のんびり田舎で村づくり

ともさん

第1話 出会い

「この子を裁判が終わるまで預かっては貰えないでしょうか?」




 そう言って女は、横にいる小さく可愛い女の子を少し前に差し出した。


 日本の西の端に位置するこの超がつくほどの田舎町で、親戚に預けたり施設に預けたりすると、この子がいじめられる対象になってしまうからだと言う。


 紹介されたこの小さな、「さくら」と女の子は父親が薬物に手を出し、その過程で虐待を受け、心に大きな傷があるのだと言う。

 また、横にいる母親は夫に対して強く出る事が出来ず、むしろ自分がやられない様に小さくなっていたのだ。


 自分を守る為なのかもしれないが、自分の子供に暴力の対象となってもらい、逃げていた。

 そのため、この小さな女の子は母親である横の女にも懐いてはいない。

 いや、裏切られたと感じているのだろう。


 そもそも、この母親ですら自分で子供を育てていこうとは考えていないのだろう。

 多くの場所で母親だから自分で育てなさいと言われているはずである。

 そしてその上でお願いしているのだろう。


 しかも、世間体を気にして親族や、施設に預けたりすることを避けているのだから本当にタチが悪い。


 そして、これまでにも保護施設からの要請を断り、多くの知り合いに同じようなお願いをしているとのことだ。

 しかし、自分から近しい人間に声をかけて行ったものの、同じように断られた続けた挙句、薄くはあるが、関わりのある俺の元にもお願いに来たのだと言う。



 これほど断られた事には流石の母親も傷ついてはいるのだが、それ以上にこの小さな女の子がショックを受けている様だ。


 どこに行っても自分を守ってくれる場所がないのは本当に辛かっただろう。


 この母親がどうなろうと今更知ったことではないが、この幼さで感情が抜けてしまうほど傷ついた子を見捨てることは出来ない。


 出来ないのだが、、、



 今年32歳、独身、一人暮らしの男に普通、子供を任せる事が出来ると考えるだろうか?

 女性と付き合った事が無いわけでは無いが、子供を預かると言う点は普通に考えて無理ではないだろうか?



 この俺、大久保 さとしは、在宅で仕事をしており、確かに時間的な余裕はある。

 それに、このど田舎だからこそ食うには困らないほどの食べ物はあるのだ。

 稼ぎが少なくてもそれほど困る事は無い。


 別に今日食べるご飯に困るほどの薄給では無いが。


 そう言った点を考えると不可能ではないだろうが、だからといって「はいそうですか」と頷けるものではない。



「うーん」


 そう言って悩んでいた。

 別に悪人ではないのだが、だからと言って聖人でも無い。食うに困ってはいないが、だからと言って養うことは考えてもいない。


 どう断ろうか悩んでいると、






「助けて、、、」


 か細い声で精一杯の思いが詰まった声が聞こえた。






 その瞬間、自分はカミナリにでも打たれたかの様な衝撃を受けた。

 びっくりした。

 この母親の事を悪く言っておきながら、自分も同じように保身に走り、この子を見捨てようとしていたのだ。

 聞こえなければ良かったのかもしれない。聞こえていても今まで断った人たちと同じように手を横に振れば良かったのかもしれない。

 しかし、そう考える事が出来なかった。




「預かるからどうすれば良いか教えろ」


 次の瞬間そう言葉を発してしまっていた。

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