爆炎の魔導士が我がままだった件

りょうま

第1話 始まり

 世に魔族が現れたのは、もうどれくらい大昔になるだろうか。

 彼らはその圧倒的な破壊の力と、類まれなる生命力を背景に、人類の住む大陸を席捲せっけんした。

 力ある者達は魔族に挑むが、誰一人帰らぬ人となり、彼らを絶滅させる術はなかった。


 人類は魔族の脅威にさらされ、何度か滅びの道を辿たどりかける事になった。

 魔族は強い。その力は人類が想像するより、遥かに強く未知の力だ。

 そして、今この大陸は魔族と共に怪物達が覇権を争う力こそ全ての世界。


 人類は恐怖におののきながらも、諦めず反撃の糸口を求め戦った。

 幾多の尊い犠牲を出しながらも、人類は魔族たちから新たな知識、能力を発見する事ができたのである。

 その中でもっとも神秘なる力こそ、


『魔法』


 今まで人類が所持しきれなかった力。空想の産物だと思っていた奇跡。

 しかし、人類はこの不可思議な力を、行使する素質があったことに気付く。

 人類はこの力を探究し、その奇跡を体得した事により、精霊や神々の存在を知る事になった。


 そして2000年は過ぎただろうか。

 魔法を行使する術を知った人類は反撃の狼煙のろしを上げた。

 世は戦乱の時代を迎える。



◇◇◇◇◇


「ふぁーーあ」


 大きなあくびで伸びをした男がいる、名は寺西亮太てらにしりょうた。18歳、高校生だ。身長は175センチあろうか。目が二重でぱっちりとしていて彫が深い、歳の割には童顔な顔立ちをしているが、落ち着いた雰囲気がある。運動で鍛えられているため、体は締まって見える。


 高校の授業が終わった所だった。

 生徒達が他愛無い話で談笑している。

 亮太もそんな中の一人だった。


「よーし、帰るかな」


 すっと立ち上がると、学友が気付き話かけてきた。


「お、リョウタ。お早い帰りだな。いつもの道場か?」


「もちろんだ、学校より面白いからな」


 そう言ってにっと人懐っこく笑う。


「剣道一筋なんだよなー、でもよー、本当リョウタって凄いよな。めちゃくちゃ強いんだろ? 噂では道場の先生より強いって話じゃん!」


「どうかな? 師範にはこの前一本取られた事もあったからな」


「でも、道場では免許皆伝だって聞いたぜ? なんかカッコいいよな。同い年とは思えねーよ! 天才剣士って巷で有名だし」


 亮太は手をひらひらと振りつつ、


「おだてるなよ、強いやつは一杯いるんだ、俺などまだまださ。じゃあな、また明日!」


 教室でじゃれあってる学友達をチラリと見ながら、カバンを引き出し肩にかけ学校を後にした。


 道場までの足取りは軽やかだった。

 亮太は剣道をする事が非常に楽しみで仕方がないのだ。

 強い相手を打ち負かす。

 真剣勝負で相手の上を行き、技で相手を圧倒する事は、彼にとって非常に爽快でスリリングな体験だ。


 だが、少し歩くと眠気を感じるのだった。


「ふぁーーああ」


 また、あくびがでた。


 なんか寝不足なんだよな。まったく、昨日の夜も昨日の夢あんなゆめで目が覚めるなんて、最近変なんだよなぁ。

 眠り方の鍛え方が足りないからなのかな。

 でも、眠気は鍛えらえないだろう。どうやって鍛えるんだ?

 難しい問題だ。

 俺はバカバカしいと思いながらも思い悩む。


 そのバカバカしい悩みとは昨日も見た夢の事だ。

 吉夢とは思えない。かと言って凶夢とも思えない摩訶不思議な変な夢。


「その夢では確か……」


 思い出す。

 なにか本を見て俺がつぶやいている夢。

 どこか暗い部屋の中でその本をじーと眺め、読んでいるのだ。

 その本の表紙はなにか幾何学模様な絵が書いてあった。亮太が初めて見る絵だ。

 本は何故か自分を読んで欲しいと必死に訴えかけているような凄みがあり、亮太はそれにあがなえなかった。

 そして、それを読破する前に目が覚めると朝になっている。

 そんな夢をここ最近よく見るのだった。


 本の内容までは虚ろでよく覚えていない。

 その夢の中の本にどんな意味があるかも解らない。

 なにか難しい文字でかかれた本だったが、一心不乱に読んでいた、様な気がする。

 俺が小難しい本を読むのかー。


「ふっ」


 俺が読書する夢を見るってどういう事よ、似合わねぇな。

 テスト前でもあるまいし、どうしちまったんだろう。

 その夢の最後では、何かとんでもない事が起きたような気がしたが、はっきり言って覚えてないや。


「まあ、夢なんてそんなものだろう」


と、つぶやく。


 ただ、ちょっと心配なのは同じような夢を、最近よく見るということだ。

 読書に興味がない亮太には珍事と言っていい。


「なんであんな夢みるんだ?」


 ちょっと首をかしげながら考えてみたが、答えはでない。

 そうこう考えていると道場についた。

 この道場は古来より由緒ある道場で、流派を北辰一刀流という。

 元々は江戸時代に建てられた屋敷を、数十年前に改築した。


 稽古場は広くいぐさで織った畳表が微かに香り、身が引き締まる。

 眠気も吹っ飛んだ。

 中に入り剣道の道着に着替える。


 亮太は幼い頃からこの道場に通っていたが、若くしてその才能が開花し、その剣術は師範を超えるとも言われている。

 最近、師範からその全ての奥義を授かり、免許皆伝となった。


 だが、本人に慢心はない。

 世間は広い事を知っている。世の中にはもっと強いやつが沢山いることを知っている。

 また彼には大きなやぼうがあった、世界一の大剣豪になるという夢が。

 自分などまだまだヒヨコの内だと考えている。


 亮太が道場に入ってしばらくすると、渡り廊下から足音が聞こえる。

 この足音の運びからすると、師範で間違いないだろうと亮太は思った。

 挨拶をしようと入り口にたたずんでいたが、一向に姿が見えない。

 しかも道場近くで足音が途切れたままだ。


「ん?」


 何立ち止まってるんだろうと思っていると、近くで何か気配を感じる。


「リョウタか。息災そくさいか」


 突然後ろで、息がかかるほどの距離から声がする。


「そう来たか」


 にやッと笑う。

 振り返ると、おでこにデコピンが飛んでくる。

 しかし、それを体を反らしてやり過ごす。


「師範、遊びがすぎますよ?」


「体が鈍ってしょうがないのだ、準備運動がてら相手しろ」


 と言って2本持っていた木刀の内1本を投げてよこす。


「しょうがないですね、師範、怪我しても知らないですよ」


「当てられるものなら当ててみよ」


 木刀を片手で受け止め、正眼で構える。

 すると師範が一気に加速して、間合いを詰めてきた。

 全日本で優勝したこともある師範、体さばきも本物だ。


「ゆくぞ!!」


 師範の鋭い突きを、亮太は紙一重でかわす。


「よし、もらったー」


 亮太は右袈裟げさで切りかかるが、うまくかわされる。

 師匠の姿が視野から消えた。

 やばい。来るぞ。

 気配を読んで半歩下がる、さっきいた場所に木刀が飛んできた。


 「ふぅ、あぶねー」

 しかし、チャンスだ。


 ここだっと思い、左に払うとそこに師範の頭があった。

 ピタっと寸前で止める。


「よし!!」


 俺は汗だくになった額をふいた。


「わはは、やはりやるな、面白かったぞ、リョウタ」


「師範も相変わらずで」


「そういうな、いい動きだった。準備運動にはなったよな」

 

と、言ってチラリと稽古場を見て顔をしかめる。


「手合いの後で申し訳ないが、ちと頼み事がある」


「なんですか?」


「向うに散らばっている竹刀や胴着を納屋に片づけてくれるか」


 見ると確かに一角に散らばった胴着とかが乱雑に置かれている。


「ああ、いいですよ」


 快諾して俺は胴着とかを持ち、片付けに納屋に向かった。

 中は薄暗かった。日があまり入らない為だろう。

 この道場の納屋は古いが結構広く、年代物の骨董品こっとうひんが乱雑に置かれている。

 片づけを終え部屋を出ようとした時、何かがドサッと落ちる音がした。


「ん?」


 音のした場所を振り返える。

 本が落ちていた。

 なんの本だろう。


 本は辞書みたいに分厚かった。

 手に取ろうとして、ハッとしピタリと止まる。


 何だろう?この既視感デジャヴ……


 亮太は不思議に思ったが再び本に手を伸ばした。

 拾い上げる。

 するとどうだろう。

 本が輝き始めた。


「な、なに?!」


 鈍い虹色の光を放つ本を見ながら、亮太は思った。

 知っている、俺はこの本を見たことがある。そうだ夢の中で……

 俺は見た!この本を!!!

 手中にある本は勝手に開き、あるページで止まる。


「なんだ?見たことのない文字だ!!」


 言葉とは裏腹に亮太は文字を見た瞬間、気が遠くなる感覚を味わった。

 急に本文の詠唱えいしょうを始める。


「……主命を受諾じゅだくせよ、我が名において 暗き天より来たれ……」


 長い詠唱が続く。

 亮太は動かなかった、いや動けなかった。


 何が起こっているか理解が追い付かない。

 が、しかし、それは起きた。


『誰だ!俺様を呼ぶのは!!』


 声が聞こえる。

 そこには亮太しかいないのに。


『ほう。召喚しょうかんの禁呪か!俺を呼ぶとはいい度胸だ。だが、相手が悪かったな。』


 なにを言っているんだ?

 理解に苦しむ。

 何が起きているか把握できない。


『俺は忙しいんだ!会いたいのなら、お前が来い!!!』


 その瞬間、亮太の周りの空間がぐにゃりとゆがんだ。

 周りが暗転し、亮太は気を失ってしまった。


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