マヨネーズ少女
紙本臨夢
マヨネーズ少女
ダメ!! 守る! 君だけはわたしの身に変えても守ってみせるよ!
手を伸ばす。
あと少し! ……よし! 届いた! でも、わたしはダメみたい。でも、よかった……。君だけは助かって……。マヨネーズ……。
最期にマヨネーズを守ることができた。でも、わたしはどうやら大型トラックに
久々に奮発したかった君を食べたかったな。それだけが心残りだよ。
目を閉じた。
♦︎
目を開ける。
ん? あれ? わたし生きているの? えっ? 嘘っ!! やったあああああああああああ!!
いや、ちょっと待てわたし。ここはどこなの? それにここは見るからにどこかのキッチンだし……。はっ! まさかっ! 巨人族に捕まって、わたし食べられるの!? お願い! いっぱいマヨネーズをかけて食べて! それだけで幸せだから! 神様、仏様、マヨネーズ
祈る祈る祈る。今のわたしにはそれしかできない。だって、近くで出汁でも取られているのか、両手両足がある感覚しないし、もしあったとしても無駄なのはわかりきっているから。そもそも相手は巨人族。ただの一般人……いや、マヨネーズを買いだめに行く時以外は家に引きこもっているのだから。
仕方ないじゃない!! 見事に高校受験に失敗しちゃったんだから! 中卒で働きたくはないから、勉強するしかないんだもん! でも、大丈夫! 一応スタイルは維持しているから! 今でもマヨネーズを買いに行く時に周りからは可愛いやキレイという言葉が聞こえてくるし、マヨネーズを爆買いすると店員が驚いた表情を浮かべるしね。胸は……欲しかったなぁ。
ダメダメわたし! 現実逃避しちゃダメ! 今から美味しくいただかれるのだから! それに自分の体に未練なんて一つもないしね!
それにしても、全身ベトベトするなぁ。それになんか生臭いし。も、もしかして、すでに美味しくいただかれたあとなの? まぁ、捕まったんだし仕方ないか。
どこかの扉が開く音が聞こえる。すると、靴音が聞こえてくる。カツカツといい音が聞こえてくる。相手は巨人族だから、もっと大きな足音が聞こえると思ってたけど、そんなことはないみたい。
目の前に人影が通る。ちょうど食器棚のガラスに相手の顔が映る。
やだ! イケメン! ものすっごいイケメン! もしかして、わたしを食べてくれるのはあの人なの? やったぁぁぁぁ!!
えっ? ちょ、ちょっと待って!
自分の姿が食器棚に映ったけど、きっと気のせいだと思い、目を閉じる。スーハーと深呼吸。
よし! いざ拝見!
食器棚でもう一度自分の姿を確認する。先ほど見た姿と何一つ変わらない。
赤いヘッドと黄がかった白いボディー。
間違いない! これはマヨネーズ!! つ、ついにキタァァァァ!! 念願のマヨネェェェェェェェェェェェズ!! ヒャッフゥゥゥゥ!! 夢が叶った! わたしが追い求めていた体になれた! やったね!! わたしの勝利だ!! 見よ! この美しいフィルムを!
「あれ? マヨネーズ出しっぱなしじゃん。料理長も直しておけよなぁ」
あふぅ! そんな強く握らないで! 出ちゃう! いっぱい出ちゃう! 超絶イケメンに出させられちゃうううううう!!
「うおっ! 溢れてきやがった!」
超絶イケメンがベトベトに!
「くそっ……。また力の制御を間違えちまった」
力の制御? もしかして、何かあるの? いや、ちょっと待って。たしかに違和感がある。しかも、わたしを掴んでいる手から……うおおっ!! 義手!? 義手って近くで見るとスゴい迫力だね。
「マヨネーズでベトベトになっちまったな。まぁ、誰もいないしいっか」
超絶イケメンはわたしを銀色の机の上に置く。
この机って、アルミ製かな? なんとなく触ったことある感触だし……。って! 超絶イケメン服脱いでるし!! ダメだって! キッチンで脱いだら! 汚れるって! あなた自身も、料理も! それにしてもスゴい体。筋肉もスゴいけど、あちらこちらに傷がある。もしかして、歴戦の戦士だったりする?
「あっ…………」
超絶イケメンはわたしの横を見て、声を上げた。
「やっちまった……」
彼は何か手に取る。
サバ缶……。あっ、なるほどね。だから、生臭かったんだ。マヨネーズに
「これは廃棄だな」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! どうして! ねぇ、どうしてよぉ!!
「先マヨネーズを直し……いや待て待て。こんな変えたものじゃないやつを早く捨てないと、誰かが来るかもしんねぇ」
待って! 待ちなさい! わたしが食べるから廃棄しちゃ、ダメメメメメッ!! ……いや、待って。よく考えれば今のわたしは両手両足、さらに口もないじゃない。一体どうやって食べればいいのだろう…………。はっ! まさか! 一生食べれないの!? 全てを……マヨネーズでさえ! そんなの嫌! マヨネーズになったって、味わえないなんて絶対に嫌! いっそ殺して! 体である容器を切断して殺して! もちろん、マヨネーズは別の容器に移してね。
「さて、サバ缶も廃棄したし、ご来賓の皆様に召し上がっていただく料理を作ろう」
彼は棚からレシピを取り出す。すぐに目を見開く。
「げっ! こんなにもマヨネーズ使うのかよ。ご来賓の皆様がマヨラーって噂ホントだったんだ。まぁ、ご主人様は世界マヨネーズ協会の会長だし、有名マヨネーズ販売企業の社長だから、仕方ないか」
世界マヨネーズ協会って何? でも、その人たちとはマヨネーズについて語り合えそう。そんな口、今のわたしにはないけど。わたしが味わえないマヨネーズは……いや違う。マヨネーズを味わえないわたしはわたしじゃない。食物連鎖のなかではわたしたち人間がトップだけど、マヨ連鎖というマヨラーたちの地位の中では、わたしは一番下。マヨネーズは一番上。一体、何を勘違いしていたのだろう。マヨネーズよりも優位の立場に自分がいるなんて。
前のわたしならマヨネーズと同じ立場にいることができたのに、マヨネーズを口に含めないとわかった瞬間、わたしはなんておこがましい勘違いをしていたんだろう。
彼は業務用冷蔵庫からマヨネーズを山盛り取り出す。
そんなにもマヨネーズがあるなら分けてほしいなぁ。まぁ、口にできないけど。
「この数少ないマヨネーズを何に使えるかな。まぁ、いっか。足りなければ足せばいいだけだし」
彼はそういうとわたしを掴む。
「まずはマヨネーズ和えか」
ほうれん草を大きなフライパンにぶち込む。それ以外にも色んな調味料を足しているけど、何かわからない。それらを炒め終わると、ボールに出す。すぐさまわたしをぶち込む。
気がつくと別の方向からその光景を見ることになる。先ほどまでは真正面だったけど、今は真横。
もしかして、わたしは他のマヨネーズを移ることができるの!?
口に出すと他のマヨネーズに移る。次から次へと休む暇もなく移る。視界が異常な速さで変わっていくせいか、気持ち悪い。でも、わたしの力のみで吐くことはできない。誰かに手助けしてもらえないとダメだ。
止まって!!
強く願うと視界が止まった。
もしかして、わたしの意思が反映されているの? えっと……なら、あそこのマヨネーズに移動して。
視界が変わる。
や……ややや……やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! わたしはマヨネーズになれるんだ! それがどんなマヨネーズでも変わらない。空の容器でない限りはそれになれるんだ!! よく考えたら、これってわたし以外は誰も体験できないことよね? ということは……わたしは……マヨネーズ
マヨネーズ万歳!! マヨネーズ
数十分後には残るはわたししかいない。もう、どうすることも不可能。でも、妙に充足感がある。やれるだけのことはやれた。マヨネーズがものすごい勢いで消費されているのを見ると、一種の快感があった。
「残るはコイツだけか……。足りるかな? まぁ、バレない程度にケチればいいか」
らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ケチっちゃダメェェェェェェェェ!! マヨネーズは少しでもケチったら、おかしくなるぅぅぅぅぅ!!
「な、なんだ? みょ、妙にケチったらダメな気がしてきたぞ……。もしかして、誰か見ているのか?」
わたしの意思が伝わったからか、彼はキョロキョロと辺りを見回している。
「でも、よく考えれば料理人として、ケチったらダメだな」
彼はホントにレシピ通りにわたしを使っていく。量が減るごとに力が抜け、意識が遠のいてくるが、それすら心地いい。
完全にわたしはなくなったのだろう。意識が消えていった。
♦︎
はっ!
目を開けてみると、また見たこともない場所にいる。先ほどいた場所とは違うみたいだ。でも、どこかのキッチンだとわかる。食器棚で自分の姿を確認してみると、やはり何も変わらない。
マヨネェェェェェェェェェェェズ!! ということはマヨボディーで無限ループ!! やったね!
マヨネーズ少女 紙本臨夢 @kurosaya
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