マスクメロン

オレガ

始まり

ピロピロピロ、ピロピロピロ


  朝の日差ひざしとともに、部屋全体に目覚まし時計の音が鳴り響いた。


  ・・・、それから何分経ったんだろう。

 ドンドンと大きな足音を立てながら誰かが僕の部屋へと向かってくる。

 ドアが開いた音が聞こえたと思ったら、僕の上に掛かっていた布団が宙をった。

 目をうっすら開けると、口をふくらませながらこっちを見ている姉ちゃんの姿があった。


 「もー、いっつもいっつもうるさいよ!

  いつまで寝てるの!」


 姉ちゃんはそう言うと、僕の頭の横にある目覚まし時計を止めて、僕の部屋のカーテンを全開きにした。

 目に降り注ぐ大量の光に、僕は無意識に目を閉じてしまった。

 それを見た姉ちゃんは勘違かんちがいしたのか、また僕が寝たと思って僕の両目に両手を押し付けて強引に開けてきた。


 「起きる!

  起きる!

  起きるってば!」


 布団の上で伸びた後、ゆっくりとベッドから下りた。


 「よろしい!

もう朝ご飯できてるからね!

  あんまりゆっくりしてると学校遅れちゃうからね!」


 姉ちゃんはそう言うと、再び大きな音をたてながら一階へと猛スピードで下りていった。

 僕は簡単に身支度みじたくをして、一階へとはずさないように慎重しんちょうに下りた。

 台所の方を見ると、もうみんな席に着いていた。

 僕はさま台所の自分の席についた。


 「晴樹はるき遅ーい!」


 「ごめんって!

  頂きます!」


 「頂きます!×3」


 僕の言葉と共に、続いて他の三人も同時にした。

 僕は直ぐ様はしを持って朝御飯にありついた。

 今日のメニューは、白いご飯と具沢山味噌汁ぐだくさんみそしると納豆と目玉焼きとコーンスープだ。


 まあ今日のメニューといっても、僕はこれを何年も続けているけどね。


 「晴樹、もっとゆっくり食べなさい。」


 「そうだぞ。

  たとえ時間がないとしても、ご飯は楽しくゆっくり食べるものだ。」


 僕は学校に遅刻ちこくしたくないから急いで食べているのに、父ちゃんと母ちゃんがのんびり話してきた。

 僕はそんなことをおかまいなしに食べ続けた。


 「もう、いっつも食べ始めると無視するんだから。

ママ悲しいわ

  学校がそんなに大事なのー?

  ママは何よりも家族の方が大事だよー。

  ね、パパ?」


 「そうだぞ!

  いついかなる時も家族が大事!

  家族がいるからこそ毎日頑張れる!

  パパは家族のためなら命も惜しくないぞ!」


 「パパそんなこと言わないでよ。

  パパがいなくなったら私・・・。」


 「泣かないでくれよ。

  俺が悪かったよー。」


 「パパ!」


 「ママ!」


 二人はそう言い合うと、泣きながら妄想の世界で抱き合った。

 その間、姉ちゃんと僕は飯を食べ終わり、学校に行く身支度みじたくをしに部屋へと戻っていた。


 早くしないと遅れちゃう!

 今日はどしょっぱつからテストだから絶対に遅刻できない!


 「行ってきまーす!」


 姉ちゃんが一早く出発した。

 それに続いて僕も家を出発した。


「行ってきます。」


 他からするとめんどくさい家族なのかもしれない。

 いや、正直めんどくさいと思う。

友達も何人かは家族がめんどくさいと言っている。

 でも、でも、理由は分からないけど、僕はこんな家族が大好きだ・・・。


 この日は一日がとても速かった。

 家に帰り、風呂に入り、その他諸々たもろもろのことをして、僕は自分へのご褒美ほうびにテスト期間中封印ふういんしておいたファンタジーゲームを取り出して、寝るその時まで遊んだ。


 「もうこんな時間か・・・。」


 時計を見ると、時間は22時を回っていた。

 もう寝る時間だと思い、続きをやりたいという欲求をおさえて素直に寝ることにした。

布団に行き目を閉じた。

目を閉じて数秒後、異変に気が付いた。


 「え!?」


 僕は目を開けると、空を飛んでいた。

 いや、飛んでいるという表現が合っているのか分からないけど、どこか異次元のうずのようなものに吸い込まれていた。


 「何なんだよ・・・。」


 いくら体を動かしても、この奇妙きみょうな流れにさからえなかった。

 僕は一丁前に考えた。

 考えて、考えて、考え続けた。

 そして、一つの考えに辿たどいた。

 それは、これが夢だということ。

 何故なら、こんな非日常的なことが起きているのに、僕が冷静でいられていることだ。

 これはまぎれもなく事実だ。

 これは夢だ。

 ファンタジーゲームをやっていたから、こんな夢を見ちゃっているんだな。

 でも、こんなに意識のある夢は初めてだな。


 僕はそう思うと、だんだん楽しくなってきた。


 「ひゃっふー!」


 僕はこの状況を楽しもうと、大きい声を出しながら、自分の好きな歌い踊りまくった。

 ノリノリの僕に対して、渦は永遠と続いていた。


 「そろそろ飽きてきたなー。

  もう寝よ!」


 僕は目をつぶり、自分の夢を強制的に終わらせようとした。


 「あのー。

  目覚ましてくださいな。」


 「んー。」


 「朝ですよー。

  起きてくださいなー。」


 「んー。

  あと一時間だけ寝させてー。」


 僕は、異様な疲労感に二度寝を決意した。


 「もーそろそろ始まっちゃうんですからね!

  初心者の力も借りたいぐらいなんですからね!

  起きないなら、無理なりにでも起こすまでです!

  インフェルノ・レインボー!」


  あれ、この声姉ちゃんの声じゃない・・・。

  まっ、いっか。

  でもかわいい声だな・・・、うわーーー!


 黒い闇を見ていた僕の眼球に、虹色の光が飛び込んできた。

 僕は思わずの光に、目をバサッと開けた。

 すると、そこには姉ちゃんよりも少し年上に見える可愛さと美人さを持った魔女のコスプレをした天使がひざを折りながら見下ろしていた。


 「やっと起きたわね。

  ほら、いくわよー!

  横の子もあなたの仲間でしょ!

  一緒に送ってあげるわ!

  ・・・、あっ!

  その前に、あれをっと・・・。

  レインボー・シャワー!」


 七色の光と共に、どこかしらから現れたコップに虹色の液体がそそがれていった。


 「はい、どうぞ!」


 天使はそう言うと、どうぞと言っておきながら僕の体を押し倒して固定して強引に僕の口の中へと突っ込んでいって飲ませた。

 あまりの事態に僕は必死に抵抗しようとしたが、大人の力に全く抵抗が出来なかった。


 ごくん・・・。


 飲んでしまった。

 一滴残らずに・・・。

 でも、美味かった。

 例えるなら・・・、いや止めておこう・・・。


 「それじゃあ、こっちの子にも・・・。」


 天使はそう言うと、僕の隣で寝ている見知らぬ女の子にも虹色の液体を口を強引に開けて流していた。


 「ゲホッ!」


 女の子は急な事態に液体を吐き出した。

 それを見た天使が即座に杖を一振りした。

 すると、液体は逆再生のように女の子の口へと戻っていった。


 「ちゃんと飲みなさい。

好き嫌いは駄目よ!」


 口をふくらませて抵抗する女の子。

 しかし、液体は容赦ようしゃなく女の子の体へと入っていった。


 「はい、オッケー。」


 絶望ぜつぼうする女の子、それに反し笑顔の天使。

 僕にはこの状況がさっぱり分からなかった。


 「はい!

  とりあえずこれで最低限の準備完了!

  それじゃあ時間もないし、いってらっしゃい!」


 天使がそう言うと、僕と女の子の体が虹色に光った。


 戸惑とまどう僕と女の子。

 しかし考えるひまもなく、僕達は目的地も分からないまま空高く飛んで行った。


 「ぎゃー!×2」


 ・・・数分後、僕達は思いっきり着地した。


 「うわっ!

  びっくりした!

でも、痛くない・・・。

  流石夢だな、展開てんかいが早すぎて思考が追い付かない。

  でもここは一体どこだ・・・。」


 辺りを見渡すと、先程さきほどまでの自然あふれたのどかな場所ではなく、空が不気味ぶきみ赤味掛あかみがかった自然が一つも見えない異様いような所に辿り着いた。

 でも、一つだけ僕でも瞬時しゅんじに理解出来ることがあった。

 それは、ここに自分がいるべき存在ではないということだ。


 宙を舞う人と、魔法の様なゲームの技、ファンタジーアニメを見ているかの様な服装・見た目をした異界人、地球ではありえないような新しい情報に一瞬くらっとしたが、すぐにそれは収まり小学生の僕の心は興奮へと変わっていった。


 「すげー!

  めっちゃすげー!」


 余りにも現実離れした光景に、自分の目が光輝いていた。

 となりを見ると、先程の女の子がいた。

 僕とは対照的に、女の子は棒立ちのまま気を失っていた。

 肩をさすって起こそうとするが反応はなかった。


 「まっ、いっか!

  夢だし少し経てば起きてるっしょ。

  それにしてもリアルだな・・・。」


 僕は一回手を組み少し考えた。

 ギッシリと感じる地面、息を吸って感じる生命感、極度の興奮、まるで今自分が家で寝ながら夢を見ているのではなく、本当に異世界の地に立っているかのような、そんな感覚・・・。


 「そんな訳ないよな・・・。」


 「危ない!!」


 「!?」


 ふとした女性の声に、僕は驚いた。

 そして上を見ると、大きな亀の甲羅型こうらがたの盾を持った女性が僕の目の前に構えながら立っていた。


 「あの、こんにちは。

  どうしたんですか?」


 自分のことだけ考えていた僕には何が起きたのかさっぱり分からなかった。

 そして、この女性は何故初対面の僕に対して声を荒らげて言ったのか理解できなかった。


 「・・・。」


 女性は僕を無視するかのように構えながら動かなくなった。

 数秒経った後、地面と空気が地震のように小刻こきざみにれだした。

 急な出来事に僕の感情は興奮から恐怖へと変わった。


 「・・・、来るよ!

  二人共、そこから絶対に動かないでよ!」


 「え?」


 僕が疑問に思った瞬間、左右に濃い赤い炎が物凄ものすごい勢いで通過していった。

 僕はあまりの速さと炎の火力に、一瞬息が出来なかった。


 「よし!」


 女性はそう言うと、どういう原理か分からないが大きな盾を一瞬でポケットへと入れた。


 「私はココナッツミルク!

  君達が天使の言ってた新米の冒険者ね。

  さっき来たばっかでしょ?」


 「はい、そうです。

  天使らしきコスプレの女性にいきなり連れてこられて・・・。」


 僕は先程の影響えいきょうのせいか、目線がさだまっていなかった。


 「時間がないから簡潔かんけつに言うね。

  今、勇者軍と魔王軍が戦っているの。

  いわゆる最終決戦的な、ラスボス戦的な感じ。

  でも安心して、もうすぐで勝てるから!

  だから勇者が魔王を倒すまでどこかで隠れているといいわ。

  それに、今あなたはこれが夢だと絶対思っているだろうけど、それは間違いだからね!

  これは現実!

  やられれば死んじゃう!

  あなたは今現実世界ではなく、このファーストパラダイスっていう異世界にいるのよ!」


 「・・・ここが異世界。

  夢じゃない・・・。」


 誰しも一回は夢を描いて想像する理想の世界・・・。

 ゲームやアニメではない、現実とは違う所にあるちゃんと生きてる人がいる世界・・・。

 僕は、今日とんでもないところに来てしまったらしい・・・。


 「それじゃ、私行くから!

  またえんが合ったら現実世界で会いましょう!」


 女性はそう言うと、戦いが激しそうな方へと走っていった。


 「どうしよう・・・。

  とりあえず逃げるか。」


 僕は決心して、周りを見渡しながら隠れられる所を探した。

 すると、すぐ近くに小屋が見えた。

 僕は即決でそこに行くことを決意した。


 走り始めて数秒後、気になったので後ろを降り向くと、まだ女の子はその場から一歩も動かずにボーっと立っていた。


 僕は昔、一時期いちじき心理テストにはまった時期があった。

 その中にこの問題があった。

 もし、あなたが異世界にいるとして、生死の危機におちいっているとします。

 時間がありません。

 でも、近くに赤の他人がふるえて動けなくなっています。

 さて、あなたはどうしますか?

 という問題だ。


 その時の記憶ははっきりとは覚えていないが、僕はそのまま自分の命を守ることを最優先さいゆうせんにして、自分だけ逃げる、を選択していたと思う。


 今がその時・・・、僕は一瞬どうしようかと頭で考えた。

 しかし、体が頭に反発して強引に筋肉を動かし、女の子の元へと勝手に走っていった。


 こういうの苦手なんだけどな・・・。


 「おい!

  行くぞ!」


 僕は、女の子の所に辿り着いて起こすように声を掛けた。

 しかし、女の子はうんともすんとも言わず、一歩も動かなかった。

 僕は女の子の前に行き、強制おんぶ作戦をして小屋へと走った。

重くは全く感じなかった為、うっすら記憶にある火事場の馬鹿力が発動したんだと思った。


 走っている最中、何度かながだまが当たりそうになったが、不幸中ふこうちゅうさいわいで一発も当たらずに小屋へと辿たどいた。


 「よし、とりあえず大丈夫だよな・・・。」


 中に入り、僕は外から見えない位置に女の子をゆっくりと座らせた。

 そして、対照的たいしょうてきに自分はくずれるように座り込んだ。

 周りを見ると、僕等みたいな非戦闘員らしき人が怯えながら座っていた。


 一体どうなってるんだよ。

 少し落ち着けたせいか、情報が多すぎて頭が痛くなってきた。


 僕が頭を抱えて震えていると、となりにいた女の子が目を覚ましたのか、後ろから僕の体を優しく包んでくれた。


 僕は一瞬ビクッとなったが、すぐに安心へと変わった。

 さっきまで震えていた体も自然と静かになっていた。


 「ありがとう・・・。」


 僕がそう言うと、女の子は「こっちこそありがとう。」と笑顔で言った。


 この子も怖いはずなのに・・・。

 こっちの異世界に来てから何気にずっと一緒にいるこの女の子・・・。

 この女の子は一体・・・。

 そういえば、まだ名前すら聞いていないな。

 僕は、僕の中にある小さな勇気をしぼって聞くことにした。


 「僕の名前は、富士晴樹ふじはるき

君は何ていう名m・・・。」


 僕が女の子の名前を聞こうとした瞬間、大きな地響じひびきが起きた。

 小屋の窓ガラスは、全て割れて辺り一面にガラスの破片が広がった。

 僕は引き寄せられるかのように、窓があったところまで行って外を見た。

 すると、黒色に光る魔王らしき者の姿と黄金に光る人の姿が見えた。


 「まぶしすぎる・・・。」


 二つの光は次第しだいに大きくなっていった。

そして、おたがいがお互いに向かって突進とっしんしてまじわった。

 目では見えなかったが、この世界にひびがはいった気がした。


 大きな音と共に、僕と周りの人間は気を失った。


 何分経ったんだろうか・・・。


 「う・・・、一体何が・・・。」


 僕は、自分の体の上にっていた木片を退けて立ち上がった。

 辺りを見ると、360度無造作むぞうさにありとあらゆる物が転がっていた。

 そして、一緒にいた女の子が見当たらないことに気がついた。

 僕は目を凝らして必死に探すと、それらしき女の子が遠くで地面に倒れている姿が見えた。

 僕は何も考えずに突っ走って女の子を起こして座らせた。


 「大丈夫!?」


 「・・・。」


 女の子は目を開けるも、軽くまばたきをするくらいで返事がなかった。

 再び辺りを見渡していると、遠くの方で一つの光がそそいだ。

 その方角を一身に見ると、一人の男性が剣をかかげて立っていた。

 その男性は数秒後、泣きながらこうさけんだ。


 「人間の勝利だ!」と。

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