スーパーカブ5
トネ コーケン
第1話 不自由
もう何度目か、小熊は自分の姿を見下ろした。
嫌味なくらい清潔なシーツの上に横たわる体は、相変わらず自由が利かない。
手も動き上体は問題なく動き、左足は自由に動かすことが出来る。問題は右足。
膝の左右には見慣れない金属製のピンが生えていて、それをくわえ込むような形で重厚な固定具が嵌められている。
固定具には紐が結び付けられていた。紐はベッドの足元に立てられた柱に付いた滑車へと通され、紐の先には数kgの錘がブラ下げられているという。
現物は見たことが無い。ここに入院して以来ずっとこの忌々しい固定具でベッドに縛りつけられ、ベッドを降りることはおろか寝返りさえ自由に打てない。
右大腿部の牽引措置は、骨に金属の棒を打ち込んで接合する手術が行われるまで続くらしい、それがいつかを何度も看護師や主治医に尋ねたが、「患部が落ち着いてから」と言うだけで、具体的な日数は教えてくれない。
小熊は自分がこうなった理由を思い出してみた。この病院に救急車で運ばれた日はそんな事をする気になれなかった、翌日も思い出したくなかった。翌々日は諸々の所用で忙殺されそれどころじゃなかった。そう思い込んで記憶に蓋をしていた。
スーパーカブという誰よりも自由になれる機械で、最高に気持ちよくなる走りを楽しんでいた小熊は、人生最悪ともいえる苦痛を経験し、不自由な身となった。
このベッドに固定牽引具で拘束されて三日目、ようやく心身が落ち着いてきた小熊は、骨折と入院の原因となった事故に至る経緯を思い返した。
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