2 真貴

「貴一、シャンプー取ってよ!」

 真貴は声が大きい。風呂場の中からでも、台所にいて、ちょうど食器を洗いおえた貴一の耳に届くくらいだ。どこまでも世話が焼ける。

買い置きはなかった。そう告げると、

「あ、切らしてたの忘れてた。ちょっと貴一、あんたのシャンプーはあるじゃない。なんで姉さんのも一緒に買っとかないの」などと、言う。

「自分で補充するから俺には買うなって先月言っただろ。薬局のポイントカードでポイント貯めてるからって」

 シャワーの音がやんだ。いきなり浴室の引き戸が開くと、全裸の真貴が、仁王立ちで現れた。

「とにかく急いで買ってきて! 何でもいいわよ、シャンプーだったら」

「買ってくる! 買ってくるから、戸を閉めろ!」

「わかったわよ」

 真貴はガラガラと戸を閉めたが、思い出したように付け加える。

「ねえなんかジュースも買って来て。炭酸のやつ」

「はいはい」

 陽気な女王様の下僕は脱衣所を後にし、財布と鍵をズボンの尻ポケットに突っ込んで、外に出る。

貴一はドアの前で、大きく夜風を吸い込んで長~い溜め息をついた。


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