触手 グレート オーダー

虹色水晶

前話 触手とレベルアップするのが大好きな連中

 あるところにレベルアップするのが大好きな連中がいた。


「レベルアップレベルアップ、俺は歩くだけでレベルアップするんだああ」


「レベルアップレベルアップ、俺は呼吸するだけでレベルアップするんだああ」


「レベルアップレベルアップ、俺は心臓が動くだけでレベルアップするんだああ」


「レベルアップレベルアップ、俺はレイプするだけでレベルアップするんだああ」


 そこにクイックムーバーと弥次郎がやって来た。


「弥次郎君。レベルアップは好きかい?」


「レベルが上がるのは好きだけどレベル上げの作業は退屈で嫌いだなあ」


「そう考えるのはパソコン版ウィザードリィの時代から変わらないようだね」


「パソコン版ウィザードリィ?」


「ドラクエの原型となったゲームの一つと言われているよ。弥次郎君の産まれる以前の大昔に製作され、販売されたパソコン用RPGだったらしいね」


「それはどんなMMORPGだったんだい?」


「弥次郎君。その時代はまだインターネットすら存在していないんだよ?これは学校のパソコン授業で習うレベルの程度の常識だよ」


「な、なんだって!これは学校のパソコンの授業で習う範囲の常識だったのか!教科書を見直さないと!!」


「話をウィザードリィに戻そうか。これは当時の技術レベルで製作された非常に原始的なRPG且つ現在のRPGに通じるものを兼ね備えたものであったんだ。酒場でパーティを組んで、お店で装備を買って、ダンジョンに向かう。一連のパターンだね。で、迷宮最深部の親玉の所まで向かうわけなんだけど最初はプレイヤーキャラクタは仲良くレベル1なんだ。ステータスボーナスが5しかないキャラでもキャラクリリセマラしまくりでボーナス50全ステータス最初からマックス状態の超チートキャラでも例外はないよ」


「ステータスマックスならボスまで余裕だろ」


「レベルが上がらないとHPは増えないんだよ。MPの最大値もね」


「なるほど」


「で、プレイヤーは仕方なくレベル上げする羽目になるわけになるわけど、このゲームをプレイ中、あるプレイヤーが思ったんだ。ゲームを進めるにはレベル上げが必要だ。だがレベル上げは面倒だ。誰かが自分の代わりにレベル上げをしてくれないだろうか。と」


「まさか、チートをしたのか?」


「いや。そのプレイヤーはウィーザーリィのゲームシステムを理解したうえでリーガル(合法)的に自動的にレベル上げする事に成功したんだよ」


「なんだって!チートをしないで自動的にレベルアップするだなんて!そんな事が可能なのか!!?」


「まず、ウィザードリィが家庭用ゲーム機ではなく、パソコン用RPGだったという事が可能になった原因の一つだ。家庭用ゲーム機はコントローラーの十字キーなどでプレイヤーキャラクターを操作するがウィザードリィはダンジョンに潜ったあと、矢印キーで方向転換も行う。だが、前進をするだけならスペースバーだけでよかったらしい」


「あ、パソコンだからか」


「さらに迷宮低層のスライムやゴブリンなどの比較的弱いエネミーしか出現しないエリアがああった。部屋の周囲を十字路で区切られた正方形の部屋が存在するのだが回転床のせいで直進するだけではその正方形の部屋を周囲を延々と無限に周回する事になってしまうんだ」


「回転床?」


「名探偵コナン65話カニとクジラ誘拐事件に回転する扉が出て来るよ。イメージが掴めなければそっちを参考にしてくれ。ようつべで視聴できる」


「わかった。見てくる」


「移動方法の次は戦闘システムだ。ウィザードリィはターン制のコマンド入力RPGなんだけど戦闘時のキーのデフォルト位置が”攻撃する”で固定されている。弓矢などの飛び道具を持っていない後列メンバーは”身を護る”で固定で、仮に雑魚敵相手に決定キーを連打して戦闘を終了した場合回復や攻撃魔法を無駄に消費するようなことはないんだ」


「あれ?と、いうことは?」


「そう。この決定キーもスペースバーなんだ。つまりプレイヤーはダンジョンのこの四角い無限ループする部屋の周囲にキャラクターを移動させた後、キーボードのスペースバーをガムテープなどで固定。あとはパソコンをコンセントに繋ぎっぱなしにしておくだけで寝ている間。学校や仕事に行っている間に自動的にエネミーと戦い、経験値稼ぎをしてくれるというわけさ!!」


「俺のやっている御船の名前がついた女の子を集めるゲームにも自動戦闘モードがついてるな」


「四十年前の人たちが考えたシステムに時代がようやくたどり着いた。そんなところだろうね」


 どん、と誰かにぶつかったような。弥次郎はそんな気がした。


「あ、すみません」


「どうしたんだい弥次郎君?」


「あ、いや。今誰かにぶつかったんで」


「誰もいないじゃないか」


 そこには大量の灰があるだけだった。


「弥次郎君。人間は人間にぶつかったくらいでは灰にならないよ。普段からレベルアップで俺様は強いんだって言ってるなろう主人公ならなおさらさ」


「まあそうだろうな。なろう主人公にぶつかったら俺の方が吹き飛んでるよ」


「でも歩きスマフォは危険だからやめた方がいいよ弥次郎君」


「わかってるって」


 弥次郎はそう言うと、自動戦闘にしてからスマートフォンをポケットにしまった。これで歩きながらイベント周回ができる。チートをしなくても自動的にレベルが上がったり、アイテムの収集ができるだなんて。まったく、世の中便利になったものだなあ。

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