第5話 祈り


アルメンドロスはぼんやりしていた

私の隣の席で


今はウイジール先生の授業をうけている


この大陸に存在する名家の名称

それらを結びつける習わしやそれぞれに対応する礼儀作法など

色々とあるようだ


アルメンドロスはぼんやりしていた





王子!!!!!





ウイジール先生が喝を飛ばす

アルメンドロスは驚いた様子だ

それに詰め寄るウイジール先生




話を聞いておりましたか?




もちろんだ!

アレッツォ家の話だったな!



いいえその話は終わりました

今はザンバー家です



この光景はいつもの事だ

アルメンドロスはいつもウイジール先生に叱られている

ウイジール先生はザンバー家の家紋を答えてみなさいと尋ねる

それに対しアルメンドロスは

クワガタの紋章と答える

しかしそれは不正解


正しくはフクロウの紋章

クワガタはオリマー家の紋章だ


アルメンドロスはまだ叱られそうだ

私は一人

黙々と暗記を続けていた



そうこうする内に

昼食の時間となった

授業はここで一時中断

我々は食事を取ることにする





城の食堂では

家中の者すべてが一同に集まる



アリュメトでは食事を家中の者皆と共にする



宮使いの侍女やアリュメトに仕える兵士達も含めて



それゆえ



城の中で食堂が一番広かった

炊事を行う家中が食事を配り終えると



皆で祈りを唱える












『我々アリュメトの息子。娘らは

    







 皆で食卓を囲み。








 神に感謝を示す。






生きて家族らと共にいる喜びを。








生きて家族らと飢えを満たせる喜びを。








生きてまた明日を共にできる喜びを。








神に与えられたこの時を忘れる事なかれ。』








   忘れない。












   忘れない。











   忘れない。  














皆が唱え終わると



さぁ飯だ!  飯だ!



とがっつき始める


みな楽しそうに談笑しながら


食堂が賑わい始める


侍女や兵士達も笑顔で打ち解けあっている



王子はその輪に混ざると侍女達に国で流行りの詩集を教えてもらっていたり


兵士達からは彼らの武勇伝を聞いて驚いてみせたり


彼らの城下に住まう家族との面白おかしいエピソードに大きく体をのけぞらせながら


話を楽しんでいる




そんな様子を食事をしながら眺めていると

ウイジール先生が私の隣に食事を置き話しかけてきた






ガランサス

もうこの国には慣れたか?




賑やかな食堂の中でウイジール先生は私に尋ねる





はい

大変良くして頂いて感謝しています




それを聞くと

ウイジール先生はそうかそうかと機嫌を良くし

先生は話を続けた




この光景を目に焼き付けろ





彼らは皆家族だ





お互いが支えあい





愛しあわねばいけない





この国には資源がない




十分な土地も金も





だから守らねばならぬ





最後に残った家族たちを









私はウイジール先生の話に聞き入っていた

先生はフォークとナイフでソーセージを切り分け

口に運ぶ


ウイジール先生はフォークに刺したソーセージを見つめると

また話してくれた









かつては






この豚の腸詰一本で城の兵士たちが殺し合いをした






カルーラ軍に城を包囲され






何か月も飢えていた時だ





その話は覚えているな?







私は

はい。と頷く










兵士達は



やせ細った腕で剣を振るい









仲間の心臓を刺した








たった一本の腸詰の為にだ





それから死体の元にはネズミが集まり


そのネズミを捕まえ


貪り喰ったりした



ネズミなど食ったらたちまち病に侵され

そこから死に至る者も大勢出た

だが食わずにはいられない







やがてネズミも出なくなると







我々は亡くなった兵士の死体や侍女の死体にも手をつけた







あの時の光景はまさに地獄だ

私にはその光景が今も焼き付いている





あれから10年以上経ち

幼かった子供らはこうして

食事を楽しんでいる






私は




この子らに地獄を味合わせる訳にはいかない






その為に我々が成すことはなにか分かるか?








突然の問いかけであったので


少し反応に遅れてしまった


私が答える前にウイジール先生は言った











我々の敵を地獄に堕とすのだ







家族を脅かす敵をすべて排除する







安寧を守るために






奴らを一人残さず殺し







ネズミの糞に変えてやる










わかるか?ガランサス?









ウイジール先生の手は震えていた



目は血走り狂気が身を包んでいた




私は先生に先ほど言われたように

賑わう食堂に目を向けた






この光景を確かめる為に






そうして賑わう彼らを見ていたら

そこからアルメンドロス王子がこちらに歩み寄ってきた









なにをしてるんだ二人とも!


食事の席だというのに

神妙な面持ちで!



悪だくみでもしているのか!?




王子にあっけらかんと話しかけられ

ウイジール先生は先ほどの狂気を収め

笑顔で王子に応えている



私も王子に会釈を返す

正直王子の無邪気さにギャップを受け

素で笑みがこぼれた

なにやら王子は私に用があるようだ






ガランサス!




ちょっと来い!




先ほど話をしていたら


なにやら



兵長のジェミニが若いころ素手でヘラジカをひっくり返したといってるのだ!


お前もこっちに来て話してやれ



お前が幼いころ熊を素手で倒したあの話で


兵士達を震え上がらせてやろうじゃないか!



さぁ来い!




厳密には素手ではなく


短剣で。


なのだが


王子は大分話を盛っておられるようだ。




王子がこちらに手招きをしているので

私は立ち上がり



ウイジール先生に礼をした





先生は笑顔を見せ






私を送り出してくれた






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