第8話 武人

 亮太達は街に出た。

 大きな街ではないが、商店が立ち並び活況をていしている。

 建物などを見ながら、建築技術などは自分の住んでいた世界の方が進んでいるんだな、などと考えた。

 木材を使った建物が多いが、石でできた建築物などもある。

 道の隅にも露店がならび、見知らぬ食材がてんこ盛りに並んでいて、亮太もテンションが上がる。


「おい、ジャス、あれ美味そうだぞ」


 香ばしい匂いに誘われるようにそちらを眺める。


「リョウタ、今は飯どころじゃないぞ」


「お、おう、武人の所に行くんだろ?」


「そうだ」


「場所は知っているのか?」


「知らないが、聞けば誰か知っているだろう」


「名前は?」


「ああ、ベルンハルトという男だ」


 ベルンハルト、強そうな名前だ。

 ジャスティンが推す男なのだから、相当強いんだろうな。

 いったいどんな男なのだろうか?

 興味があり聞いてみた。


「その男はどれぐらい強いんだ?」


「ん、そうだな、こんな話を聞いた事があるぞ。魔族の軍団が、とある国に数万の軍勢で侵略しかけたんだ。人間達はその軍と激しく抵抗して戦った。中でもその国にいた一人の将軍は一万の敵をたった単騎でほうむってみせたらしい。それ以来、その将軍の事を万夫不当の豪傑ごうけつとして、神威しんい将軍と呼んだそうだ。その神威将軍と勇名をせた将軍こそ、今向かっているベルンハルトという男だ」


「ちょ、ちょっと凄すぎるんだけど。そんな凄い将軍がこんな辺境の街にいるのか?」


「ああ、今は何をやってるんだか、退役してこの辺境の街に住んでると風のうわさで聞いてな。どうだ、会いたくなっただろ?」


「凄い人なんだね、ああ、会ってみたくなったさ。ジャスはなんかその人の事、嫌いとか言っていたけど?」


「嫌いというか、俺もその国に面白半分にちょっかい出してた事があってね。敵対して痛い目みた事があるんだよ。わはははは」


「本当なのか? なんか余裕かましているが、会って大丈夫なのか?」


「まあ、昔の事を根に持つような武人ではないと思うぞ」


 そう言って、ジャスティンと俺は街人に武人の家を聞いて回った。

 すぐその家は判明した。


「ここか、古い感じの家だね」


 大きな門のある屋敷だった。古い感じの屋敷だが、大きな中庭があり、池の周りには灯篭とうろうが立っていて、神聖な雰囲気を漂わせていた。

 俺はジャスティンと門の中へ踏み込む。

 途端、キーーンと耳鳴りに襲われた。

 なんだ?

 俺は思わず耳をふさいだが、ジャスティンは平気な顔をして、


「遊ぶなよ……」


 とつぶやいた。

 すると中から、2メートルはあろう大男が現れた。

 頬はやせこけているが、眼光は鋭く白髪を短く縛りあごひげを蓄え、青龍偃月せいりゅうえんげつ刀を杖替わりに持つ、筋骨隆々の偉丈夫いじょうふがそこに現れた。


「がはははは、しぇしぇしぇ。ここへ来る大分前からお前の覇気は感じ取っていたぞ。まさかと思っておったが、本当にお前らしいな。ジャスティン=クレーバー?」


「ほう、俺様の覇気を感じ取っていたか、これでもかなり抑えてるつもりなんだがな」


「お前の覇気は癖があるからな、しぇしぇしぇ。死んだ噂も流れていたが、やっぱり生きていたか。

14年ぶりぐらいか?、容姿は大分変ったようだな、若返ったか?」


「あの時のお前は結構強かったよな、笑えるな、はははは」


 俺はその話題についていけなかった。14年前?? なんの事を言ってるんだ?

 ジャスティンは生まれていないだろうに。

 でも、この背の高い強そうな爺さんがベルンハルトなんだろう。

 すごく強そうに見える。何歳だろう?

 見た目は60歳前後にも見えるのだが。

 しかし亮太から見ても精気がみなぎっているのがよくわかる。


「何の用だ?まさか今さらわしに喧嘩を売りに来たわけでもあるまい」


「うーん、それなんだが」


 ジャスティンは頭をポリポリ書くと用件を伝えた。


「お前、この男どう思う?」


 といって、あごで俺を差した。

 ベルンハルトはそこで初めて俺に目を向けた。

 何事も見透かしそうな鋭い目で俺を見つめる。

 彼に見つめられ極限まで威圧されて萎縮しそうになった。


 その圧倒的な存在感の前で。


 俺は飲まれまいとして、必死に心の中で抵抗した。

 押しつぶされそうになるのを我慢し、

 叫びたくなるのをぐっとこらえる。


「……ふーん、がははははは、しぇしぇしぇ」


 笑い声で威圧が解けた気がした。

 体が軽くなる。


「ジャスティンよ、面白そうな小僧を拾ったな」


「やっぱりそう思うか?そうなんだよ、面白そうなのだ、わはははは。

 そこでお前に頼みがある。こいつに『覇気』を教えてやって欲しい」


「ほう、『覇気』か。お前から見ても見どころがあると見ている訳だな。……確かに面白そうではあるな。」


 彼は何を思ったか部屋の中に入り中から酒瓶を持ってくると、

 盃に注ぎ亮太に差出し、自分も瓶ごと酒をあおる。


「ぷはーー、美味い」


 と言って亮太を見る。

 これはあかん、飲まないかんパターンだ、

 俺は酒を飲んだ事がないがここは男だ、ぐいっと。


 ぶはーー、げほげほ。


 熱い、強い酒らしく喉が焼けそうだ。

 そんな咳き込む俺を尻目に、ジャスティンも酒を勧められ、当たり前の様に飲んでいた。


「うん、まあまあ美味いな」


 ジャスティン、お前14歳ぐらいだろ!美味しそうに酒飲むなよーー!

 心の声でつぶやく。


 ベルンハルトはおもむろに俺に告げた。


「3ヶ月やろう!それで覇気を操る基礎を身に付けてみよ」


「さ、3ヶ月、そんなので身につくのか??」


「センスがなければこれ以上やっても意味はない、どうだ、やるか?」


 やるもやらないもない、俺の心は決まっているが、とジャスティンを見る。


 ジャスティンはうんうんとうなづいている。


「是非お願いします。やらせてください。よろしく!!」


 こうして俺はベルンハルトに師事して『覇気』を学ぶ事になった。

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