第7話 図書館暮らし。

 名残惜しいが、いよいよ最後の料理となってしまった。

 

「お待たせしました。デザートの、『図書館暮らし。』です」


 本好きなヒカリを喜ばせようと、本に見立てた料理を、と考えた。


「おお、わたしのHPだ」

 小さいパイ生地で、真っ白な何かを挟んでいる。

 表紙は、彼女の持つHPのトップページをデフォルメしたモノだ。


 会社を辞めたヒカリは、図書館の司書の仕事をしながら、ブログを始めた。


 その名も『図書館暮らし。』


 いわば、書籍のレビューサイトである。


 開設して間もないが、閲覧数は多い。

 SNSなどで宣伝しているからだろうか。


「ゆっくりと持ち上げて、お召し上がりください」


 店主に言われたとおり、ヒカリはそっとパイの本を指で持つ。

「生クリームじゃ、ない?」

 謎の感触に、ヒカリは興味津々だ。


 さくり、と本が口の中へ。


「うん、甘くておいしい!」

「レビューみたいに、楽しんでもらいたかったから」


 ヒカリの書評は、好きな本をメインに語っているので、激甘である。でも、愛があって嫌味がない。


「これ、杏仁豆腐?」

「そうです。本に見立てて、杏仁豆腐をパイ生地で挟みました」

「これあれだ、出張先のお土産だよ、ってもらった」

「そう。そう」

「あ、トウフチャウデ!」


 正解だ。

 大阪の堺市で作られたスイーツである。

 あのイメージがあって、豆腐を使った料理を作れないか、と、リクエストしたのである。


 トウフチャウデは、豆腐のチーズケーキだ。


 こちらは、ゼラチンを使用していない杏仁豆腐である。豆乳プリンといえばいいかな?


「ごちそうさま。すごいなぁ。全部、わたしのためなんだ」


 そうだよ。

 二人の思い出をなぞって、半年の思い出に浸るために。 

 

「では、最後のメニュー 『星流夜しょうりゅうや』です」

「え、そんなメニュー、頼んでませんよ?」


 ぼくは首をかしげた。

 でも、ふと考える。

 これはきっと、店名になぞって出されるサービス商品なのかな、って。


 でも、違ったんだ。


「わたしが、頼んだの」

 ヒカルが、小さく手を上げた。

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