の平和を守るために、

宇宙連合の議決により、

消滅させられた星のことか?」

と、ルシファーは答えた。



「そう、地球と同じように、

宇宙連合の裁判で

有罪とされた罪人が送り込まれる、

宇宙の果ての流刑地だった。」


セザールは、いつもの

半分ふざけた無邪気な表情とは違う、

まじめな面持ちで

ルシファーに語りかけていた。


「そしてマルデクは、実験場でもあった。

秘密の実験が進められていたのさ」


いつものセザールとは、完全に

違っていた。

まるで別の存在のようだった。


「宇宙連合は、知っていた。

この文明は、もはや

袋小路にきていることを・・・。


もはやこれ以上の進歩は

望めないことを・・・。


そして自分たちの宇宙とは別の

もっと違う、さらに進歩した世界が

宇宙にはあることも知っていた」


いつもの天使のような

無邪気な表情は完全に消え、

悪魔のような冷たい光を放つ

鋭いまなざしのセザールが

そこにいた。



「宇宙連合は、

真実を告げようとするものを、

つまり敵対するものを、

罪人に仕立てあげ、

宇宙の辺境の星、マルデクに

幽閉した。


しかし不思議なことに

意図に反してマルデクでは、

罪人の中から、特殊な能力を持ち、

世界を変えてしまう可能性のある

新しい種が誕生したんだ。」


ルシファーはセザールに、

得体のしれない戦慄を

初めて感じた。



「新しい種の誕生に、進化に失敗した

旧世代が集う宇宙連合では、

パニック状態となり、

自分たちが統治する世界を護るために、

宇宙の平和とバランスを乱したとして

マルデクを、消滅させたんだ」


それは今まで、ルシファーが

夢にも想わなかったことだった。

しかし直感的に、それが真実であることを

ルシファーは確信していた。


「今、この地球も、

マルデクと同じ運命を

たどりつつあるようだ」

と、セザールは静かに

ルシファーに告げた。

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