第2話
103号室。
平日の昼間。
部屋からは、カタカタ、カタカタ、という音が聞こえてくる。
ここは、小説家志望の男の住まいだ。
レオニード。
それが、吾輩の名前だ。
今年で2万飛んで30才になる。
良く覚えておくがいい。
吾輩はファンタジー作家として、これから世間に名を轟かせることになるのだ。
吾輩は今、最近発売したばかりの、ロールプレイングゲームなるものをプレイしている。
もちろん、小説の題材探しも兼ねている。
下界の趣向を知ることで、独りよがりの作品にならぬよう気を付けねばな。
「こやつ、魔法しか利かぬのか」
攻撃こそ、最大の防御。
レベルアップ時に、攻撃力増強のみに勤いそしんだため、魔法をおろそかにしてしまった。
やり直すか?
迷っていると、吾輩のムーバ (携帯)から、メロディが流れて来た。
「……何の用だ」
「あ、ススム? 私だけど。 あなた、送ったメールくらいちゃんと見なさいよ!」
吾輩の本名で名乗る不届き者は誰だ!
……と思ったら、おふくろだった。
「何だよ、一体。 今、執筆で忙しいんだけど」
「お父さんと話合ったんだけど、もし今年中に就職しなかったら、仕送り、止めようって話になったのよ」
「はっ!?」
ちょ、待て。
仕送りは俺の生命線だ。
今、週3でコンビニのバイトをしているが、給料は一日7000円。
月に換算すると、86400円。
光熱費、携帯、ネット代、飯代を差っ引くと、ほとんどなくなる。
俺は仕送りに5万をもらっていて、それをここの家賃代にあてていた。
「ふざけんなよ、俺を殺す気かっつの!」
「ミュージシャン志望とか、俳優志望とか、ロクな人間いないんだから、あなたも同類よ。 これは決定事項で、覆らないから。 あと、夕飯にお弁当買ったけど、いる?」
「いらねーよっ」
ブチ、と携帯を切る。
まずい。
今年中に何らかのコンクールで賞を取って、作家として才能があるってのを知らしめないと、マジで生きていけなくなる。
俺は、テレビを消して、机に向き直った。
「……」
パソコンの前に向かったはいいけど、何も書けねー。
絶対コンクールに受かるくらいの、すげー作品を書こうと力んでっからか、いつにもましてだ。
「あー、ダメだ!」
イライラしてきた。
書いては消して、書いては消して……
額に汗が滲む。
あっちい。
つか、冷房、効いてねー気がすんだけど。
俺は、壁に括りつけてある、エアコンに手をかざした。
「……効いてねーじゃん、っざけんなっつの!」
エアコンからは、温い風しか出てねー。
くっそ、管理人に電話すっか。
俺は、ムーバを手に取って、ここの管理人に電話をかけた。
「はい」
「あ、山猫さん? ここのエアコン効いてなくってさ、一回見に来てくんないっすか?」
「分かりました。 今から伺いますね」
しばらくすると、山猫さんが現れた。
青い上着がトレードマークで、ここの管理人だ。
前も、ドアの立て付けを直してもらった。
「あ、ほんとだ。 エアコン、効いてないですね」
「もしかして、買い替えた方がいい感じっすか?」
「このエアコンも結構古いですからね。 夏場だと、あんまり効かなくなっちゃうのかも」
夏場に使えないエアコンとか、ダメじゃんか。
「買い換える金なんてねーんだよな…… 山猫さんさ、何か、小説のいいアイデアない?」
猫の手も借りたい状況で、俺は試しに聞いてみた。
……まあ、ダメとは思うけど。
「難しいですね…… あ、でも、面白い小説を今読んでるんですよ。 良かったら、お貸ししますよ。 まだ、世に出てない小説なんです」
世に出てない、面白い小説?
山猫さんは、一旦部屋に戻ってある本を俺に手渡してきた。
「ハリーポーターの、賢者の石?」
「はい。 ジャンルは、ファンタジーになるんでしょうか。 最初は子供向けかと思ったんですが、ミステリとかもあって、面白いんですよ」
少し、興味がわいた。
ゲームとかしなさそうな人が面白いっつーファンタジー小説。
世に出てないってことは、同人的なやつかも知れない。
小説なんて読んでる暇なかったが、俺はその分厚い本を借りることにした。
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