世界の終わりで君と生きる
波華 悠人
第1話
「まて!!そこで止まれ!」
頭上から落とされた怒鳴り声に深々とマントを頭からすっぽりと被った男はぎらつく日差しに目を細くさせながらも見上げる
そこには、がれきを高く積み上げ、錆び色の壁になんともおそまつともいえるような、それでも要塞を呈したコロニーがある
「ここから先には進めない、引き返せ!」
怒鳴るその声はまだ幼さが残っている、きらりと反射するのは銃だろうか、逆光でよく確認できないが
「俺はホープという所に行きたいだけだ」
両手を上げて敵意が無いことを伝える
「‥‥‥ここがホープだ。何しにきた?」
ぎょっとする
「おいおい‥‥‥うそだろ?聞いた話じゃ緑豊かなところだってきいてたんだぞ?」
見張り台に立つ男は無言で見下ろしながら無言になる
その間もぶつぶつと文句をたれている
「誰に聞いた話かしらんが、ここにはそんなものない!見たらわかるだろ、ここは砂漠のど真ん中だぞ‥‥‥さぁわかったらさっさと引き返せ!」
「お、おい!ちょっとまってくれ!ここから引き返すたって水も食料も底をつくここで少し補給させてくれないか?」
がちゃりと銃を構えなおすと照準をあわせてくる見張りに手を突き出してさらに懇願してみせる
「撃つなって!────何も持ってないし、補給させてくれたらすぐに出ていくよ」
「‥‥‥今はそれを許可できる人間が出払っている、今夜にはお戻りになられるそれまでそこで待つなら聞くだけは聞いてやろう。」
「今夜って‥‥‥」
銃を下した男はそれだけいうと消えていった
「ちょ‥‥‥!おい!」
しばらく反応を待っていたが戻って来る様子もない。深く溜息をついて、壁によしかかりへたり座るとぎらぎらと日光を送る太陽を睨みつけた
幾時間がすぎ、すっかり太陽も姿を消し、昼時の暑さが嘘のように夜は冷え込む
がたがたを身体がなるのをしっかりとマントを巻きなおし、今度は冴え冴えと光る月を睨む
「くそ‥‥‥いつになったら中に入れるんだよ‥‥‥このままじゃ凍えて死んじまうぞ」
「おい、お前いつまでそうしてるつもりだ?」
ふいに女の声で話しかけられぎょっとする
壁の見上げると、見張り台から見下ろす影がゆらりと動く
「そろそろ諦めているかと思って来てみたが、まだ居たとはな‥‥‥」
「‥‥‥あんたが、あの銃男がいってた許可できるって人か?」
「そうだな。今のところ実質的にここを管理しているのは私だ。」
がたがたと勝手に動く体に鞭打ち立ち上がる
「へぇ───じゃぁ今しがたお帰りになられたのか?」
「まさか。ずっとここにいたが?」
ぎちりと歯をかみ合わせると女の影を睨みつける
「どういうつもりだ!?俺はこの気温差がある場所でずっと待たされてたってのにそっちは中にずっといただって?」
「そうだ。賢い奴ならそう言われた時点で、ホープには入れないんだと理解するはずだ。お前は遠回しに許可されなかったってことだよ」
「悪かったな阿保で‥‥‥」
「そうは言ってない。」
そういって顔を傾けた影がきらりと鈍い光を放つ、女は銀色の仮面で半面を覆っている
「お前がここに来た本当の理由は何だ?誘拐か?それともコロニーの破壊活動か?」
「あのなぁ、さっきの銃男にも言ったんだが俺は楽園があるって聞いてここまで来たんだよ‥‥‥お宅も知ってるだろうが食うにも困る世の中でホープの話しを聞いちゃ黙ってられないだろう?」
そういって赤髪をかきむしる。
「なぁ頼むよ、もう食うもんも何も残っちゃいないんだ、断られたら死ぬしかない」
「‥‥‥お前のその片腕はどうした?」
「これか?」
右腕を上げて見せる、そこには片口からオートマターを装着した義腕があらわになっている、指先まで滑らかに動くそれをひらりとふって
「施設から逃げ出すときに失ってな、不便だからかわりに着けてるのさ」
「施設?どこのだ?」
「さぁな知らねぇよ、何せほんのガキだったからな────それで?中に入れてくれるのか?それともこの砂漠を引き返せっていうのか?」
壁の上でしゃがんでいた影がすっと立ち上がる
「いいだろう。だがこれを着けるのが条件だ」
そういって投げてよこした物が砂の上にとさりと落ちる、暗闇に赤い小さなライトちかちかと光っている、拾い上げると円になっている
「首にはめろ、その首輪には爆弾が仕込まれている。お前が悪さをしなければ何も起こらない 首と胴体がつながったまま生きていける」
「‥‥‥じゃぁ悪さをしなければいいんだな。お安い御用さ」
カチリと軽いロック音とともに重たいホープへの扉が開いた
扉前で待っていたのは今朝方の男だ、相変わらず不愛想にこちらを睨みつけている
「感謝するよ‥‥‥お偉いさんにかけあってくれて」
「‥‥‥俺は反対したんだがな。」
なんて野郎だ
「リード。そいつにも寝床を用意してやれ、明日からは仕事についてもらう。ここでは働かないものに衣食住はやらない」
まだ壁の上から降りてこない影が指図してくる
「了解。マザー。」
「マザー?あんたあの人の子供か?」
声だけじゃ判別も出来ないがだとしたらやたら若いころに産んだ事になるだろうと思う、まぁ最近じゃ若いころに産まなきゃいけない事情もからんではいるだろうが
「まさかな。お前もすぐに意味が分かる‥‥‥それにマザーを怒らせるなよ、その軽そうな頭を胴体にくっつけていたいならな」
「リードの言う通りだな、さっさと行け、他の人間はみな寝ているんだ、起こすなよ?」
そういうと影は暗闇に消えていった
「‥‥‥それで、俺の寝床とやらを案内してくれよ、寒くてたまらないぜ」
ぐるりとあたりを見回すと結構な広さのあるこの場所は整理されているようで、通電もあるのかところどころに灯りもある
「ついてこい」
さくさくと砂地を抜けるとふいにこつりと床を踏む足音が変わった、どうやらこの先は鉄の床が敷かれているらしい、幾分か進むと天井が現れた
鉄筋建てらしいそれは無機質だがここがいっぱしのコロニーであることの証明だ
シャッターが下ろされた通路を進んでいく
「ここがお前の寝床だ」
その扉を開けたリードが中へ促す、そのまま中へ踏み入れると簡素なベッドが一つにちいさな椅子が一つそのほかは何もない殺風景な部屋に涙が出そうだ
「俺はシンプルなのが好きでね、ばっちりな部屋で感激したよ」
「そうか。よかったな、明日からは仕事が待ってるゆっくりくつろいでくれ」
踵をかえすリードに食い下がる
「何か食べるものをくれないか?もうずっと我慢してるんだ」
「‥‥‥寝ることだな」
一瞥をくれて去っていくそれを軽くにらんで溜息を吐くとずっしりと疲れた体をベットに放り投げて睡魔に屈服することにする
「さて……参ったね……どのタイミングでここを去るかが問題だ、楽園じゃなきゃこんな所に用はない」
大抵の人間は一つの場所に安住するものだが、自分はとある理由から転々としてきた、当初はそれも気楽で良かったが最近では土地の砂漠化が進み食料を手に入れる事が難しくなってきている
気楽な旅人にほいほいと譲ってくる町も減ってきていた。
だからこそ、楽園とやらに腰を落ち着かせてみようかと考えたのだが……どうやら自分はおとぎ話を柄にもなく信じてしまっていたらしい
自分の馬鹿さ加減に呆れる
「……腹減ったな……寝るか……」
明日からの労働を考えると寒気がしてくる、これ以上考えないようにきつく瞼を閉じた
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