白雪さんは恋がしたい

まかろに

第1話 白雪さんとの出会い


「私っ、実は雪女なんですっ!!」

放課後の人気のない教室。

俺、平木孝汰ひらきこうたは今日転校してきたばかりの…白雪恋雪しらゆきこゆきから真っ直ぐな瞳でそう告げられた。

「…………は……?」

「あーっ!そうですよね!いきなりこんな事言われても困りますよね!えーと、えーと…」

あわあわと真っ赤になって慌てふためく彼女。

雪女って…なに言ってんだ…

机の中に入れられていた小さなメモ紙に書かれていた「放課後、教室で待ってます」という差出人不明の可愛らしい文字。1度帰ったふりをして適当に時間を潰した後、浮ついた心でやってきてみれば、今日転校してきたばかりの白雪さんがいて…

めちゃくちゃ期待してたんだぞ俺。

それなのになんだ雪女なんですって…

この気持ちどうしてくれるんだよ…

…あ、これ…もしかしてクラスの連中も絡んでドッキリとか仕掛けられてる…!?

誰か教卓の下にでも隠れてんじゃねーだろーな!

くそ…絶対騙されたりしねーからな…っ

「じゃーん!はい、これ!雪だるまです!」

心の中で葛藤しているうちに、突然目の前に机の高さほどの雪だるまが出来上がっていた。

今は肌寒いとはいえ雪が降るにはあまりにも早い初秋。ましてや教室の中にこれほど大きな雪だるまが出来るほどの雪なんかある筈が無い。しかもこんな一瞬で。

「……」

呆気に取られた俺は酷く混乱して動揺した。

「これで信じてもらえましたか?私、こう見えて立派な雪女なんですよ!」

ふふーん、と得意げな表情で彼女の手元から雪が舞い出したのを見た俺は一瞬で理解した。

逃げねば殺られる―――

俺は急いで踵を返し、全力で教室のドアへ駆け出した。

いや、やばいやばいやばいって…やばいだろ

なんだあれ本物じゃん!

確か雪女って男を殺すんじゃなかったか!?

俺殺される!?

勢いよくドアを開けたようとしたがドアはビクともしない。

あれ!?くそ…っおいなんだよこれ…!!

鍵は内側からしか掛からないはずなのに…っ!!

「どうして逃げるんですか?まだ、私なにもしてないのに…」

彼女の声がすぐ近くから聞こえる。

やはりドアはビクともしない。

「無駄ですよ。開かないようにあらかじめ凍らせておいたんです、邪魔が入ると面倒ですから…」

うっっそだろ準備いいな!

ゆっくりと近づく彼女の気配がする。

あぁもうダメだ…帰ってやりたいゲームあったのに…

さよなら俺のアオハル……

パンっと手を叩く音が聞こえると同時に

「平木さん!私の恋を手助けして貰えませんか!?」

「………はぇ?」

あまりにも予想外な言葉に、俺は自分でも聞いたことの無いような声を発した。

恋?手助け?一体何を言っている??

「さっき言った通りです!平木さんに、私の恋の手伝いをして欲しいんです!」

「え…な、なんで俺が…そんな事…?」

「平木さんは私に恩があるはずです!」

「いや、ねーよ!?雪女に恩なんて!!」

「あれは確か4月でした…」

隙あらば自分語りかよ

「平木さん、あなた遭難したことがあるでしょう?」

「!?なんで、それを…」

そう、俺は新入生を対象にした交流会と称したスキー中に遭難したのだ。持ち前の運動神経の悪さと突然の吹雪のおかけで、見事に立ち入り禁止区間に突っ込み、洞窟の中でそのまま身動きが取れなくなってしまったのだ。

その後、気を失ってしまっていた俺はレスキュー隊に助けられ、新学期早々入院し、友達作りに失敗した。

そんな俺に待っていたのは、周りのクラスメイト達からの哀れみの目とぼっち街道の日々だった。

どうしてそれを今日転校してきたばかりの白雪さんが…

まさかクラスの奴らが言いふらしやがったのか…

「ふっふっふっ…どうしてそれを、といった顔ですね…

そう、なぜなら!!あの時遭難した平木さんを洞窟から助け出したのはこの私だからです!!」

「くそ、やっぱりクラスのやt……………は!?」

「どうです!?私の恋を手助けしてくれる気になりました!?」

「いやいやいやいやいや!え、は!?そんな訳―…」

あれ…でも、そういえば確か…洞窟で意識を失うまでの記憶はある。

けど、レスキュー隊に助けられたとき、全然違う場所にいたと聞いた…

白雪さんが俺を洞窟から助け出してくれたのなら、辻褄が合う…。

「…まじか…」

「まじです。」

はー……、洞窟で意識を失っていたのを知っているのは俺以外に居ない…

そうか、まじか…じゃあ…

「命の恩人の頼みは、断れないだろ…」

まだ混乱してはいるが、彼女の言葉に嘘は無さそうだ。俺はしぶしぶ、協力することにした。

「ほんとですか!?やったー!!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ彼女を横目に、俺はふと疑問に思うことを口にする。

「てか、手助けって何すりゃいいの?」

ぴょんぴょんと跳ねていた足がぴたりと止み

ロボットのようにカクカクとこちらを向いた彼女は

「………………………恋って……どうしたら出来るんでしょう……?」

「………それ…ぼっちの俺に聞く……?」


もしかしなくても俺…とんでもない事に足突っ込んでいるのでは…!?




―これから先、何度もこの日の約束を後悔し、何度もこの日を思い返す

そんな約束を結んだ、恋を知らない雪女とぼっちの2人は、

「どどどどどうしましょう!?マンガしか読んだことないんですけど!!」

「おおおおお落ち着けってまず恋が何かをググるぞ」

教室の隅でがたがたと恋についての記事を読み漁っていた。

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