序章
五人の若者たち
時は
所は花国の王都“
その宮城の一角にあるの
◆◇◆◇◆
吹いた風は、
その風に、季節の移ろいを感じたのだろうか。
四阿の前で一人、
そこに広がるのは、夜の
今日は、
「きれいな月ですね……」
伯佑は、思わずぽつりと呟いていた。座っていた
そんな彼に、ゆっくりと近づく一人の少年がいた。兄のすぐそばまで来たその少年は、そこから静かに彼に声をかけた。
「
伯佑は、声のした方へ振り返る。
そこには、彼の末の弟が、笑みを浮かべて立っていた。
「……
「はい。佑兄上」
季安は、うれしそうにうなずいた。さらに一歩、踏み出し、伯佑へと近づく。
季安はもう一度、佑兄上、と親しみと
「どうぞ、召し上がってください。僕が、お
言葉の最後の方は、自信なさげであった。伯佑の目を真っ直ぐに見ていた視線が、地面に落とされる。
「そうですか。ありがとうございます、季安」
伯佑は、季安の元に歩み寄り、差し出す手から、そっと茶杯を受け取った。
「いただきます」
最後の一滴まで丁寧に飲み干した伯佑は、自分の姿を
「おいしいお茶を、ありがとうございます。季安。また、上達しましたね。この
そう言って、伯佑は
「…………ありがとうございます、佑兄上。そうおっしゃってくださり、とても光栄に存じます。うれしいです」
季安は、月明かりでもわかるほど
伯佑も、再び空に目を向けた。
二人は、何も言わずに、そのまま空を見上げていたのだが。
「くぅ〜。月見酒は最高だぜ〜」
四阿の椅子で、酒杯を傾ける一人の酒飲みが、風流に浸っていた二人の雰囲気を見事に壊したのであった。
その声の主の方を向いた伯佑は、案の定の光景に、額に手を当てて、ため息をついた。
「……………………
「
季安は、あきれを通り越して、一種の怒りを覚えていた。せっかく、一番尊敬する佑兄上と一緒に、月を眺めていたのに…………。特にここ数年はお互いに忙しくて、長兄と
そんな二人の様子など一向に気にしない仲真は、
「兄上。そこにいらっしゃいましたか。兄上もぜひ、ここで一緒に飲みませんか?」
そう言った彼は、片手に持つ
………………
仕方なく、庭先から四阿の中に入った伯佑と季安は、空席を見つけると、そこにそれぞれ座った。
相変わらず酒瓶を片手に持ち、一人手酌するすぐ下の弟に、伯佑はこう言った。
「…………私は遠慮します。今日は飲みたい気分ではありませんので。それにしても仲真。飲み過ぎではないですか? 若いころから大酒飲みだと、長生きできませんよ」
「少しぐらい、いいじゃないですか。伯佑兄上。いつもは酒なんて、ゆっくり飲む暇などないんです、俺には。それに酒は、百薬の長、と言うではありませんか?」
兄の忠告など、どこに吹く風。仲真は、酒杯に注いだ酒を悪びれることもなく、ぐっとあおる。
その言葉に、四阿で囲碁をしていた伯佑の三番目の弟、
「…………それも、
「何だとう! 叔宝、お前、生意気なことを言いやがって!」
その言葉に、真っ先に反応を返す仲真。実は仲真は、とても
それをよく知っている叔宝は、次兄で遊ぶのが
「なぜって…………それが本当のことだから、だろう? いい加減、そろそろ認められた方が良いと思いますよ。あ・に・う・え・サ・マ」
白の
「〜〜〜〜〜〜っ!! 頭に来るような言い方するんじゃねぇ! だいたいお前から兄上サマって呼ばれる方が怖いぞ! 気持ち悪いからやめてくれ!」
「こらこら仲真、叔宝。やめなさい。いつまで、子どものケンカのような言い争いを、するつもりかい? 君たちももう、いい大人だろう? まったく……」
黙って見ていた伯佑は、長兄として、ここで始めて二人のケンカを止めに入った。本日二度目のため息をつく。
「そうですよ、
季安も、負けじと次兄と三兄に
この二人は、昔から事あるごとに
「そうそう。いつまでも、終わりが見えないくだらないケンカは、しない方がいいですよ。二ノ兄上と、三ノ兄上」
そこに、新たな声の主が現れた。伯佑の四番目の弟にして、季安のすぐ上の兄、
彼は、叔宝の対戦相手として、共に
その声に自分が碁の
「ああぁ――――――っ! ちょっと秀玉、いつの間に何てところに打っているんだよ――――っ!」
叔宝が碁盤から目を離し、次兄と言い争いをしていたすきに、しっかりと黒の碁石を(叔宝にとっては)かなり痛いところに打っていた秀玉は、三兄の驚いた声に顔を上げると、にやりと笑った。
「よそ見をしていた人が悪いんですよ、三ノ兄上。ま、これこそ、生き馬の目を抜くってところですかね」
…………抜け目のないというか、ちゃっかりしているというか。
「勝負あり、ですね。三ノ兄上」
そう言うと、更に笑みを深くした秀玉の顔を見て、白の碁石を持ったまま動きを止め、灰になった叔宝。その肩を、仲真は
しーん、と
ただ、どこかから、りんりん…………、りんりん…………と、秋の虫の声が聞こえる…………のみである。
そんなどんよりとした空気に、季安が堪え切れらなくなった…………ちょうど、そのとき。
「やはり、ここに居ったようだな。我が息子たちよ」
四阿の入り口に立つ、一人の
その証拠に。
「は、母上!?」と、伯佑が珍しく素っ頓狂な声を上げれば。
「うそだろ?!」と、仲真は大慌てで酒瓶を自分の後ろに隠す。
「母上が……?」と、気分は塵であった叔宝が正気に戻れば。
「なぜ……こんなところに、」と、秀玉は二の句が継げない。
最後に、「は、母上!」 助かった! ありがとうございます、母上! と、母の登場を素直に喜んだ季安。
…………反応は、
そうして、気を置けない兄弟同士、くつろいでいた彼らは、椅子から慌てて立ち上がり、
「よいよい。ここは私の奥ノ宮、いわば私の家族が集う場所だ。よって、
「か、感謝申し上げます。母上」
兄弟の中で一番年上である伯佑が代表して、母王に感謝の言葉を述べた。
「よい。ほら、いつまでも固い床に座るものではない。
女王はそう言うと、四阿の上座にある椅子に、
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