春と秋

勝利だギューちゃん

第1話  ふたつの季節

新しい町へ、引っ越してきた。

この春から、この町への就職が決まった。

別にどの町でも、良かった。

ただ、元いた町から離れたかった。


俺はぼっちだったので、正直地元にいるのは辛い。

なので、この町に越してきた。

どうせなら、緑豊かなところがいい。


そして、この場所を選んだ。


就職先は、アパートから徒歩30分。

なかなか便利なところにある。


会社へ行く途中に公園がある。

帰りにその公園で、自販機で買った紅茶を飲むのが日課となった。


しばらくは静かだったのだが、ある日からピアノの音が聴こえるようになった。

なかなかの腕前だ。

初めのうちは、「ねこふんじゃった」だの、童謡が多かったが、

いつしか、クラッシックにランクアップされた。

「同じ人なのかな?」

疑問はあるが、いつしかそのピアノを聴くのが楽しみになった。


ピアノが始まる時間はいつも同じ。


俺が公園に腰かけた時、まるで見ていたかのように始まる。

どこで、弾いているのかわからない。

でも、俺にとっては至福の一時だった。


時間は、演奏する曲によって違う。

それも、楽しみだった。


ある日、いつものように、公園のベンチに腰を下ろし、

紅茶のキャップを取り、演奏が始まるのを楽しみにしていた。


でも、始まらない。

「あれ?何かあったのかな?まあ、気分の乗らない時もあるだろう」

そう思い、帰路に着こうとした時、


「あのう」

ひとりの女の子が声をかけてきた。

女子高生か・・・


「俺ですか?」

「はい。いつも聴いて頂いてますね。私のピアノ」

「知ってたんですか?」

「はい。部屋の窓から見えました。」

そういって少女は、マンションの一室を指差す。


「ああ、あそこに住んでいるんですか?」

「はい。両親と弟の4人家族です」

それは、訊いていないのだが・・・


「申し遅れました。私、秋野かえで、17歳A型です」

「ああ、よろしく」

「それだけですか?」

「えっ」

「私も名乗ったのだから、お兄さんも名乗って下さいよ」

そうだ・・・それが礼儀だ・・・

一応社会人なんだが、失格だな・・・


「俺は、春日冥(かすがめい)。22歳の社会人」

「当たり前ですが、私より年上なんですね」

「かえでさんは、いつも弾いているんですか?」

なんだか、少女は怒った顔をした。

俺、何かした?


「かえでと呼び捨てでいいですよ。それと敬語は使わなくていいですよ」

「わかった。かえで」

「うん、お兄ちゃん」

いきなり口調が変わったけど・・・まっいいか・・・


こうして、交流が始まった。

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