第41話 選択の結果2

 その頃のエイビスは、フィアの想像通り、目の前の小さな蝶に悪態をついていた。


「精霊王、僕もう帰りたいんだけど」


 蝶は蓮の花の上に留まり、エイビスに頭を向けている。

 だが足元には水はなく、ただただ緑に染まった世界だ。

 どこもかしこも緑。

 この小さな空間一帯に植物がひしめき合い、蔦なのか木なのかもわからないものが、天井から床まで張り巡らされ、この空間を圧迫している。


『……そんな幼子のような言い草はないじゃろ』


 虹色の羽の蝶は、金粉を降らせながらエイビスに話す。

 だがその声は頭の中に直接届く不思議な声だ。

 明るい部屋で舞う金粉はチカチカと目に刺さるようで、エイビスはそれを塵ゴミのように手で払うと、再び催促した。


「今で2分も経ってる……早く、なに、精霊王っ!」


『全く……簡潔に言うと、ネージュに2つの魂が結ばれた。その理由はわかるか?』


「知らないよ。僕には関係ない。全くわからない。というか、意味がわからない」


 全く知りませんと言わんばかりのオーバーリアクションだ。

 それを見た精霊王はやれやれとでも言うように、羽を上下に揺らす。


『そのままの意味だ、エイビス。

 今ネージュは新たな者の聖剣となった。

 アレッタと繋がったままで、な』


 蝶が浮かぶと、蔓が伸びてエイビスの目の前に留まり、ゆるやかに羽を広げてみせる。


 だが、エイビスは固まっていた。

 その言葉の現実を見れないでいた。

 ようやく言った言葉は、


「……無理だ………」


 たった3文字だった。


 それでもエイビスはいくつかの可能性を考えてみる。

 いくら考えてもまとまらないその現実に、左右に頭が振られる。

 そしてもう一度、無理だと付け加えた。


『でもできてしまった……どうやったかは知らん。

 だが今頃ネージュは身を割かんばかりの痛みの中におるじゃろう……

 可哀想な我が娘……』


「そうだとして、何の得があるの」


『それは我の範疇ではない。下等な天使の考えなど、わかりたくもない。だからお主を呼び出した』


「でも、それじゃ聖剣の力はほとんど使えない状態じゃないの?」


『だろうな。力を使うたびに、ネージュの魂は削られる……』


「削られる……? そんな……」


 その言葉にエイビスは大きく反応した。


「……まずい」


 慌てだしたエイビスに、蝶はひらりと舞い上がる。


「早く帰らせて、精霊王。アレッタが……」


『なぜ、アレッタ……?』


「アレッタが今、ヒト堕ちで、僕のところにいて……」


『……なんと…』



 エイビスは精霊王に仮面を向け、低い声で言い放った。



「……襲撃が、来る…」

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