あなたが世界で一番ただしい人

ちびまるフォイ

世界を正常化することが常に正しい!

「あなたが常に正しい人ですね」


「へ?」

「教えてください。私はどうしたらいいですか?」


「えーーっと、そうですね……か、帰ってくれますか?」


「はい!」


今朝から家の前にはなぞの長蛇の列ができていた。

その誰もが口をそろえて「常に正しい人」というのを言ってくる。


「私は政治家なんだが、この問題についてどうアプローチすればいい?」


「そ、それをただの凡人に聞くんですか!?」

「君は常に正しい人だからね」


「自分で考えてください」


「わかりました! あなたが自分で考えろと言った。

 つまり、私が考えて出した結論が

 あなたの保証する正しいことになるんですね!」


「いやいやいや! そういうわけじゃなく!」

「ありがとうございます!」


「おい待てって!」


政治家は嬉しそうに去っていった。

どうやら自分の言うことは常に正しいことになってしまう。


「実は、恋人とうまく行かなくて悩んでいるんです。

 私に教えてください。正しいことを」


「服を脱ぐとか?」

「それが正しいんですね!」


「ちがっ……ジョーク! ジョークだって!!」


相談に着た女がいきなり服を脱ぎ始めたのを必死に止めた。

もはや催眠と言い換えてもいいレベル。


「ジョークが正しいんですか?」

「それでいいです……」


「ありがとうございます! 彼氏にあなたがそう言っていたと伝えますね!」


「……え、ええ……」


責任疲れという新語が俺の中で生まれた。

そんなある日、また俺のもとに政治家がやってきた。


「実は常に正しい人に、ご相談がありまして」


「相談?」


「あなたは常に正しいので、この国のトップになりませんか?」


「はい!?」


「国民投票をした結果、あなたが一番だったんです。

 でも、この結果をあなたが間違っているとすれば、間違いになります」


「いやそれは……」


俺の一言であらゆる選挙も無効にできてしまうのか。


「どうしますか? 教えてください。

 我々は、あなたをトップにするべきでしょうか」


「どうしよう……」


断ってしまうのがすぐに浮かんだが、

普通に生活していてもすぐに何が正しいか常に求められる。


偉くなてしまえば、そう簡単にお目通りできなくなるから楽になるかもしれない。


「受けます。俺がトップになります」


「わかりました! その結論が正しいんですね!!」


俺がトップになることに、誰一人反論する人はいなかった。

その決断が常に正しいということだから。


俺の狙い通り、立場が上になれば今まで押し寄せていた相談待ちの人も

そうそう簡単に来れなくなりぐっとプライベートな時間が増えた。


その反面、求められる判断はより大きな規模になった。


「この外交問題をどうしたらいいですか?」

「この国の問題をどう解決したら良いでしょう?」

「災害が起きました! 正しい対応を教えてください!」


「その場の人に任せてください」


「わかりました! その判断が正しいです!!」


いつもだいたいそんな感じにしていた。

偉くなったことで、大掛かりで無茶な決定もすることができる。


「これからこの世界での標準服は水着とする!」

「あなたは常に正しい!!」


「週休5日制を導入する!」

「あなたは常に正しい!!」


「学校教育にゲームを実施!」

「あなたは常に正しい!!」


支持率400%という凄まじいスコアを叩き出した。

何もかも思い通りにできたので、やっぱり決断は正しかったと思う。


俺色に魔改造した素敵な世界で生活している時、

幸せをぶっ壊す出来事がついに起きてしまった。


「常に正しい人、大変です。

 戦争するという果たし状が届いています!」


「せ、せせせ、戦争!?」


「あなたの判断を教えてください。あなたが常に正しいんです!」


「ちょ、ちょっと待てよ! どうして戦争に!?

 そもそも悪いことなんてしてないだろう!?」


「実は、現場の人たちがその場で判断していた結果

 なんかいろいろズレや行き違いや誤解があって、

 それで様々な問題が積もり積もって戦争ということになりました」


「そんな……」


「でも、それも正しいことですよね。

 あなたがその場で判断しろと言ったから、常に正しいんです」


戦争するかしないかまでの2択を迫られてしまった。

誰も死んでもほしくないし、かといって、無視するわけにもいかない。


「どうすればいいんですか!?

 あなたの出す常に正しい答えを教えてください!」


「え、えーっと……その……」


どうすればいい。なんて答えればいい。


先送りするという判断にすればいいだろうか。

でも、その判断をしたところで何も変わりはしない。

むしろ自体は悪化するかもしれない。


戦争すれば良いのか。そんなの無理に決まってる。

かといって、戦争しないのかと言われれば、そうでもないし……。


自分で考えろと言っても、自分で考えたことが

俺の言葉の代弁みたいに扱われるからもっとヤバイし……。


「答えてください! 何が正しいんですか!」

「あなたが常に正しいんです!」

「あなたの答えにみんな従います!!」


どうすればみんなもとに戻ってくれる。

みんなが元通りになる方法はないのか。


「あ……あああ……」


「なにが正しいんですか!?」


どんどん詰め寄られ、最後の決断を下した。



「俺が常に正しいわけじゃないってことが、正しい!!」




「……それが正しいってことは、正しくないってことだから、あれ?」

「いや、正しくないことが正しいことで……んん?」


全員が顔を見合わせて頭をひねった。


「こんなわけわからないことを言う人間は間違っている!!

 みんな、もっと真面目に考えよう!!」


そして世界は正常に戻った。

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