第24話 考え過ぎずに、食べ過ぎろ!!

『「ここはいい所、魔階島!!

     挑戦者の皆さん、今日も一日、張り切っていきましょーう!!」

                魔階島観光協会所属 カキコマリ・カキコ』


迎えた魔階島の謝肉祭二日目


いつも人や活気に溢れる魔階島であったが、この日はより一層のこと人や活気で満ち溢れている。至る所で屋台や露店が開かれ、島中には何やらいい香りと楽し気な音楽が満ちていた。


そんな中、ギルド近くの大きな広場に設置されたとある会場では何やら大盛り上がりを見せている。そして、その盛り上がりに負けんばかりの大きな声が『拡声石』を通してこだまする。


『皆さ――――ん!!!謝肉祭、楽しんでいますかーーーーーーーー!!!!』


「「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」


『今年もやってまいりました!!!この大会!!!満員御礼、感謝感激!!本日の司会を務めさせていただきますは、「魔階島で知らないことは何もない(仮)!」魔階島観光協会記者ことカキコマリ・カキコでーーす!!そして~、本日の解説兼特別ゲストの方は・・・なんと、この方!!』


『はーい!皆さん、こんにちはー!!魔階島のアイドル勇者、ホイップ・F・クリームでーーす!!今日はよろしくお願いしまーーす!!』


「「「ホイップちゃーん!!ホイップちゃーーーーーん!!!」」」


『いやー、流石はホイップさん!大人気ですねー!!』


『本当に、ファンの皆さんには感謝の言葉しかありません』


「「「こっちも、いつもありがとうぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!!」」」


『えー、さてさて、そんな人気絶好調のホイップさんを迎えての今大会。数多の飢えた挑戦者たちを待つ、今回の獲物は・・・これだッ!!』


ドンッ!!


実況席に座るホイップの前の机に、この大会を飾る一品が本当にドンッという重たい音を響かせて置かれる。


立ち込める肉の香り、それを助長させる特製だれの匂い、分厚く切られた肉からはだくだくと肉汁が滴り特製だれと絡み合うと、下に敷かれたほかほかの米へと染み込んでいく。肉は盛りに盛られ丼から溢れんばかりに積まれ、肉と米の重さを受けてずっしりと重さを増したその丼はとても片手では待ち上がらない。


『今回の魔階島大食い大会の料理はこの”犇丼ひしどん”だッーーーーーーー!!』


モイモイからのたっての願い、トトマたちが参加したその大会は、魔階島のダンジョン産の食材を使った大食い大会であった。出場選手はざっと百人以上、皆がそれぞれチームに分かれ、一つの席を囲んで目の前の肉盛り盛りの丼をぎらついた目で眺めている。


『さぁさぁ、まずは大会を始める前に今回の食材と大会のルール、そして優勝賞品等についてご説明いたしまーす!!なので、ホイップさんはその間に犇丼をお食べくださいねー!』


『え!?・・・あ!は、はい!!』


言われるがまま、勢いよくガツガツと丼を食べ始めるホイップの横で、カキコは淡々と説明を始める。


『今回の食材はですね、ダンジョンに生息する”ギュウギュウ”と呼ばれるモンスターのお肉を使用しております。その肉は噛めば噛むほど旨味が増し、口の中がじゅわっと幸せで満たされます。ホイップさん?幸せですか~?』


『し゛あ゛わ゛せ゛でず!!』


『それは良かったですね~。そして、その肉を支えますのはこれまたダンジョンで採れた”ジャポン米”。見た目は地表にもありますお米のような植物ですが、水を加えて炊き上げることでお米よりもふっくらもちもちと美味しくなり、お肉の旨味を引き立ててくれます。ホイップさん?引き立ってますか~?』


『だっでまず!!』


『う~ん、良かった。他にも、お肉に掛けられた特製のたれや丼の器に至るまで、全てがダンジョンで採れた新鮮な物を使用しておりまして、それらはあちらの売店でお買い求めできますので、お土産にどうぞ~。さて、ここからは大会のルール説明に参ります。ルールは簡単!制限時間の30分内により多くの”犇丼”を食した者の勝利となります。最大5人のチームを組み、その中で最も多く食べきった人の丼の量で勝敗が決します。また、優勝者にはギルドの食堂で使える食事券一年分が進呈されますので、どうぞ張り切って食してくださいね』


「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」


『ただし!お残しは禁止!禁止ですよ!!もう無理な場合はしっかりと食べ終わってから合図をしてくださいね!!でないと失格ですよー!!・・・というわけなんですが、ホイップさん、犇丼はいかがでしたか?』


「・・・」


ホイップはこの短時間で見事に完食を果たしていた。だが、彼女は口を開くと何かが決壊して流れ出す危険性があったので、できる限りの笑顔を作って頷いていた。


(ホイップさんも大変だな・・・)


そんな彼女の様子を見て、トトマはしみじみとアイドル勇者の大変さを噛みしめたのであった。時には体を張るのもアイドル勇者の仕事なのかもしれない。


『あ~・・・、どうやら美味しくて言葉も出ないようですね!さーて、気を取り直して!お待たせしました腹ペコな挑戦者の皆さん!!それでは、いよいよ大食い大会の始まりです!!よーーい、開始!!!』


ドンッ!ドンッ!!


カキコの合図と共に控えていたスタッフが魔法を打ち上げると、会場中に開始の合図が鳴り響いた。それと同時に、この日のために腹を空かせ準備万端の各挑戦者たちはテーブルに置かれた”犇丼”へと手を伸ばし、次から次へと口の中へと放り込んでいく。


「ま、まさか大食い大会とはね・・・」


丼を片手に、ため息交じりでトトマは呟く。トトマの他に、ミラ、オッサン、カレル、そしてモイモイ以上の5人がチームメンバーである。だが、その士気は他のチームに比べて明らかに低く、一人楽しそうにしているのは立案者のモイモイだけであった。


「もう俺も大食いって年齢じゃないぞ・・・あと、酒が欲しい・・・」


「お、俺!頑張るよ!いくらでも食うから!!」


「いや~☆一回は出場してみたかったんだ~☆まぁまぁ、とにかく楽しんでいこうよ☆う~ん、美味しい☆」


用意された”犇丼”は確かに美味であった。魔階島にある各種料理店の店長が自分たちの店の宣伝のためにもこぞって参加し、食べる挑戦者たちのすぐ近くにて肉を焼き続けている。なので、焼きたての肉が丼へと盛られ、次から次へと参加者の下へと運ばれていく。


そして、その量は尋常ではない。食べても食べても肉であり、米と一緒に食べるには縁から削り取っていかないといけない。


「お前たち!いつも腹は空いてんでしょうが!どんどん食べて、私たちが賞品いただくよ!!」


「「へい!姉さん!!」」


(ん?あの人たちは・・・)


ふとトトマが目をやると、近くのテーブルでは物凄い勢いで肉と米を口の中へと掻き込む三人組が座っていた。彼らの名前は『参頭狼ケルベロス』。以前、トトマたちがダンジョンで見つけた宝箱を横取りしようとしていた盗賊集団である。そんな彼らも今では必死に丼に食らいついていた。


「ちょっと!パライ!まだご飯粒が残っているじゃないか!」


「す、すんません!?姉さん!!」


「ニューンも!散らかして食べるんじゃないよ、全く!!」


「すみやせん!!」


(まぁ、彼らも挑戦者だし、ここにいてもおかしくはない・・・かな?)


触らぬ神に祟りなし、トトマはそんな三人組のことは気にせずに丼を食べ続け、やっとことで一つ目を完食する。


その最中、トトマ以外にも『参頭狼ケルベロス』を遠くから見つめる男が一人、彼は観客に紛れて、大会の様子を外からちらちらと伺っていた。


「・・・あの馬鹿ども、ちゃんと作戦を理解しているんだろうな」


その怪しげなフードの男は、ひたすらに腹を満たしているような三人組を見て、呆れたように頭を掻く。


すると、会場の中ではなく、外にいる観客たちの中に何やらこそこそと動き回る二人組の男たちを発見すると、フードの男はニヤリと笑みを浮かべる。


「・・・いたいた」


フードの男は嬉しそうに呟くと、大会の様子が見える場所から再び人混みの中へとするりと消えていき、こっそりと二人組の後を追う。そして、会場から少し離れた裏路地に男たちが入ると、フードの男は彼らに気付かれない位置に身を潜めると耳をそばだてる。


「いや~、兄貴大量ですねぇ~!」


「あぁ、全くだ。大会様様だぜ」


その二人組の男が下卑た笑いをしながら大事そうに手にしている物、それは大量の紙束であった。そう、彼らはこの謝肉祭にて行われている大食い大会において秘密裏に賭け事を開催するその元締め、もしくはその仲間であったのだ。


勿論、大食い大会における賭け事などは主催であるギルドなどは許しているはずはなかったが、このようにして秘密裏に行われているものまでを取り締まることはできていなかった。


そんな非合法な賭け事の元締め関係者であるこの男たちは人目に気を使うと、ひそひそと話を始める。


「でも、大丈夫ですかね?」


「ん?何がだ?」


「いや~、あの大量のお金ですが・・・、誰かに取られやしないですかね?」


「馬鹿言うな!そんなことが起こらないように、ほら!”あれ”があるんだろうが!」


「あぁ!!兄貴が前に買った”あれ”ですね!」


「そうだ、そうだ。あの金庫を空けるにはこの特殊な鍵がいる上に、俺様しか知らない番号も知ってないといけない。それに、あれが保管されている船着き場の倉庫には腕利きの挑戦者たちを護衛につけてある。万全だよ、万全!」


「さっすが兄貴~!」


「ほら、いらねぇ心配してないで、ちゃっちゃと残りの賭け券を集めに行くぞ」


「へ~い、これで俺たちも大金持ちですね!!」


「だっはっはっは!!!」


そそくさと再び走り出した二人を見送ると、ひっそりと隠れていたフードの男はゆっくりと立ち上がる。


「・・・どうもご苦労様」


先程の二人組に聞こえない労いの言葉を掛けると、フードの男は颯爽と歩き出す。目指す場所は、二人組の話にも出た船着き場の倉庫。狙うは勿論、厳重に守られた中にある大量のお金である。


普通の挑戦者なら、普通の勇者であれば、厳重に守られた金庫を開けることも、その周りにいる金で雇われた腕利きの挑戦者を抑えるのも困難であろう。


だがしかし、このフードの男にかかれば、それらは彼の家に入ることよりも容易いことであった。


彼の名前はジョーカー。


魔階島の12人の勇者の内の1人にして、2番目の勇者。


その実力の多くを隠したままであるが、誰よりも長い間ダンジョンに挑んできたその腕は伊達ではない。


彼がいかにして金庫を開け、その中に隠された大金を奪い去るのかは、彼と彼にその力を与えた神々のみぞ知る。

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