NTG nonfiction -我々がソシャゲに飽きてはいけないたった一つの有り得ない理由。-

白米

第1話 Prologue

 ソシャゲに飽きた。理由はただそれだけだ。

昨今、スマホの発達に伴って職場では兎も角、日常生活におけるパソコンの需要が減ってきている様に思う。

 それに伴って衰退しつつあるゲーム媒体がある。

 『ネトゲ』だ。

 その単語は例えやったことがなくても大多数が知っているほどポピュラーだし、今も新しいゲームは出てきているしクオリティも確実に向上しているが、俺がまだ学生だった頃が全盛期であり、現在は盛り上がりに欠けると言わざるを得ない。

 多人数参加型RPGの醍醐味は、 身も蓋もなく言ってしまえば『俺TUEEE』だ。コンシューマゲームと違って終わりがなく、どれだけ時間を掛け、金を掛けたかがものを言い、他の誰かより強い実感を分かりやすく得られる。退屈なレベリングや素材集めを切り離せない以上、どんなに面白くとも飽きが来るのだからゲーム性なぞ二の次だろう。まあ勿論ゲームを始めるにあたっては面白いことが前提ではあろうが。

 ソシャゲが流行ったのはこの『俺TUEEE』を手軽に得られるからだろう。

  パソコンと違って手軽に持ち運べる媒体で、合間にポチポチやってれば何とでもなり、金さえ出せば簡単に上へ上がれる仕様は忙しすぎる日本人にハマりすぎるシステムであったのだ。

 人間、楽を知ってしまえばもう元には戻れないものだ。


 そも、求めているのが承認欲求であるのなら、人の多い方へ流れるのは必然というものだろう。誰しも持ってるスマホであればゲームに興味のなかった人であっても基本プレイ無料のソシャゲは手を出しやすく、ネトゲより人口の増加が容易だ。

正直、社会人となった今も未だ学生だった昔も無課金勢たる僕からすれば一枚のイラストと少しの優越感の為に何万もガチャで溶かす感性は理解できないのだけれど、金の使い方は人それぞれ、これはその典型だろう。

 僕だって、海外オークションサイトで趣味のアンティークな品々を収集事へ生産性は求めていないのだし。コロナ社の第三世代タイプライターとかモロ好みです。

 それは兎も角、僕もしばらくはソシャゲ界を彷徨っていた訳だが、ガチャの沼に飽きたのだ。正直いつもリセマラで燃え尽きるのだ。


 そこで原点回帰じゃないけれど、ネトゲに帰ってみる事にしたのだ。


 人間は楽を知るともう戻れないと言ったが、あれは嘘だ。ヌルゲーなんてお呼びじゃない、僕はゲームをしたいんだ。コミュ障でもっぱらソロプレイしか出来ず、無駄に難易度の上がるネトゲに帰るんだ。

 丁度、人間関係をリセットしたくて職場を変える予定だったので小休止を兼ねてのんびり就活しながらネトゲでもしようかなと。

貯金はある、人付き合いが無いから趣味に金を使っても貯金出来るくらい給料は残るんだ。


「うん、既存のゲームは超微妙だな……」


 ちょっとネットの海を巡ってみたが、ピンと来るのが全然無い。

 グラフィックとか誇られても困るわー……それに僕、マウス操作のゲームは嫌いなんだよね、やっぱコントローラー握りたいじゃない。僕のジョイパットが火を噴くぜ。


「おろ、βテスター募集だ」


 最新のネトゲだろうか? しかも定員が無く、自由参加でもう始まっている。

βテストで応募も何もないってかなり珍しいよな、もしかして全然人が集まんなくて変更したのかね。


 プレニードって聞いたことない会社だけど……公式サイトを見るにかなりいい感じの雰囲気だな、この『NTG』っていうゲーム。

 ちょっとやってみるかなー位の感覚でゲームをダウンロードする。このプレイするパソコンを選びますって感じの要求スペックと重たい容量が超懐かしい。

 懐かしいついでに昔やっててまだサービス終了してないゲームにも久しぶりに入って見るかな、ID盗まれてないといいのだけれど。


「……って、ネトゲでもリセマラかよ」


 よくあるファンタジー系のゲームだったのだが、職業選択の自由が無い。開始早々にやっぱりやめようかと思わされるキャラ作成時にランダムで決定されるクソ仕様だった。

 βテストだから色んな職業を使って欲しいからこそのこの仕様なのかもしれないが、ソロでずっと前衛職しかやった事無かったのにヒーラーとかあり得ないから。

 立ち回り以前にソロ不向き過ぎだし。

  ……って僕はゲーム始める前からもうぼっちでやる気満々かよ。


 まあボッチでやるかはさて置き、ランダムならランダムでどんな職業があるか確認してみるかな、公式サイトには『様々な職業が御座います』的な事しか書いてなかったし。

 キャラ作成、削除を繰り返せば良いだけだし、チュートリアルを超えなくて良い分楽だ。

 とかなんとか考えながら作成、削除をポチポチ繰り返す事二〇回で、出てきた職業は五つ。


『戦士』

前衛、筋力値が高く、魔力値が低い。

使用可武装、斧、槍、メイス等。


『剣士』

前衛、敏捷値が高く、魔力値が低い。

使用可能武装、剣、大剣、短剣等。


『武闘家』

前衛、筋力値と敏捷値が高く、耐久値と魔力値が低い。

使用可能武装、素手。


『魔術士』

後衛、魔力値が高く、耐久値が低い。

使用可能武装、杖、魔道書等。


『治癒術師』

後衛、魔力値が高く、耐久値が低い。

使用可能武装、杖、魔道書等。


 まあオーソドックスだよな。

 でもこれ、様々って言えるか? もっとあるだろ、多分。じゃなきゃジャロの出番だ。


 その後も暫く俺はポチポチソシャゲですっかり飼いならされてしまった反復作業を繰り返すのだった。剣士、剣士、戦士、剣士、武闘家、剣士、戦士、魔術士、剣士、剣士、武闘家、剣士、戦士、剣士、治癒術師、剣士、剣士、剣士、戦士、剣士————


 剣士出すぎ、ジャロを呼べ。







「な、なんだこのゲームは」


 面白すぎる。その後、なんやかんやあって最終的に十時間ぶっ続けでプレイしてしまって、神ゲー発掘の高揚感より空腹感が先行してしまっている。

 正直、リセマラで燃え尽きてしまう可能性も考えていたのだが、全然そんな事は無かった。ネトゲのストーリーで時に笑い、時に泣き、時に憤慨する日が来るなんて夢にも思わなかった。ジョイパットにヒビが入るんじゃ無いかって位力が入る程対戦に熱が入るとは思わなかった。しかもそれでいて、ネトゲ特有の自由度を損なっていない。

 『NTG』、βテストにして既に神ゲー過ぎる。


「これはあれだな、やるしかないやつだな。スタートダッシュ」


今までゲームに課金とかアホだろとか思って僕だが、これは本気を出さざるを得ない。βテスト中に予習して、サービス開始から突っ走るしか無いやつだ。

今までも神ゲーに出会ってきたつもりだったけど、ここまで課金を即決させるようなヤツは初だわ。マジ神ゲー。


「これは滑ったらいけない奴だ。ブログで宣伝しといたろ」


 僕、ボッチでコミュ障だけど実はネットじゃ結構有名なんだ。

 『キノハルのブログ』ってまんまな名前のサイト運営してて、ゲームを紹介したり、実況したり、イラスト投稿したり、歌ってみたり、踊ってみたり、深夜ラジオみたいにちょっとした悩み相談に応じてみたりして一定数から神とか崇められてる。普通に社会人だしアフィ目的でもないから更新頻度はそこまででもないけどメーターも結構回ってくれてありがたい事じゃ。

 ボッチ神と呼んでくれても良いのよ。

 コミュ力不足で社会適応能力は皆無に等しいが、基礎スペックはそこそこ以上にあり、存外なんでも卒無くこなせて且つ、文字列でなら雄弁に喋れて良い事なんかも言えたりしちゃう奴っておるじゃろ? それが儂じゃよ。

 ブログに良い感じに『NTG』の事を宣伝投稿しながら食事を摂り、早過ぎる反応に対応してお手洗いを済ませ、再度パソコンに向かう。


「さてキノハル、我が半身よ。出陣じゃ!」


 ちょっとテンションがおかしなことになっている。大体『NTG』のせい。

 キノハルはネットで僕が必ず使うハンドルネームだ。ネトゲ特有の『この名前はすでに使用されています』に引っかからなかったので、後ろに数字を入れたりローマ字にしたりしなくて済んだカタカナでのキノハルだ。


 あ、因みに最終的に俺が選択した職業は、これだ。


『モンク』

前衛、筋力値と魔力値と敏捷値が高く、耐久値がとても低い。

使用可能武装、素手。


 剣士地獄を抜けた先に来た、本来のモンクとは程遠い、修道士のモンクとは何の関係も御座いませんのファンタジー世界特有の回復できる武道家、『NTG』においてはソロに持ってこいのぼっちでなんでもできる系の職業だ。

 僕の運の問題で、実は全然レアでもなんでも無いのかもしれないが、トライアンドエラーを百回位繰り返した末に初めて出た職業なので、削除する気にはなれなかった。

 ぶっちゃけ、操作になれるまで死にまくった。

 前衛なのに耐久値が低くて回避に失敗してコンボ攻撃を食らうと一発で死ぬ。

 マジか、と思った。HPは前衛相当なのに一回の攻撃でガッツリ持ってかれる様は流石にゲームバランス悪すぎだろと憤慨した。

 でもその辺は基礎値の問題だし、防具が揃えばうっかり死ぬ事も無くなった。

 まあその辺のバランスの悪さを計算に含めても面白過ぎたから全部の職業試す気だけど、効率的な狩場とか見つけなきゃいけないし、当分はモンクかな。

 バフも自分で掛けれるし、回復もできる。プレイヤー側のスキル要求は高いけどこれは強いよ。

 ……ネトゲの基本は分担極振りだから器用貧乏型は最強になれないけれどね。



 最終的に僕はβテスト版の『NTG』を遊び切ったと断言できる。

 就活の事なんてすっかり忘れて、廃人まっしぐらである。

 紹介したブログ上での評価も上々、ネットニュースにも取り上げられたりなんかして、ネトゲが再熱するんじゃないかと思わせる程だ。


 そうして二カ月が経った頃だろうか、βテストが終了し、いよいよ本スタートする時が来た。


 僕はいよいよ来るサービス開始直前からパソコン前で待機である。

 ワクワクが治らない、公式でβテスト以上の体験を保証すると豪語し、一度始めればもう辞められないとまで書かれていた。

 物語もある程度は使い回しだろうが、あの続きを見たくないと思ったユーザーは一人もいないだろうし、もう一度見たいと思わなかったユーザーもいないだろう。

しかも、βテストプレイの特典として、職業はβテストプレイ中のものを選択出来るようになっていて、リセマラの必要もない。

 ……てかこれは本サービスでも職業ランダム仕様なのか。これだけが『NTG』の汚点だと思うわ。


 サービス開始まで後十秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一。

 僕はデスクトップ上の『NTG』アイコンをダブルクリックして、そして————



「……ふえ?」


 森の中にいた。


————THE OTHER WORLD! 木野 悠。

————WELCOME! キノハル。












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