第27話 尋問

 騒ぎを聞き付けた村人達が次々と武器や農機具を持って集まってきたため、刀夜達は抵抗せずに捕まった。荷物を取り上げられ、腕を後ろで縛り上げられて村奥へと連れてゆく。


「痛い、痛い、痛いよぉ~」


 美紀が大袈裟おおげさに泣きながら訴えた。


「やかましい、さっさと行け!」


 美紀の腕をひねり上げている男がイラつく。刀夜は連行されながらも村の様子を伺って情報収集に余念がない。


 砦の中はまさしく村そのものと言った感じだ。木造建築の平家が大半で、押し上げ窓の隙間から女や子供達がこちらを覗いていた。


 村の中心を先ほどの川から用水路が敷かれて生活用水が流れている。


 干している洗濯物がまだ取り込まれずに放置されたまとなっており、その衣類は質素なものばかりだ。


 わんぱくそうな子供が大胆に家の扉を大きく開けて様子を伺っているが、今にも飛び出してきそうだ。


 どこかの家で夕飯の準備をしているのだろうか、やけにおいしそうな臭いがする。


 ここまでで家の数は目算で100件位。人口は300~500ほどか。かなり小さい村だと刀夜は判断した。


 丸い石畳の広場へと連れてこられた。広場の中央には丸い貯水があり、その前に刀夜達を座らせた。


 刀夜の目の前で取り上げらた荷物が乱暴に積まれてゆく。


 やがてよわい50から80歳くらいの集団がやって来た。恐らくこの村で権威けんいのある者達なのだろう。


 刀夜はどう切り抜けるか思考を巡らす。


「わしはこの村を預かっている村長のムンバだ。お前達は何者だ。なぜ橋の下で隠れていた?」


 梨沙が何か言おうとしたが刀夜が体を当てて止めた。


「ここは俺が話そう」


 刀夜は梨沙と美紀に喋らせたく無かった。ボロを出して余計に揉め事が増えそうな予感がしたからだ。


「今の俺達は放浪者だ。元々開拓調査団の一員だったが不思議な嵐にあってこの地に放り出された。あなた方からは見れば異国人という事になる」


 刀夜はしれっと嘘を交えて語りだした。平然と嘘をいう刀夜に梨沙と美紀は呆気あっけにとらわれる。嵐については嘘臭くなるが情報を得る為に正直に言うしかなかった。


「山中に放り出された俺達は仲間とはぐれた。俺達は運よくこの村を発見し、助けを乞うと思ったが異国人の我々が受け入れられるか分からなかったから様子を見たかったのだ」


「異国人? 異人とな?」


「そうだ」


何処どこの地の者か?」


「日本から来た」


 刀夜はこの世界の国の名前など知らない。出身国を漏らしたところで地図にも載らない小国だと言い張ればよいので堂々と母国の名をだした。


 だが刀夜は知らなかった。この世界に国家という概念はすでに滅んでいることを。だが肌の色の異なる異人は確かに存在はしているが、この辺りでは珍しい。


 ムンバ村長は彼の後ろにいる老人達となにやら相談を始めた。


「嘘だ、俺達を騙そうとしているに違いない!」


 突如大声を張り上げたのは最初に刀夜達と出会った金髪角刈りの筋肉隆々男であった。


「う、嘘じゃないわよ!」


 梨沙が刀夜の嘘に便乗する。


「へッ、俺は騙されねぇぞ!!」


「では俺達は何を騙そうというのだ?」


 刀夜はこの男を利用して情報の引き出しにかかった。取り調べの最中に割り込んでベラベラ喋るような奴だ。加えて頭も良いようには見えない。あおれば益々ますます頭に血が登って考える思考を失うだろうと。


「大方、村の畑を狙った輩だろうが!」


「よく取られるのか?」


「ふざけるな! アーグの襲撃に乗じて奪ってヤツらのせいに仕立て上げるつもりだったのだろう?」


「アーグ? アーグとは何だ? そいつらは人を襲ってくるのか?」


 質問のはずが逆に色々聞かれた為、男はブチ切れた。


「質問してるのはオレだぁぁぁああぁぁあッ!!」


 刀夜はやりすぎたと思った。この男は予想以上に短気すぎた。お陰で大して情報を得られない。その短絡差はどことなく竜児を思い出させるので不快感が募る。


「やめんか、ブランキ!」


「し、しかし村長よぉ……」


「お主はもう少し落ち着いて観察することを覚えい。よく見よ。そちらのおなごは金髪じゃが目は黒じゃ、他の者は髪も目も黒じゃ。この辺りにそのような者はおらん」


「そ、そうだが……」


 金髪角刈り筋肉隆々男の名前はブランキという名であった。そしてこの地には日本人のような者はいないことが分かった。


 刀夜はもっと情報が欲しいと思う。


「着ている服も実に珍しい。お主らの日本とかいうところはみんなそのような格好なのか?」


「いや、日本人の服装は様々だ。色々な衣装を楽しむ風潮ふうちょうがある」


「特に女の子はね」


 美紀が自慢げにする。刀夜は表情を変えなかったが内心は頼むからボロを出すようなことは言わないでくれとハラハラとしていた。


 ムンバ村長は刀夜達の荷物に目をつけた。村長はこれが鞄であることはそことなく分かるが、問題はその素材とハデな装飾品だった。


 素材は遠目で見ても明らかに彼らの知らない素材である。布でもなく触ればツルツルとしており、非常に薄い素材でできていた。しかも色が鮮やかで美しい。


 装飾品もカラフルな色彩で、特に精巧せいこうな細工が施されているものが目を引く。


 梨沙と美紀の鞄はナイロン性のディーバックである。天丘高校の女子の間ではこれが流行はやっていた。


 缶バッジやストラップ、ガチャ人形、シール、果ては自作アイテムと色々とデコレーションしてマイバッグと自己主張するのが楽しい。


 意外なのは梨沙もちゃかり流行りに便乗していたことだ。


「これはこの者達の荷物か?」


「はい、そうでさぁ」


「何とも……中身は確かめたのか?」


「い、いえまだですが」


「悪いが改めさせてもらうぞ。異人よ」


 男達がバッグをひっくり返すと出てくるのは、ハンドタオルにくるんだ果実と着替え、ペットボトル、コスメグッズ、財布、動かない携帯、イヤフォン、除菌シート……


 到底必要と思えないものがゴロゴロと出てきて刀夜はあきれる。壊れた携帯などどうするのかと。


 村の者たちにはどれも見たことのないものばかりで、質問攻めに合うが刀夜は適当に説明をごまかす。だが替えの下着をいじられると声を上げて二人が嫌がった。

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